やがて闇の聖女と共に 2
村での準備は、ジーアもお金を渡して自分は家の中に篭る、というわけにも行かない。
食料や薬等のストックを見ながら買い足さなければならないし、場合によっては道具が必要になってくるかもしれない。
そういうわけで、ジーアもユニコとプーロと共に村のお店に向かうのだが……。
「君、闇属性の魔法使いだね?」
「っ、……はい。」
「うーん……多分依頼が出ているからだろうけど、なるべく早めに解決してほしいな。あまりうちが関わりを持っていると思われるのは不味いし……。」
「おっさん!ジーアは何も悪いこと……!」
「プーロさん。……わかっています。依頼をこなさなければ、私にこの村に居場所は無いですから。」
「……分かっているなら良い。私はこれ以上は何も言わないが。」
プーロが怒って食ってかかりそうになるのを冷静に止めるジーア。
そのジーアに何とも言えない顔で答えながら注文された品を渡す店主。
多分店主も、何となくは分かっているのだろう、自分達村民がやっているのは差別であると。
実際ジーアは、今では元の家に住んでいると気味悪がって誰もそこに近づかないから、とほとんど元々の自分の家には帰らず、村の外れにある廃教会にほとんど住みついている。
子供の頃も闇属性を恐がる子供達のせいでいじめにはならなかったが、逆に言えば偶然友達になったユニコとプーロ以外、友達も頼れる大人も居ない境遇になった。
それに思う所がある村民が居ても誰も何もしなかったのは、何もしないのは、誰もが抱える『闇属性という未知であり、無知であり、皆が恐れる存在が恐い』という共通認識であった。
だから依頼をこなすうちは極力干渉しない、というのは村民なりの譲歩のつもりなのであった。
まあ、もちろんそれがジーアはどう感じるかは知りようも無かったが。
「ったく、あのおっさんいつか頭下げさせてやるしー…。」
「あたし達の方が珍しいから、仕方ないよ……あたしも、あまり強くは言えない立場だし。」
「二人とも気にしないでください。いつもの事なんですから、いつも気にしていたらキリがありませんよ?それより、準備は終わりましたから、早速調査に行きましょうか。」
「「あーい……(はい……)」」
不満げな二人をジーアが落ち着くように言い聞かせながら、三人は魔物の巣の調査に、村の外に向かうのであった。
魔物の巣の所在は、村を囲む森の中であった。
魔力を使った遠くからの探知が一番理想的ではあるが、強力な魔物や魔力を操るのが得意な魔物が居る場合、その魔力を探知される可能性がある為、今回は三人で別れて行動をする事にした。
魔力探知は魔法が一番得意なプーロが遠くから行い、近づいての肉眼による目視は接近戦が得意なジーア、そして戦闘が始まった時にどっちかの方に加勢して状況有利を作る遊撃役がユニコだ。
三人は連絡用の宝石の原石を加工した連絡用のペンダントをつけると、魔物の巣の調査を始めた。
「あー、あー、あー。だいじょうび?あーしの声聞こえてる?」
「あたしは聞こえてるよ。」
「私も聞こえています……今目視で確認出来るのは……小型のゴブリン7体、中型のオーガ3体ですね。数や戦力で言うならこのくらいなら倒せる戦力ですが……。」
「あーしの魔力探知はっと……うん?なんかまだ一体居る気がする。これは……。」
と、プーロが魔力探知をしていた時である。
ゴブリンやオーガという魔物は、本来魔力の探知能力は低い筈の魔物の筈なのだ。
だが……。
「ぐぎゃ?ぐぎゃぎゃ!」
「ぐんおおおお!」
「!?気づかれました、探知を止めて戦闘開始を!」
「うっそ!?あーしの魔力強すぎた!?」
「ちょ、今から行くよ、ジーア!」
唐突な戦闘開始にペースを取り戻そうと急ぐ三人。
とりあえずまずは陣形だ。
前衛ジーア、中衛ユニコ、後衛プーロ。
この三人の状況を作る為に後ろ側の二人が位置を変え、その為の時間を稼ぐ為にジーアは現出で出した闇の槍を出して振るう。
可能ならゴブリンの1、2体くらいは倒したいが、ゴブリンの波状攻撃に加えて時折振り降ろされるオーガの大振りな一撃。
喰らったり防いだりしなくとも、避けたりする為にリズムや位置を乱される。
それに、何故だか戦術なんて物は知らない筈の知能の低い筈の魔物が、今回は上手くこっちのリズムにさせないように攻撃したり位置取りしたりしているように感じる。
(この違和感は何でしょう……やりづらい!それに、先程プーロさんが言っていたのは一体……)
心の中でジーアが思いながらそれでも防いだり躱していると、ようやく後ろからの援護射撃が飛んできた。
「ごめん、待たせた!」
「はあ、はあ、あーし、は、ちょっと詠唱待って……!適当に魔法飛ばす、から……!」
「わかりまし、たっ!」
後ろからの魔法の援護が来た事でようやく前衛のジーアも反撃出来るようになってきた。
まずは手数を減らす為に、ゴブリンを貫いていく。
魔法の射撃も同じようにゴブリンを攻撃していき、やがてゴブリンは全滅して残りはオーガだけとなった。
「残りも各個撃破で行きましょう!」
「うん!」
「……!?ちょっと待って、何か変な感じする!」
魔力の変化にプーロが気づく。
先程探知であった反応。
ゴブリンやオーガの様子のおかしい反応。
その正体は……
「んお!?」
「んんおおおああああ!!」
「「「!?」」」
「GUOOAAA……!」
オーガ達の身体が急に何かに……いや、魔力に。
それによって宙に浮いて引っ張られて行くと、周りの岩が動き始めて、オーガ達をまるで岩の牢に閉じ込めるように岩が取り込んだ。
そしてそれを含んだ岩が形を作っていき……
「これは……ゴーレム、でも他の魔物を取り込むなんて、聞いた事無い……!?」
「こ、これって不味いんじゃ……!?」
ドスンッッ!!
ゴーレムの、オーガを取り込んだ腕が振り下ろされる。
その一撃は、地属性の魔力を含んでおり、広範囲に石が凶器となって飛び散る。
済んでのところでジーアが魔力で盾となって防ぐも押されそうになる。
「きゃっ!!」
「あ、あれってオーガの命を魔力に変換してるんだ!だからゴブリンやオーガがあーしの魔力に気づいたんだし!」
「命と魔力で共生関係みたいに取引してたって事……!?」
「これは……一旦引きましょう!殿は私が引き受けます!」
「わ、わかった、絶対無理はしないでね、ジーア!」
「くっそー、しゃーなし!一旦仕切り直すしかないし!」
先制を取られた上に未知の生態の魔物の行動に、消耗を考えると引いた方が賢明と考えた三人は一旦退却することにした。
幸運な事に、魔力の補充がしたいのか、魔物の巣を作って陣地を作る方を優先したのか、ゴーレムからの追撃はあまり無かった。
地属性の魔力による追撃は怪我しかけたが。
こうして、ジーア達の調査は、あまり良い成果とは言えないまま退却、中断された。
この国の神様が龍なだけに魔物で竜を出すとなるとどうしても格が上になりやすいので出しにくく、そういう意味では適度に強そうなゴーレムという魔物は出しやすいなぁ、と感じています。




