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クレアシオ・プリカシオ 閉演 その1

心にどこか冷めない興奮を抱えたまま、私達は発表会「クレアシオ・プリカシオ」を終わった。

私達は撤収準備をしていたがエスセナだけは女優業として今後の為に、と他の発表を見る事にしていた。

私が見ても、多分分からない事ばかりだとは思うが、それでも一応関わった身として観ておきたい、という事で、私達も撤収準備が終わったら観覧席で見る事にした。


そして、発表会が終わって一般客が皆帰った後、交流会が行われる。

交流会、と言っても、貴族が交友を深めるような晩餐会のような物では無く、お互いが発表した物を話し合ってより有効的な使い方を考えよう、という趣旨の方が強い。

というわけで私達は集まって、固まってその交流会に参加する。

参加、と言ってもエスセナ以外はほとんど素人だから大体の他の劇団や役者達の話はエスセナが質問したり受け答えする形になった。

私達がやるべきは、自分達が質問される番になった時だ。


「では、次はサンターリオ学園の方々、質問会を行います。」

「はいっ。」


代表であるエスセナが声を上げる。

さて、ここからだ。

どんな質問が飛んでくるかはわからない、が、予想出来る質問、という物は存在する。

特にそれは私に関する質問である可能性が高い。

つまりは質問によっては私が答える必要のある物な可能性もあるという事だ。

気を引き締めろ、私。

早速劇団の一人から手が上がる。

確かあそこのの劇団は演出に関する発表をしていた。

それに続いてか幾つかの劇団の人も手を挙げて質問が続いた。


「脚本の内容については後から聞くとしまして……今回の新しい演劇の『映画』、という新しい形は確かに感動致しました。」

「ありがとうございます、新しい可能性としての提示が出来たなら何よりです。」

「今回の発表は確かに革新的でしたな。演劇の演出として魔法を使うという事は有りますが、そもそも魔法を使って記録を魅せる、というのは私達には全く存在しない発想でした。」

「私達も、この発想に至ったのは様々な偶然が重なったからですから、私達の実力だけというわけではありません。」

「ほほう、その偶然、というのもまた気にはなりますが……私達のとって重要な点はそこではありませんな。私達が考えるに、今回の発表は確かに革新的では有りますが、幾つか実用化において問題点がありますな。」

「そうですね…魔導機やスクリーンといった、安価ではない機材の必要性と、魔導機の調整という魔法にある程度適正のある人員の必要性、といった所でしょうか。」

「それに加えて、今回の撮影の内容を見たあたり、アクション的な撮影をするために、特に魔物を対象にした物の場合はそれを直に撮影しなければいけない危険性、という所もですかな。他にもいくつか気になる所もありますが……その辺りは、どうお考えでしょうか?」

「そうですね……まずは機材についてですが、確かにその開発、もしくは購入というのは難しいというのは否定は出来ません。私達がこういう機材を用意出来たのもある程度の地位ある貴族だからという点がある、というのjは否定は出来ませんね。」

「でしょうな、大きい劇団やフェ・クレアシオのような大きな劇場がある街なら魔導機やスクリーンの導入は出来るかもしれませんが、中小の劇団や個人所有は難しいでしょうな。そしてそれを調整して映画を見せれるようになる為にはある程度魔導機に精通した魔法が使える人員も必要であり、そしてその映画の撮影もするにも小型とは言え魔導機が有った方が確実である……なかなかコスト的に割りに合うかも分からないというのは大きいですな。」

「確かにその問題点については確かにすぐには解決、というには行かないですね。魔導機も段々ローコスト化や量産化が進んできているとはいえ、大型になるとまだまだ高いのも事実。かと言ってこの技術をこのまま使わないというのは、せっかくの新しいチャンスを無駄にする……。そこでですが、まずはこのフェ・クレアシオのみでの限定的な共用運用、というのは如何でしょう?」

「ほう?」

「そもそもスクリーンや魔導機はこのシレーナでの共用物にして、撮影をする為の小型魔導機のみは各自で用意。もちろん、魔法自体も共有する事で、皆さんが共有する技術にするんです。そうしてシレーナでの新しい演劇の形として広めていき、段階的に他の劇場にも導入していく、劇団によってはその劇団専用の物を用意する、という形にするんです。」

「なるほどまずは発表した代表としてアクトリス家が試験運用する、という事ですな?」

「そういう事です、それに加えてもう一つの問題……撮影時の危険という点ですが、こういう方法もあります。」


そう言うとエスセナは「グラン・アクト・セナ」の魔法を使って皆にとある記憶を見せて共有する。

それは、撮影中の魔法を弄っていた時に偶然気づいた物だった。

魔導機での投写により、イノシシ型の魔物の姿が映る。


「これは?」

「これは、この魔法……『グラン・アクト・セナ』の魔法を使っていた時に、魔導機に入れた記憶に、魔法の調整をする事で、映像の魔物を生み出すという事が出来る事がわかりました。」

「確かこの魔法は、人の記憶や魔導機で記録した情景を、映像等として見せる魔法でしたな。なるほど、それで魔法を調整する事で実際の魔物と戦っているように魅せる、という事ですな?」

「ご理解が早くて助かります。それに加えて、魔物だけでは無く物の投写をする事で道具の用意何かもやりやすくできるかと。」

「なるほど……。」


劇団員達の質問に対するエスセナの受け答えに、周りの人達は軽く唸っていた。

幸運な事というか、意地の悪い質問よりももっと表現に対して真摯な人達が集まっていたのもあって、技術などの質問を求めていた人達はだいぶ納得してくれたらしい。

(流石にこういうのは慣れているな……)と感心していた所であった。


「え、えっと……技術的な話はある程度纏まったという事で、聞きたいことが……。」


先程質問していた劇団とは違う劇団の女性が手を挙げる。

確かあの劇団は、脚本の展開における感情の動きをデータ化した、心理学的な発表をしていた所だった筈だ。

つまり、脚本内容に力を入れている。

だから、触れないというわけには行かなかったのだろう。


「今回の映画、『やがて闇の聖女と共に』、大変興味深い内容でした。その映画の内容に関するマルニーニャ嬢のお心も聞いていて、今までに無い発想に感心致しました。演劇に関わったのは初めてでしょうに、大変だったであろうとお気持ちお察し致します。」

「ああ……ありがとうございます。そうですね、完全に私にとっては門外漢な事だったので稚拙な演技だったでしょうけど、皆さんの心に何か残す物になったなら嬉しいです。」


私に声が掛かってきて、少し驚くもなるべく令嬢モードの顔を崩さないまま受け答えを行う。

質問をしてきた劇団員の人は純粋に興味深そうに質問をしてくる。


「ですが、今回は『映画』という新しい技術の発表という大きな発表もあるのに、更にこういうかなり挑戦的な内容の作品にしたというのは、少々危険な賭けだったような気もします。それだけの挑戦をする必要性は無かったのでは無いでしょうか?もっと、万人受けするような内容も選択肢にあったと思いますが……。」

「それに関しては……。」


私は、周りの皆の顔を見る。

皆は、頷いてくれた。

今は、私の気持ちで伝えていいらしい。


(うん、分かった。)

そう心の中で思いながら、私は考えを纏めながら答えていく。


「……今回、エスセナが結果を出さないといけない事情があった、というのも理由の一つです。最初は、そこから始まったんです。」

「結果を出す……というのなら、映画の開発というのは一人の役者としては大きな結果だとは思いますけど?」

「確かに、技術的な実績という意味ではそうかもしれません。ですが、それと同時に、女優としてのエスセナの存在の必要性も必要だったんです。」

「ふむふむ……?」

「エスセナが脚本を書いたのも、エスセナという女優の世界観を表す為です。そして、エスセナという存在の表現の為に、私という存在も必要だったんです。……皆さんは、エスセナが貴族の社交界での評判はご存じですか?」

「……そうですね、ある程度、噂くらいは。」

「私、エスセナ、ウルティハ……それと、ウービエント家から実質追放されたジュビア先生も、社交界ではあまり良い立場とは言えません。というか、ハッキリ言って弾かれ者です。」

「……そうですね。でも、私達は女優としてエスセナ様を敬意を持っています。」

「そこなんです。」

「……??」


私の言葉に首を傾げる劇団員さん。

私は軽く微笑みながら言葉を続ける。


「私達は、貴族とはいえ世間から弾かれた者です。弾かれる人々にも色々な理由がありますが、私の闇属性は……弾かれるのに仕方ない理由では無いと思ってくれているんです。私という個人を観てくれて、そう思ってくれているんです。そして私も皆の事を、同じように想っているんです。」

「……。」

「そういう風に、世間や人々から弾かれ者になっている人々も、カテゴリーや区分という物では無く個として観れば、新しい出会いや新しい見方が出来るようになるかもしれない。そういう事を、敢えてこの国における最初の映画で見せたかったんです。」

「……なるほど。」

「もちろん、この主張に反感を持つ人も居るでしょうけど、観てくれた人達の中で少しでも、小さくても、意識の変化が起きてくれたなら、私達はそれで良いと思います。映画も、映画の内容も、新しい一歩、挑戦の一歩にしたかったんです。」

「……私達は社交界の場とは縁が遠い存在ではあります。だから、あくまでもこれは一人の演劇に関わる人間として、そして私個人の意見ですが。」


「私は、エスセナ様、マルニーニャ嬢、ウルティハ嬢達の勇気ある挑戦を、素晴らしいと思いました。私に、私達に、皆さんの主張をしてくれて、本当にありがとうございます。」

「……こちらこそ。声を聞いてくれて、ありがとうございます。」


私達は微笑みあった。

先程話した意味は、この映画をやる意味は、確かに在った。

それがわかっただけで、私達のやるべきことは達成された。

そう感じた。


後は、エスセナにどう評価が下されるかだ。

体調に気をつけようとしてすぐに二回目の夏風邪を引いて高熱にうなされて居ました。おかげで夏には番外編で水着回を書きたいという野望が……。まあ、まだ暑いから水着回を書いても良いし真冬に水着回書いても良い…ですよね?本当にすみません、体調に気をつけてこれから頑張って書きます……。

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