これにて閉幕
諸々の所用を片づけるのに二日程かかり、その後サンターリオ学園へと帰ってきた私達。
主にアビシオさんとエスセナさんの契約だったり、どれを劇場に残してどれを処分したり持って帰るかなどの作業だった。
とまあ、これでエスセナの周りを取り巻く問題は大体解決し、私達は今までの日常に無事戻ってきたわけだけど……。
「よーし、というわけでアタシ様達が映画撮影でぜんぜん魔法の研究やってる暇無かった間の分、取り返すぞぉ!」
「ふふん、憂いは断ったからこれで僕も万全の状態で参加出来るからね!」
「はいはい、今日もテンションが高いわね……ところで……。」
相変わらずなやり取り。
だが私にはどうしても気になっている事があった。
なのでストレートに聞いてみる事にした。
「何でジュビア先生がいらっしゃるのかしら?」
「……ん?ああ、私の事はあまり気にせずやりたまえ。まだ私が口を挟む必要は無いのだからね。」
「い、いや、気になるのですが……というか、まだ……?」
「あれ、マルニにはまだ言ってなかったっけ?」
「……?何をかしら?」
小難しそうな歴史書を読みながらいつものほぼ私達がほぼ占拠している空き教室の端で椅子に座っているジュビア先生。
何故こうなっているのか気になっていたが、その答えをウルティハとエスセナは既に知っているようだった。
……いや、何故こういう時にいつも私だけ知らされていない気がするのは気のせいだろうか。
「アタシ様達、ここで今までこの魔法研究をしていただろ?」
「そうね。」
「で、僕達の居場所を今回ジュビア先生に教えたわけだ。」
「今回映画の撮影に手伝ってもらったからそうね。」
「で、結果的にアタシ様達が普段ここで空き教室の占拠してた事がバレたわけだ。」
「あー……まあ、言われたらそうね。」
「そ・こ・で・だ。」
どや、っとした顔でウルティハとエスセナがバッ、とジュビア先生の方に手を向ける。
「ジュビア先生には、アタシ様達がクラブとして活動する時の正式な顧問として就いてくれるって約束したわけよ!」
「……何で???」
どうしてそうなったのかが全く分からない。
いや、気持ち的にはあのジュビア先生が顧問とか嬉しいとも思うのだが同時にソルスの攻略キャラであるジュビア先生が私の近くに居て大丈夫なのだろうかとかも思ってしまうしそもそもそういう事になった経緯がわからない。
「……私としても、魅力的な取引があった、という事だよ。」
「魅力的な、取引……?」
「あれから僕達で話し合ったんだ。」
エスセナが黒板にその内容を書いていく。
「まず僕達が求めた事は、この教室をクラブ活動の拠点として使う権利と、前にも言った王族の関係者の加入への交渉の取次役のお願いだね!」
「そして私が求めた事は……。」
カツッ、カツッ、カツッ。
エスセナが追加で記入していく。
「顧問として活動する事と、私の研究への金銭、人員的な支援だ。」
「ジュビア先生の研究……歴史の研究ですよね。それはまあわかりますが……顧問としての活動?」
「私もこのサンターリオ学園の教員として採用された身だ。だが、今まで研究を理由にクラブ顧問としての実績を積んでいなくてね……。その辺りを他の教員からも指摘される事も少なくは無い。そこで、私がここの顧問としての活動をする事で顧問としての実績も積み、ついでにその間研究の支援もしてもらえればどちらも捗る……というわけだ。」
「なるほど……?」
そう聞いてそういえば納得する理由も実はある。
というのも、原作でジュビア先生のルートに入る理由に、顧問などの実績も無く教員としての仕事以外は研究に没頭している、というのがあった。
そう考えると、楽して顧問としての実績を積めて自分は好きに研究に没頭出来るという環境gああるならそれは確かに利用するであろうというのは私でも理解出来る。
……なんかさらっとこのままだとジュビア先生のルートにソルスが行く可能性が下がった気がするが、まあそれは別のルートに行くようにフォローすれば良い筈だ……恐らく。
「そういうわけだ、まあわかっているとは思うが私は基本的に放任主義だから私に迷惑をかけない程度なら自由にやりたまえ。」
「な?アタシ様達にぴったしな顧問だろ?」
「それはまあ、そうね……で、クラブを作るには人員不足だけど、その王族関係者から誰かを入れるって算段なわけね?」
「そーゆー事!」
「というわけだ、まあ教室以外でもよろしく頼むよ、マルニーニャ嬢、ウルティハ嬢、エスセナ嬢。」
「え、ええ……よろしくお願いします。」
「にしても、今回は僕にだいぶ付き合わせてしまったね。皆……本当にすまない。」
「セナ、そういう時はごめんじゃなくて?」
「……ああ、ありがとう、皆。マルニはフレリスさんにも伝えて置いてくれ。」
「ええ、それはもちろんよ。それに、何だかんだ楽しかったのも事実だから、そんなに深刻になりすぎなくても構わないわ。」
「あ、そうかい?ならこれで話は終わりという事で……。」
「調子に乗りすぎもいけないわ。」
「……マルニーニャ嬢、君達は毎回こういうノリなのかい?」
「ええ、大体いつも私が振り回されて……。」
「なんだいなんだい、これでも僕は感謝してるんだよ~?」
昨日までの忙しさが嘘だったかのようにすっかりいつものノリになっている皆……特にエスセナ。
相変わらずな日々が戻ってくる事にやれやれ……と思うのと、同時に、私は結構安心しているというか、何だかんだ楽しいと、心地良いと感じていた。
悪役令嬢に生まれ変わって闇属性持ちで来年には破滅するであろう運命だけど……それまでの時間を、こうやって笑顔で過ごす事が出来る時間がある事を。
こんな風に前世ではあまり出来なかった、友達と笑い合いながら学生生活するという事を。
……もし、次の来世があるとして。
それが、今世のように転生して生まれ変わる事が出来るかもわからない。
そう考えると、今世は前世で早く死んだ自分の余暇のような時間なのかもしれないけれど。
破滅が待っているとしても、この人生を楽しんで生きて、ソルスを守って生きるか、ソルスの為に破滅するか。
そんな人生を歩んで行こうと思う。
だから。
「……全くもう、仕方ないわね。」
そんな風に、つい私は笑いながら言ってしまうのであった。
「フレリス、帰ったわ。」
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「ええ。……フレリスも、本当にお疲れ様ね。」
「これくらい、私が見込んだお嬢様の為ならばお安い御用です。」
「ふふ、無理はしちゃ駄目よ?」
「ええ、お嬢様こそ。」
私は自室に戻ると、フレリスと話す事にした。
夕食前に軽く話でもしたいなと思ったのだ。
私が椅子に座ると、それを察したのかフレリスも話したかったのか。
恐らく両方であろう、向かいにフレリスも座った。
こうやって対面で話し合う時は、立場の関係は無い。
「フレリスも演劇デビューなんて思いもしなかったでしょう?」
「そうですね、コミエドールに居ても観る機会すらほとんど無かった物に私が出る事になるとは……お嬢様と居るのは退屈しないですね。」
「そうね、私だってここまで手伝ってもらう事になるとは思わなかったし……フレリスにはだいぶ苦労をかけたわね。」
「構いません、私も楽しんでやっていましたし、お嬢様の役に立てたのならメイド冥利に尽きますし、それに……。」
「それに……?」
きょと、と私が首を傾げる。
するとフレリスは軽く決め顔で返した。
「いざという時は演劇で食っていくというのもありだなと思いましたので。」
「……それって、本気かしら?」
「冗談です、マルニお嬢様を真の令嬢にするという役目が私にはありますので。」
「……フレリスだったら普通に出来そうだからちょっと怖いわ。美人だし。」
「お褒めに頂き光栄です、お嬢様。」
いやまあ、確かにフレリスは劇場での発表の後、何個かの劇団員からスカウトされたりしていたし、フレリスは頭も顔も良いから普通に人気な役者になりそうだから……。
つい私は苦笑するしか無かった。
でも、それくらいフレリスもただのお手伝いの範囲にとどまらない活躍をしてくれたのは紛れもない事実だ。
「でも、本当にありがとう、フレリス。貴女が居てくれたお陰で、エキストラとしてコミエドールの人達を呼ぶという案も採用出来たし、映画に出てくれたりしてくれたお陰で私達は乗り越える事が出来たわ、エッセやウルティも感謝していたわよ。」
「私はお嬢様の為にこの学園にメイドの代表として着いてきたのです。ならば、私が出来るお嬢様を支えは全てやります。……これだけ仕えがいのあるご主人様は、私にはお嬢様だけです。」
「フレリス……。」
私は感動のあまり、何も返せなくなってしまう。
ふふ、とフレリスが笑った。
「ですがまあ、何もご褒美が無いのは確かに残念なので、今日の夕食は私の好物で、という事で。構いませんね?」
「ふふ、ええ、もちろんよ。フレリスの料理ならとても美味しいから。」
微笑み返して、返事をする。
それを待っていたとばかりに、フレリスは立って夕食の準備に向かった。
「それでは、夕食の準備をさせていただきますね、お嬢様。」
『お疲れ様です、マルニ様!』
「ええ、ありがとう。無事帰ってこれたし、事は丸く収まったしで……疲れたけれど、何とかなって良かったわ。ソルスの方は、特に何も無かったかしら?」
『うーん、そうですね……あ、そういえばっ。』
「?何かしら?」
『前に私が言った言葉、もしかしたら間違いじゃないかもしれないですっ。孤児院に、マルニ様派の騎士や魔法使いの方々が来て、私達の訓練や魔力の測定を診断してくれたんですけど、私とアル君、特に私は潜在魔力が凄いからもしかしたら将来物凄くなるかもって!』
「……そうなの、それは確かに嬉しい事ね。」
それはそうだろう。
ソルスの来年から辿る運命の事を考えれば、潜在能力が高いのは当たり前の事だ。
当たり前の事ではあるが、それはそれとして喜ばしい事ではある。
……残りの時間が少ない事を実感するのは少し寂しいけれど、ね。
『はいっ!もしかしたら私も騎士としての才能もあったら、マルニ様を守る事も出来るのかな~、なんて、えへへ、ちょっと調子に乗りすぎですかね?』
「こら、私が騎士になろうとしているのに、騎士を守る為に騎士になろうとするなんて意味が分からないでしょう?それにソルスは勉強もしっかり出来るんだから、その才能を捨てるのは惜しい事よ。貴女はしっかり勉強してサンターリオ学園に入学しなさい。」
『えへへ、マルニ様に叱られたけど褒められちゃいました!ふふ、嬉しいな~…っ。』
「全くもう、仕方のない子なんだから……。」
そう言いながらも私は確かに全く怒っていなかった。
むしろ確かに褒めていたかもしれない。
全く、ソルスと話すとついこうだ。
叱っていてもつい可愛くって褒めたくなってしまう。
私の心を微かに過った寂しさも何処かに吹き飛んでしまいそうだ。
『とはいえ、本当に良かったです。まだウルティハ様にもエスセナ様にも会った事も話した事も無いけれど……マルニ様のお友達が、これからもマルニ様と一緒に過ごしていけるなら、こんなに嬉しい事はありません!』
「そうね……色々大変だったけれど、今回の経験を通して二人と本当の意味で友人になれた、そんな気がするわ。」
『本当の友達……かあ。』
「……何か、気になるかしら?」
『ああいえ、その……孤児院の皆、特にアル君とは仲良しだけど、友達というより家族って感じですし、コミエドールの人達ともマルニ様やフレリスさんのお陰で仲良くはなったけれど、同年代の友達、みたいな人は居ないし……そう考えると、学園生活で友達作り、って、やっぱり憧れちゃうな~って思いまして!』
「ああ、なるほど、そういう事ね。」
アルデールと友達のまま、というのは私としては少々困る気もするが、それを私が口出しするのはそれも少々違う気がするのでそこについては触れないでおこう。
なのでたまには軽くからかっておこう。
「ふふ、私は友達とは違うのかしら?」
『へっ!?え、えっと、マルニ様はえっと……!!』
通話越しでも分かるくらい、ソルスの真っ赤であろう顔が浮かぶ照れる反応。
つい私はニヤニヤしてしまう。
もしかしたら、今はちょっとソルスに見せるにはだらしない顔をしているかもしれない。
『そ、その、マルニ様は……マルニ様は……!』
「ふふっ、じょうだ……」
『マルニ様はっ!そのっ、友達や家族より大事な存在ですからっ!!』
「……っ!!?」
「『……~~~っっ!!』」
完全にカウンターを喰らった。
私の顔は今は間違いなく真っ赤であろう。
令嬢の顔なんて取り繕えないくらいに、今私の顔が熱いのを感じる。
私も、そして通話先のソルスからも声にならない声が出ている。
多分言ったソルスも恥ずかしいとか照れとかで真っ赤なのかもしれない。
想像したいが思考する余裕が無い。
「~~……っ、きょ、今日はこれくらいで寝ましょうか、ソルス!」
『そ、そうですね、おやすみなさい、マルニ様!』
「え、ええ、おやすみなさい、また明日!」
なんだかお互いもうこれ以上は照れで限界になってしまったので早々に通話を切った。
私はすぐさまブローチを片づけてがばっ!と布団を被って寝ようとする。
だが、当然すぐには寝付けない。
照れと恥ずかしさと……込み上げてくる嬉しさに顔は熱でもあるかのように熱くなり、嬉しさやらなんやらでテンションが上がって身悶えする。
(ソルス……可愛すぎてそれは反則よ……もうっ、もうっ……~~っ)
明日が急ぐ用がある忙しい日じゃなくて良かった。
ちょっと今日は、すぐには寝られそうにはなかった。
予想よりずっとずっと長くなってしまいましたが、これにてウルティハ&エスセナ編完結です!ちょっと長くなってしまいましたがその分百合成分もマシマシで書けて良かったです!ここまで随分かかりましたが、ここまで書けて良かったです。それもこれも、支えてくれる周りの方々、そして、何より読者の皆様のおかげです、いつも本当にありがとうございます!ここから少し番外編を挟むか、もう夏も終わってしまったのですぐに次の章に入るかはまだ考え中ですが、これかも頑張ってマルニとソルス達の物語を書いていこうと思います。これからも頑張って行きますので皆様、どうか応援よろしくお願いします。そして改めて、皆様本当にいつもありがとうございます!!




