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クレアシオ・プリカシオ その2 

レモリーノ・スタッフルームの最奥、アビシオの専用ルーム。

そこにアビシオとエスセナは居た。

マルニ達は他のホテルスタッフ達と共にスタッフルームに特別に入れてもらって待っている。


「さて、エスセナ。お前の今日の発表、まずはお疲れ様だった。」

「はい、お父様。」


エスセナも流石に緊張で肩に力が入っている。

やるべきことはやった、やり切った。

だから後はその結果を待つだけなのだが……オーディションだったら受かって当たり前の気持ちで居る筈なのにこういう事は慣れないというか、どういう気持ちで居れば良いか分からない、というのがエスセナの今の気持ちだ。


「……まずは、映画という新しい技術の発表、見事だった。あんな革新的な技術の発想、インベスティの令嬢達の力添えも小さくは無かっただろうがそれでもあんな物の発想が今まで無かった。そしてそれを上手くシレーナの利益にも繋げてくれるように誘導した。見事だ、感謝する。」

「いえ、私達の思いつく限りの事をやっただけですから、それがそういう風になったのなら嬉しいです。」


まずはほっ、と一つ安心の息をつくエスセナ。

もちろん技術や人員、という物を考えると、すぐに導入というわけにもいかないだろうし、劇団の人達が映画という選択肢を取るか、その結果どういう風に発展していくのか、それともまだ早すぎた技術になるのか。

それはまだ分からないが、新しい選択肢の提示という形でこのシレーナの、レモリーノの、アクトリス家の発展の貢献が出来たのならば第一関門は突破、と感じている。


「それで、今日お前が見せた映画、その脚本もお前が書いたのだったね?」

「っ、はい……。」


いよいよだ。

映画という選択肢の提示は、あくまでもアクトリス家としての貢献と価値を示す内容。

問題の、エスセナの演者としての価値を示す、そうして女優としての道を絶たせない。

それこそが今回の最大の目的だ。

エスセナは気持ちを強く持つように、心に喝を入れた。


やがて、アビシオは口を開いた。


_________________________________


私達はエスセナが戻ってくるのを待っていた。

ウルティハも流石に緊張が全く無いわけではなく、妙に顔が引き締まっていた。

スタッフの人達も、エスセナが女優として演技を続けてほしい、と話していたのを聞いた。

エスセナは、私のような悪役令嬢と違って周りの人々からも想われている。

だから、スタッフの人達も集まってアビシオ様の部屋を見守っている。

私達は緊張のあまり皆言葉も無く無言の時間が続いていた。


やがて、その緊張の静寂をドアの開く音が破った。


「っ、セナ、どうだった、どうだった!?」

「エッセ、結果は……。」

「エスセナ様!」

「エスセナ様、アビシオ様は何と……!?」


私達は一気にエスセナに詰め寄る。


「も、もう、皆気持ちが逸りすぎだよ。落ち着いて。」


エスセナは苦笑しながら私達を落ち着かせようとする。

それに少し落ち着きを取り戻し、私達やスタッフの人達は一歩下がる。


「それで、セナ。結果は……。」


「ああ、そうだね。結果は……。」


________________________________


「私も観ていたが、正直肝が冷えたよ。闇属性を使うオスクリダ家の令嬢と友達になったとは聞いたが、まさかその友人を主役にして闇属性を肯定的に描く物語を書くだなんて、私だったら恐ろしくてとても出来ない発想だ。それに、これはお前の進退を決める内容だったのにお前を主役にしないだなんて。諦めた……というわけではなかったみたいだが、これはどういうつもりだ?」

「……その質問に納得出来る答えが出せたかはわかりません。ですが、私なりに思う事はあります。いいですか?」

「構わない、答えたまえ。」

「ありがとうございます、お父様。」


エスセナはしっかりと、アビシオを見つめて答える。


「もちろん最初は私が主役の物語のつもりでした。そうしなきゃ意味がない、と。でも脚本を書いていて思ったんです。私の傍に居る友達の事を想う脚本を書くのなら、私は必ずしも主演である必要は無い、もっと相応しい役が存在して、それが今回は私は友達を支える役に回る事だ、と。」

「……確かに、助演という言葉もある、主演だけが居れば作品は成立するというわけでは無く、それを支える脇役の存在も必要なのは確かだ。」

「はい。これまでの私は主演が当たり前でした。舞台で一番目立つスターで在りたい、それこそ理想の女優だと。それは今も、正直あまり変わっていないかな。」

「……ほう?」


アビシオが興味深げに見つめる。


「でも、今回自分で脚本を書く事で、考える事もあった。私が伝えたい事……例え闇属性が無くても、人は何かしらの理由をつけて人を弾きものにするし、闇属性を持っていても普通に良い人も居る、と。そういう人達でコミュニティを作っていいんだし、そういう人達がいずれ認めてもらえる事だってあるかもしれない、と。」


「そうしたら、私が主役であるべきじゃなくて、マルニが主役であるべきだって思ったんです。それを最も経験して、それでも優しくって、そんな人だからこそ出来る表現もあるかも、って。」


「それで、なら自分は友達としても演技としても支える立場になるべきだって思って、だから自分を主演にしなかったんです。」

「……まあ、言い分の理由はわかった。……それで?それに何か見出すことは出来たか?」


エスセナは声色で、そして目の色で理解した。

今、この質問は、演者としての自分では無く、アビシオの娘として、聞かれているのだと。

だって、その声色も、視線も、どこか優しかったから。


「はいっ。先輩として演技を指導する事も大変だったし、脚本の変更に合わせて自分の演技も変更したり、作品を支える側の立場って想像よりもっと大変でしたけど……でもっ。」


「作品が良くなっていくのを感じて、皆で前に進んでいって、完成した時の喜びはそりゃあもう言い表せなくって!ああ、やっぱり僕は……。」


「僕は、私は、演劇が、演技が大好きだなって!」


「だからこそ、やっぱり僕は主役で居たい!舞台の中心で輝いていたい!舞台に輝き、人々を導く星で居たいなって!……そう、思ったんです!!」


「……そうか、……そうか。」


「エスセナ。私の中で答えは決まった。答えは……。」


_________________________________


「……結果は、合格だ。もちろん、これから経営の勉強もするって条件付きではあるけどね。」

「……つまり、成功……って、ことかしら……?」

「ああ、そうなるね。」

「っしゃあ!、流石はアタシ様とアタシ様の親友!」

「本当ね、おめでとう、エッセ。」

「おめでとうございます、エスセナ様!」

「本当にエスセナ様、おめでとうございます!」


ウルティハやレモリーノのスタッフの人達はわっと喝采をあげながらエスセナ様にくっついて祝う。

「ちょ、ちょっと、僕も倒れちゃうじゃないか…!」と大変そうにしながらもその祝福を嬉しそうに受けるエスセナであった。


「それで、条件の勉強って大変なのかしら?」

「あ、ああ……学園に居る間はあくまでも基礎的な勉強を真面目にやるならいいって。学園を卒業したら演技の道をやりながら経営も本格的に勉強して、いずれお父様が一線を退く事になったら経営しながらフェ・クレアシオを中心に演技の活動をするのも良いんじゃないかって事になったよ。まあ、僕はもちろんもっと偉大なスターになるつもりだけどね!」

「流石はアタシ様の相棒、それくらい夢はでっかくないとな!」

「……アビシオ様も大変そうね。」


私は親友コンビの相変わらずな様子に苦笑しつつも心の中では安心していた。

私が主役になる、と聞いた時は心配になったが、それも上手く運んだ事に安心したのだ。


「こほん。」


エスセナが一つ軽く咳払いをして、にこやかな表情から真剣な表情に変わる。


「映画に協力してくれた皆、今まで僕を支えてくれたレモリーノのスタッフの皆や、ここに居ないフェ・クレアシオのスタッフ、僕に演技をさせてくれた人々、アクトリス家の人々。僕は、お父様を納得させる、僕の『価値』に辿り着けたのは間違いなく皆が居てくれたお陰なのは、間違いない事実だ。だからこそ、言葉を飾らず、素直にこの言葉を、私から言わせてもらうね。」


「本当に…本当に、ありがとう、皆!」


演劇という幾つもの仮面を被る世界にこれからも突き進む事を決めたエスセナの、飾りっけの無い心からの感謝の言葉と笑顔は、可愛らしい、素直な少女の輝かしい表情と言葉だった。


これにて、私達の本当のクレアシオ・プリカシオは閉幕した。

普段はあまりランキングとかは見ないんですが気づいたら様々なランキングにランクインの通知が…!本当にありがとうございます!これも読んでくれる読者の皆様のおかげです!もちろんこれからも書き続けるというのは変わりないですが、こうして結果が出ているというのを実感すると俄然やる気が出てくるのは間違いないです!これからも皆様に面白いと思っていただけるような作品を書き続けていけるように心身共に気をつけながら頑張ります!マルニ達の物語も、ようやく一つの山場を越えたので、この世界のキャラクター達共々どうかよろしくお願いします!

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