やがて闇の聖女と共に 4
「GUOOOAA!!」
「撃て撃て撃て~!」
「まずはあたし達が頑張る!」
ゴーレムが気配を察して行動しようとするのを中、後衛のユニコ、プーロの攻撃で足止めする。
その間に前衛のジーア、騎士がゴーレムを弱体化、撃破を狙うという作戦だ。
「まずは、一つ!」
「ガアアア……。」
「GUOOOUU!?」
騎士の槍の一突きでゴーレムに取り込まれたオーガを絶命させる。
すると、魔力の供給源の一つが無くなった影響でそのオーガを閉じ込めていた岩の檻が瓦解する。
ゴーレムは弱体化するも、まだ供給源は二つある。
ゴーレムは身体の形を作り変えて身体のバランスをとりながら、迎撃に移ろうとする。
「そこッ!」
「GUUOOU!?GAAA!!」
形を作り変えようとする時に露出したコアの部分を見逃さず、ジーアの闇属性の槍でコアを攻撃する。
ジーアの攻撃は中心に直撃はしなかったものの、コアに損傷を与える。
だが、最大の狙いは今はダメージでは無い。
闇属性の魔力に依る「浸食」の特性で魔力を奪っていく事による弱体化こそ狙いだ。
コアの損傷と魔力の浸食を受けたゴーレムはオーガを取り込んだ岩の檻の一つを維持出来ず壊してオーガを落としてしまう。
「ガ、アアア…。」
「はい、二つ。」
「GAAAAAA!!」
落ちたオーガを見逃さず騎士はオーガにトドメを差す。
これで残りは一つ。
だが、攻撃に対してゴーレムは当然ながら激昂する。
今まで吸収した魔力を解放し、広範囲を地属性の魔力を使って破壊的な攻撃を行う。
「くっ……近づけないわね……!」
「騎士さん!っ……!」
前衛の二人が、特に騎士の方を手練れと見たのか、そちらを集中して狙って攻撃するゴーレム。
騎士を助けに行くか、ゴーレムの攻撃に集中するか。
ジーアが判断を迷った時である。
騎士の方に飛んできた魔力を帯びた岩や地形の隆起に後ろから魔法が飛んできて爆発する。
「ユニコさん、プーロさん!」
「どっちにも怪我とかさせね~し!あーしら舐めんなっての!」
「道はあたし達が切り拓く、攻撃を!」
「……わかりました!」
ジーアは頷くと、魔法の爆発で空いた隙間に飛び移り、跳ねるように動いてゴーレムに近づく。
魔力に頼った知性のあまり無い乱暴な攻撃故にジーアの行動はゴーレムは視認できない。
「これで、三つ!」
「GAAAAA!?」
オーガごと岩の檻に槍を突き刺し、オーガの絶命と同時に岩の檻からも魔力を奪う。
それにより完全にバランスを崩したゴーレムは転倒した。
「攻撃が止んだ……!」
「騎士さん、行けますか!?」
「ええ、ありがとう。行きましょう!」
騎士の無事を確認すると、ジーアと騎士は同時に攻撃を仕掛ける。
左右からの同時攻撃、絶対にコアを逃がさない為の攻撃は……
「GA、GAAAA……!」
「これでっ!」
「終わりですっ!」
「「はああああああっ!!」」
コアは最後の魔力を振り絞って岩で槍をガードしようとする。
それを見た騎士は魔力を使って更に加速して、まずはその岩を破壊した。
そして、ジーアはその砕けた岩の間から槍を突き刺し、今度は直撃したコアから魔力を完全に奪い取る。
コアの損傷と魔力を完全に奪われた事により輝きを失い、やがてゴーレムを形作っていた岩達は崩れ落ちていく。
こうしてジーア達のリベンジは成功に終わり、村の平穏は僅か4人の女性たちによって護られたのであった。
そして、その後、ジーア達はゴーレムを倒した証拠である砕けたコアを持ち帰って村に帰ると、そこには村の人々が集まってジーア……ではなく、騎士の帰還を待っていた。
「おお、騎士様、それはもしや……!」
「ええ、魔物達の討伐と巣の破壊は完了しました。私の独断で行ったので、騎士団からの手間もだいぶ省けたでしょう。」
「おおお、流石は騎士さんだ、強さも速さも違いますなぁ!」
村人から歓迎の声を受ける騎士の姿を遠くから見ながら、ジーア達はそこから教会の方へ帰ろう……と、していた時であった。
ジーアの腕を、騎士が掴んで引っ張ってきたのだ。
「へ?ちょ、騎士さん……!?」
「……皆さんに、話さなければいけない事があります。ユニコさん、プーロさんも来てください。」
「へ、あーしたち……。」
「ちょっと、ジーア、騎士さん……!?」
騎士の有無を言わさずな態度に混乱しながら、引っ張られるジーアについユニコとプーロもついていく。
そして、騎士は村人たちの前に来ると、ジーアの手を上げながら高々に声を上げた。
「皆さん!皆さんはこのジーアさんを闇属性の魔法が使えるからと、恐れているのは昨日聞きました!私達は、闇属性について知らなさすぎるからです、私も国も、闇属性についての事は分かっていない事がまだまだ多いです!ですが……いや、だからこそ!まずは、人を見るべきではありませんか!?私はジーアさんと昨日今日としか話したことがありません!ですが、共に魔物を討伐し、その中でジーアさんに助けられる事もありました!私は、そんな誰かを助けられる心を持ったジーアさんの事を信じたいです!」
ジーアは、ユニコは、プーロは、この人が何を言っているのか一瞬分からなかった。
いや、ジーアは頭が混乱していた。
だが、だが。
ジーアは思い出していた。
先程の、討伐の時にかけてくれた言葉を。
そしてユニコとプーロは、この人の言葉をしっかりと聞いて、この人の事をしっかりと見ようと思った。
騎士は言葉を続ける。
「ユニコさん、プーロさんは、そうやってジーアさんをしっかりと、闇属性使いとしてではなくジーアさんという一人の個人として見ていたから友達として一緒に居るのではないでしょうか!?そして、まだ二日間しか一緒に居なかった私でもそう感じるのなら、もっと昔からジーアさんの個人としての性格を知っているこの村の皆さんなら、もっとそう感じれるのではないでしょうか!?この人は、ジーアさんは……!」
騎士は、ジーアの方を向いて微笑んで言った。
ジーアは呼吸も忘れて、騎士の事を見つめていた。
「きっと、光属性の人々にも負けないくらいに、優しい心を持っていますよ。光属性の人々と交流してきた事がある私だからこそ、そう思います。」
……
………ぱち
………ぱちぱち
ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
まばらだ。
だが、でも、確かに。
騎士の言葉は、村人の何人かに、届いた。
それを示すように、拍手が鳴る。
やがてその拍手は伝染していく。
……ジーアにとって、それは想像もしていない景色だった。
大半が騎士に向かってだが、ちゃんと確かに、ジーア達に向けられる暖かい視線。
大きな拍手。
それは、ジーアが諦めていた、自分を認めてくれる人達であった。
……ジーアだって、今の騎士の言葉で皆が自分達の事をあっさり認めてくれたとまでは思っていない。
だが。
ジーアは、自分からも気持ちを伝えなければ、と思った。
「あ、あの…!」
ジーアの声に注目が集まる。
緊張感と不安感に包まれるジーア。
それでも、伝えなければいけない、そう思った。
「わ、私は、闇属性の事で、きっと皆さんに怖い思いを、させてきたと思います。私にだって、闇属性の事がわからないし、もしそれで皆さんを傷つけてしまったらって……それで、皆さんと距離を置いた方が良いのかなって、一人で離れて、でもそれでも皆さんの役に立ちたくって、本当は認めてもらいたくて……!」
何を言えば正解なのかなんて、わからない。
それでも、ジーアは言葉を振り絞った。
「私、いっぱいいっぱい、皆さんの為に頑張ります!光属性の人々……まるで『聖女』の人達みたいになれるように!だから、だから……皆さんと一緒に過ごして良いですか…?皆さんと、一緒のように暮らしていいですか……!?」
ユニコとプーロも、頷いて、一歩前に出て続いた。
「あたし達が今まで、ジーアと過ごしてきた日々だって、証拠になる筈だ。ジーアの事を信じるのが怖いなら、あたし達がこれからもジーアと一緒に居る事で、証明し続ける!」
「てーか、あーし達学が全然無いんだし、そもそも闇属性の事だって頭良い人達が研究してもまだわかってないことにビビッててもイミフっしょ!それよりも、人が少ないこの村なら助け合いの方が大事ってね!」
四人の強い視線と言葉。
それは、村人達の認識を改めさせていく。
やがて、一人の村人……騎士にジーアの事を話していた村の重役だ。
「……私達も、どうすればいいのかわからない物が怖い。それを、君達ははっきりと言葉にしてくれた。それを、どうしていきたいか、どうしてほしいか、君達は言葉にしてくれた……。私達も、これからの行動を、『監視』するのではなく、『見守らせて』ほしい。そうして、君達を……『闇の聖女』になる事を信じさせてほしい。……それで、いいのだね?」
「……!はいっ!」
ジーアは村人達の前で……作った笑顔ではなく、本当の笑顔で頷いた。
これは、いずれ【闇の聖女】と呼ばれる少女と、その友人達の物語。
これからジーア達は幾つもの苦難を乗り越え、やがて村人から、【闇の聖女】と呼ばれるようになる。
これは、それの始まりの物語。
闇属性の使い手の少女と、その友人たちと、それを認めてくれた一人の騎士の物語。
その第一歩はここから始まるのでした。
―ーーーーー「やがて闇の聖女と共に Fin」ーーーーーー
ジーア達の物語はこれで終わりです。あれ、マルニ達の物語は…?
それは、少々お待ちください。
仕事の方が夏になるに連れてだんだん忙しくなるので、そうなる前に沢山書いてこの章を終わらせたいですね。あと、可能なら夏の間に水着回でも書けたら嬉しいですね…今までそういった季節イベントといった特別回や番外編のようなものをまだ書いた事が無いので。なので、夏バテしたりしないように体調に気をつけながら頑張ります。