クレアシオ・プリカシオ その2
ぶううぅぅぅん……
魔導機の魔法式が終わり、稼働を止める音が鳴り、やがて静かになる。
映像……映画が終わった後の劇場内は、最初は、静か過ぎるくらいに静かだった。
それは予想通りだった。
そして、しばらくするとざわざわと会場の人々はざわつき始めた。
それも、予想通りだった。
むしろ、そうでなければ困る。
私達が行ったのはある意味、様々な意味での問題提起でもあるのだから。
まず、映画という、舞台演劇などと言った生の演劇が中心のこの世界における、映像という新しい形の演技の形態の提示。
そしてその映画の内容……闇属性の使い手を、そしてそれと共に過ごす人々を肯定する内容だったのだから。君も、フレリスも、ウルティハも、エスセナも、ジュビア先生も。
受け入れる人達は、私の周りに居てくれた。
なら、きっと、他の闇属性を持った人々にも、そんな人々が居たのかもしれない。
この会場の中にも、そんな人が居るのかもしれない。
これは、そんな人々の存在に目を向ける物なのだ。
観客席から立っている人は、ほとんど居なかった。
照明が明るくなると、私、エスセナ、ウルティハは前に出る。
「皆さん、お疲れ様でした。長時間席に座ったまま上を見上げるのは疲れたかもしれませんが、良ければ、私達の話を聞いて頂けたらと思います。」
ジーア役……私、マルニーニャ・オスクリダは皆に語りかける。
「今回皆さまに観てもらった試作映画、このインフロールで恐らく初めて上映されたであろう作品、『やがて闇の聖女と共に』。これはこのシレーナに、インフロールの演劇界に新たな歴史を刻んだ事はきっと間違いないだろう。」
ユニコ役……エスセナ・デ・ヌエ・アクトリスは誇らしげに振る舞う。
「もちろん、技術的な、専門的な説明はアタシ様が中心に行うが……まずはそれによって作られる作品を観てもらった方が早かったからな!」
プーロ役……ウルティハ・インベスティは自信満々に笑う。
メイクや衣装を変えているので気づいた観客も居るとは思うが、それぞれ映画内で役をやった人はほぼ私達だ。
因みに女性騎士役はフレリスで店主と村長の二役はジュビア先生だ。
「「私達にまで役をやらせるとは思わなかった。」」
と二人に言われてちょっと申し訳なくなったが。
因みにエキストラの人達はコミエドールの人達で手が空いている人達にお願いして来てもらった。
本当はソルスやアル君にも来てほしかったが、今回はもしかしたら未来に影響があるかもしれないので来てもらうのはやめておく事にした。
「えっと……専門的な解説は一旦置いておいて、今回皆さまに観てもらった映画の事について話した方が良いですね。エスセナと私が中心となって話させて頂きます。」
「改めて、今回の監督、脚本、演出の大体は僕がやっています。魔物の討伐は実際にやったけど、台詞を言いながら撮ったから、かなり迫力のある物になったと思うけど、実際にやるのはある程度の安全の保証と、もしもの時の危険の対処も含めてやるようにしてね。」
「おお…」と劇場の人々の声が上がる。
当然であろう。
あの戦いの映像が、作られた物では無く、実際に戦いながら演技した、と考える者は普通に考えて少ないであろう。
一応、戦いながらその演技を魅せる、という物は無くは無い。
だが、そういう時の相手はある程度コントロールしやすいように人が躾けた魔物である事が多い上に、ほとんどそんな物は酔狂な物でしか無い。
それをここまで魅せる物にしているのであるから、戦闘の能力もだが、それ以上に心やそういう状況を作る余裕がある事に、特に一般人や普段戦いが身近では無い者達からすると驚きであろう。
「もし、戦闘の実力に不安がある人には……こういう物もある!」
パチン!とエスセナが指を鳴らす。
するとまた「ういいいぃぃんん」と魔導機がの音が鳴り始める。
すると、スクリーンに魔物の姿が映る。
ウルティハも説明に加わる。
「魔物を仮想的な動く絵に変える技術だ。今は平面的な絵だけど、立体的な絵にする事も、なんならいずれはこのスクリーンが無くともこの絵を出す事が出来るはずだ!そうすれば、戦闘しているように魅せるシーンの撮影が出来る筈だし、副次的な産物として戦闘の訓練にも活かせるようになる!!」
「と、少々話は逸れたけど、こういう技術や情報ももちろん提供するから、皆さまもぜひ今後の演劇の幅を広げる助けになるようになると良いな。」
ウルティハとエスセナの少しテンションの高いやり取りに、劇場は少しだけ空気が緩んで笑い声も出てきた。
相変わらずの二人のやり取りはこういう時に安心感を与えるのだな、と思わざるを得ない。
そして、核心に触れるタイミングが来たからかエスセナの表情は真剣な表情に変わる。
「そして、きっと皆さまの気になる事は、きっとそういう技術的な側面だけではない……いや、むしろ、今回来てくれた皆さまの中で、特に一般の人やクリエイトな仕事、またお客様を相手にする職業の人々がもっと気にする物は、今回の映画の内容でしょう。それについて、脚本を書かせてもらった身として、これから話させてもらいます。」
エスセナが、私の方をちらり、と見る。
私も頷く。
私も話す必要がある内容だからだろう、私も覚悟を決める。
「まず、彼女……オスクリダ家貴族令嬢、マルニーニャは、ここに居る貴族の方々や、貴族と縁深い方々は知っているでしょう、コミエドールを治める貴族であり……オスクリダ家の血族は、闇属性の魔力を持っている貴族です。そして、ここに居るマルニーニャも、闇属性の魔力を持っています。」
ざわっ、と先程まで緩んでいた空気が変わった事を肌に感じる。
特に、一般客が多いであろう後ろ側からは悲鳴のような声が小さく聞こえるのを感じた。
当然であろう。
この世界で珍しく、そして恐れられる筈の闇属性の魔力の持ち主が、自分達と同じ空間に居ると知ったのだから。
だが、エスセナは言葉を続ける。
「僕はとここに居るウルティハは、あくまでもサンターリオ学園で出会った関係ですから、まだ交友関係を持ったのも最近で、僕がこんな事を言うのは、説得力が無いかもしれません。」
「ですが、皆さまは、闇属性の魔力を持った人と、出会った事がありますか?あったとして、真正面から交流を図った事がありますでしょうか?」
エスセナの言葉にウルティハも続く。
「アタシ様達はこうやって、入学初日から魔法の研究をしたり、こうやってエスセナに付き合ってこういう演技の事に手を貸したりしてきたけど……マルニーニャは、一般論的な闇属性の使い手と違って、アタシ様やエスセナよりも、ずっと貴族令嬢らしい振る舞いも出来て、それで居ながら、一番まともで、一番優しい奴だと思う。この映画でもエキストラとして呼んだ人間はコミエドールの人間で、皆マルニーニャを貴族令嬢として慕って参加した人間だ!」
「……って、アタシ様やセナがどれだけ言葉を尽くしても、多分響かない奴には響かないだろうな。……だから、マルニ。まずはお前の気持ちを伝えてやれ。お前の言葉が、今は必要な筈だからな。」
「……ええ、わかったわ。」
私は、目を瞑って考え、心を落ち着けて……。
そして、目を見開き、そして口を開く。
ここから、私の為の……そして、それと同時に、この世界の闇属性の魔力を持った人々の運命を、何か変えてしまうかもしれない。
そんな事を思いながら、私は一歩前に出た。
私の事を、私の言葉で伝える為に。
執筆をしながら、また新たなストーリーを考える。書きたいことは沢山あるのに、まだまだ時間も指も追いつかないですね。
なるべく早く書いて、読者の皆様を待たせないように頑張りたいです。




