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クレアシオ・プリカシオ その3

「改めて……私は、マルニーニャ・オスクリダを含むオスクリダ家の血を引く者は、闇属性の魔力を持っています。」


言いながら、指に魔力を込める。

指の上に小さく闇の黒い紫の魔力が見えて、人々はざわざわと騒ぐ。

その反応を予想済みだった私は魔力を消して、話を再開する。


「世界において、闇属性の魔力は心の闇の証である、というのはこのインフロールの国において当たり前の常識であり、当然の認識であるというのは、わかっています……きっと、この劇場に居る人達の、多くの人よりは、それを実感していると思います。」


その言葉に、反論の言葉は返ってこなかった。

その静寂に、どういう意味があったかは、想像するしか無い。

皆私の言葉に納得して言い返せなかったのか、それとも実感としてそれを思い浮かべる事が出来ないからか、それとも私のように声を上げれない人もこの中に居るのか。

想像する事しか出来ないし想像が当たっているかも分からないが、それでもこの沈黙の意味を考える事にきっと意味はあるのだろうと私は思う。

だって、この場所、この瞬間、この人達には、私は「声をあげる代表」のような存在なのだから。

そういう存在を、買って出たのだから。


「このインフロールの国において、何故闇属性の魔力を持つ者は心に強い闇を、光属性の魔力を持つ者は心に強い光を持つと言われているのか、それは未だにどういう理由かは分かっていないと言われています。」


そうなのだ。

心に闇、光を持つという共通の認識はこの国に当たり前に根付いているのだが、それが何故そう言われるようになったのか、どういう歴史があり、どういう文化によってそういう考えが伝えられてきたのか。

それは実は分かっていないのだ。

その点の不思議さは私も最初は気づかなかった。

だってそれは、前世の時点で、このゲームの世界においても当たり前の認識であったからだ。

私が転生してからもその認識は皆が持ち合わせている物であり、それが当たり前であったから、私も気づかなかったし、フレリスも気づいていなかった。

気づいたのは、ソルスやジュビア先生の態度と、この世界で普通に生まれた筈であり、そしてゲームにも登場しない存在であるウルティハとの出会いからだ。

この世界にも、闇属性を持つからと言って冷たい目を向けない人も居る。

そして気になって、ジュビア先生に確認をしたのだ。


その結果、分かった事。

それは、「闇属性を持つ者は心に闇を、光属性を持つ者は心に光を持つという認識の根拠となる歴史的、文化的な原因やきっかけは未だに見つかっていない」という事実であった。

そして、その事実がありながら、ほとんどの人々は闇属性には悪い意味で、光属性には良い意味で特別視されているという事であった。


それが何を意味するのか、それは私には分からない。

もしかしたら、何か重要な意味があるのかもしれないし、私がその真実に辿り着く事は無いのかもしれない。

だが、今私に、私達にとってまだそこは重要では無い。

今重要なのは……


「私達は、この映画によって、この作品によって、そして私の言葉によって、闇属性を持つ者は不当に迫害を受けてきただとか、光属性を持つ者は不平等的に持ち上げられているという事を言いたいのではありません。もしかしたら、そういう物を私達が見つける事が出来なかっただけで、実際にそう言われる理由があるのかもしれません。実際に、私も、恐らく光属性を持つであろう素晴らしき友人が居ます。その子の素晴らしさを知っているからこそ、否定の言葉を出すつもりはありません。」


私が言葉を重ねる度に、視線が集まっていくのを理屈ではなく感覚で実感する。

その熱は私を今照らす照明の熱さ以上なのではないかと感じてしまうくらいだ。

正直、可能なら今からここから逃げ出したいくらいに怖い。

だって、これは私が背負う必要が無い物を背負おうとしているのだから。

だって、前世でこんな事なんて、やった事無かったから。


でも、私は言うんだ。

私は言う必要があるんだ。

私が言わなきゃいけないんだ。

だって、私が言わなきゃ、きっともっと声を上げれない人々は、きっともっと苦しむ。

声を上げなければ、もしかしたらこれから先誰も声を上げる事は無いかもしれない。

だから、言うんだ。


今だけは、役と同じ、私は『闇の聖女』なんだ。


「ただ、私はこうやって機会に、周りに恵まれました。こうやってこの場に立ってこうやって話せるのも、私が闇属性を持つと知っていても変わらず接してくれた、優しくしてくれた人々のお陰です。そして、そういう人達は、闇属性という魔力を見ているのでは無く、私という個人を見てくれているという事に私は気づく事が出来ました。」


私は、一度周りを見る。


ステージに共に立つウルティハを、エスセナを。

ステージの端で見てくれているフレリスを。

ステージを遠くから見ているジュビア先生を。

そして、頭に思い浮かべる。

コミエドールの人々を。

アル君を、そして……ソルスを。


今、私の顔は、令嬢としての仮面を被っているだろうか。

もしかしたら、私自身の顔になっているのかもしれない。

フレリスが言っていた、真のお嬢様は、もしかしたら、こんな顔をしているのかもしれないね。


「私のこの体験を、皆さんに少しでも広げていく事が出来たらと、私は思います。闇属性の魔力を持つ人が心に闇を持つのは事実かもしれないし、そうじゃないかもしれない。もし、もし皆さんの周りの人で、闇属性の魔力を持っているとしても、その人の事が好きだと、信じたいと思う人が居るなら、もしこれから現れたのなら、どうか闇属性の魔力という大きな括りでは無く、その人という個人でその人を見てみてください。人は誰しも、少しでも何かしら心に闇を抱える物だと知っているのなら、その人の心の闇を含めて、その人を見てみてください。」


私……笑えているのかな。

きっと、笑っているんだろうな。


「きっとそれは、その人にとっても、皆さん自身にとっても、新たな繋がりを、新たな信愛を生む物だと、私は信じてますから。」


……


………ぱち


…………ぱちぱち


……ぱちぱちぱち


…ぱちぱちぱちぱち


ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!


始めの拍手は誰からの拍手だったかも分からない。

その拍手した人が、闇属性を持つ人だったかも、そうじゃないかも分からない。

だが、その一つの拍手から。

小さな拍手から、段々大きくなって。

そうして、気づいた時には拍手は劇場の中に大きく鳴り響いていた。


私達の作品の意図が伝わったかも分からないし、私の言葉が響いたのかも分からない。


ただ……


(ああ……良かった。私は、やって良かった。)


それだけは、確かに、間違いなくそう思えた。


こうして、拍手に包まれ、劇場の人々からの熱い視線を受けながら、私達の発表は技術や説明に移り、劇場スタッフやフレリスに手伝ってもらいながら私達の映画という発表は無事に終わったのであった。


皆さま、どうもお久しぶりでございます…本当はもっと早く更新したかったのですが、夏風邪を引いたり元々腰痛持ちであったのが久しぶりにぎっくり腰になって腰痛の治療の為に執筆を中断したり、それが回復したかと思ったら今度は仕事が繁忙期に入って書く暇が無かったりと時間も余裕も無く、ようやく体調も仕事も落ち着いてきたので更新しました。本当にお持たせしてしまい申し訳ありません。前述の通り、ようやく落ち着いてきたので更新ペースを上げれると思います…。執筆を第一にしながら体調にも気をつけて、万全の体制で作品に臨むように頑張りたいと思います。とりあえず体調には本当に気をつけようと思います、どうか読者の皆様、これからも私の作品を何卒宜しくお願い致します。

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