やがて闇の聖女と共に 3
ジーア達が村に帰還した頃、村に人だかりが出来ていた。
何があったのか、と気になり、ジーア達が人だかりの方へと向かう。
「ちょっと通りますよーっと……?」
「あれは……。」
見てみると、そこには立派な装備をした女性の兵士が居た。
騎士は村の人の会話に応対していると、こちらの視線に気づいたらしく、ジーア達の方に向かってくる。
「貴女達が、今回の魔物の巣の調査を受けてくれたジーアさん、ユニコさん、プーロさんね?」
「え?あ、はい……。」
「そーっすけど…オネエサンは、もしかして国の騎士サンってカンジ?」
「プーロさん。……はい、今ちょうど帰ってきた所です。……あまり、望ましい結果ではないと思いますけれど。」
「そう。無事に帰ってきたのなら、まずはそれだけでもお手柄よ。……ここで立ち話も何だし、後で調査報告と一緒に色々と教えてちょうだい。」
「は、はいっ。」
そう会話を済ますと、ジーア達が通りやすいように道を開けさせながら、騎士は村人との会話を再開した。
そのお陰で通りやすくなった道を通りながら、ジーア達は耳を澄ます。
先程まではやれ国の警護の巡回を増やしてほしいだの、今年の村の農作物の具合だのを話していた。
だが、ジーア達が帰ろうとした時に、聞こえてしまった。
「あの子、闇属性の使い手なんですよ」、と。
「あいつが暴れたりしたらひっ捕らえてほしい」、だの。
「いざって時は村から追い出すべきだろうか」、だと。
村人が騎士に対してそう言うのが、聞こえてしまった。
「……。」
「……。」
「ちっ……。」
三人はそれぞれ暗い顔をしながら、ジーアの寝泊りする無人の教会へと歩いていく。
先程会った、にこやかな騎士が冷たい視線を送るのを想像しながら。
夜。
村に一つしか無い宿屋の一室をコンコン、とノックするジーア達。
「ジーアです、調査資料を纏めたので、持ってきました。」
「わかったわ、入って。」
「失礼します。」
帰ってきた返事にユニコも返事を返し、三人は宿屋の一室に入る。
「騎士サンばんわーっす。お疲れさんですー。」
「大人数で来て申し訳ございません。でも、一応三人で来た方が良いのかと思いまして。」
「構わないわ。ちゃんとした報告が出来たほうが私も助かるし。」
「ねぇ?あーしも言ったっしょ?」
「ま、まあ騎士さんが困らないなら……。」
「とりあえず、座る所……そうね、椅子は私が使うからベッドに三人とも座ってちょうだい。」
「はい。」
言われた通りに三人でベッドに座る。
村の宿屋なので大きい筈も無く、三人でスペースを詰めながら座る。
「とりあえず、まずは調査資料をいいかしら?」
「はい、こちらです。」
「ありがとう。」
騎士は資料を受け取ると明かりを灯し、小さな鞄から眼鏡を取り出して調査資料を読んでいく。
一応、ジーア達がこうやって調査資料を作るのは初めてでは無いが、それでも書類作りの経験が多いわけでは無い。
これで大丈夫か、と緊張の面持ちで騎士をジーアは見つめる。
やがて資料を読み終えたらしく、騎士は眼鏡を外した。
「なるほど、そう言う事ね……。」
「あ、あの、資料はこれで大丈夫でしたでしょうか……?」
「ええ、ちゃんと特徴を書いていてくれたから、わかりやすかったわ、ありがとう。」
「よ、良かった……。」
「これで、国の騎士サンに後は任せればオッケーね……。」
「そうね、確かに私達騎士が出れば問題無く討伐出来るでしょう。でも……。」
「……騎士さん?」
何かを考え込むようにする騎士に、三人は不思議そうにする。
やがて、騎士の口から決心したように言葉が発せられる。
「ねえ、ジーアさん、ユニコさん、プーロさん。このゴーレム、私達で討伐してしまわないかしら?」
翌日。
ジーア、ユニコ、プーロ、そして女性騎士の四人は、ゴーレムが居た辺りに来て居た。
流石に昨日の今日ですぐにゴーレムの魔力源となる他の魔物はまだ居ないらしく、ゴブリンやオーガの警戒は無い。
そしてこちら側の陣形は、昨日と同じ陣形に加えて騎士も前衛に来て待機している。
連絡用のペンダントは三つしか無いので騎士はジーアと共に今回は突撃して先制していく算段だ。
「あー、あー、あー、三人ともおけ?あーしの声聞こえてる?」
「あたしは大丈夫よ。」
「私も聞こえています。」
「私も大丈夫よ。昨日は不覚を取ったそうだけど、今回は相手が分かっている分魔力探知に問題は無いわね?」
「うぃっす!あーしの魔力で普通にガンガン感じるくらい大きい反応と、昨日には無かった弱い魔力が三つ……多分、昨日取り込まれたオーガがギリギリ生きてるカンジ?」
「魔物とはいえ、少しだけ可哀想な物ね……。」
「でもやるべき事はこれで明解ね。こちらの攻撃に合わせてユニコさんとプーロさんが援護射撃を。私が取り込まれたオーガの撃破を狙うから、ジーアさんはゴーレムを引き付けた後、私がオーガ達を撃破したのを見計らって本命のゴーレムのコアの撃破を狙ってちょうだい。」
「は、はいっ。」
「うぃーっす!」
「……。」
迷いの無い冷静かつ迅速な騎士の指示に思わず感心しながらも、ジーアはどこか暗い顔を見せる。
行動開始までに時間は無い。
だから、ジーアは口を開いた。
「あ、あの、騎士さん。」
「何かしら?」
「あの、その……私に、本当に、私に出来るでしょうか?」
「……。」
騎士は表情を変えないまま、何かを考える。
そして、隣に居るからこそ……そっと頭を撫でて答える。
「昨日も言ったでしょう?貴女でも出来る、じゃないの。貴女だから最も出来るの。」
「騎士さん……。」
ジーアの瞳が揺れる。
そういう言葉を、たったそれだけの言葉を、言ってくれる人はユニコとプーロ以外には今まで居なかった。
幼い頃に失った両親との記憶も既に朧げだから、心の支えは同年代でも変わり者な二人だけだった。
ジーアは、初めて自分を認めてくれる大人に出会った。
だからだろう。
ジーアの瞳からは涙が零れそうになっていた。
だが、ジーアは耐える、堪える。
この人の為に、そして、いつも一緒に居てくれる二人の為に、頑張りたいから。
だから、今は泣くのは邪魔だ、涙は邪魔だ。
「……やってみます、やってみせます。」
「……良い顔になったわね。……それじゃ、行くわよ!」
「はい……!」
槍を構えた前衛二人は、合図を出して一気に駆け出した。
三人にとっての、ジーアにとってのリベンジが始まった。
少し仕事の環境が緩くなったのと、涼しい環境で執筆できるようになったので、執筆ペースを上げて行けたらなと思います。一つのクライマックスであり山場で読者の皆様を待たせ続けるのも良くないと思いますので、頑張ります。