やがて闇の聖女と共に 1
これより紡がれるは、とあるお話。
闇の魔法を使いながらも、心に闇を持たない少女と、その少女を支える二人の少女の物語。
やがて、【闇の聖女】と呼ばれる少女と、その友人たちの友情の物語である。
「ジーア、ここに居たんだね。」
「あら、ユニコさん。」
バタンと開く、ある建物の大きな扉。
ここはとある教会。
女神像の前で、彼女は居た。
それを見つけて、ジーアは笑みを見せる。
背の低いユニコの後ろから、どうやって隠れていたのか。
もう一人の少女が顔をひょこ、と出す。
「あーしもいるぜ!」
「あらあらまあまあ、プーロさんもいらっしゃったんですね。お二人で、何か御用でしょうか?」
「何か御用って、友達のとこに遊びに来るのは当たり前っしょ!」
「そうだよ、ジーア。あたし達は友達なんだから、それくらいで驚く事じゃないでしょ?」
「確かにそうですが……お二人とも、やはり気にしないんですね、私は、闇属性の魔法の使い手。私と関わっていたら、お二人が奇異の目で見られるのは間違いないでしょう。……私としては、それが気がかりで仕方ないのです。」
ジーアは軽く魔力を手に込める。
すると、黒い魔力のオーラのような物が漂う。
この世界で忌み嫌われる魔力、闇属性の魔力。
それをわざわざ人に見せるというのは、この世界においては普通に考えたら脅しにでも使う以外の理由は無いであろう。
この世界の人々から見れば、もしかしたら石でも投げつけられるか恐ろしさのあまり逃げ出すのが当たり前の反応かもしれない。
だが、それを見る二人……ユニコとプーロの二人は恐がる様子も見せず、普通に微笑みかけて会話を続ける。
「何を今更、あたし達はこれでも友情は固く結ばれているつもりだよ?」
「そうそ、あーし達に遠慮とか必要無いって!」
「ふふ、そう言って頂けるのは、素直に嬉しいものですね。」
ジーアは闇の魔力を出すのを止める。
こんなものは、この二人にとっては関係の無い事だった。
闇属性の魔力を持つが故に周りの人の目を気にして家からあまり出ないジーアの為に、住んでる村の人の悩み事や困り事を依頼としてユニコとプーロが受け取り、その依頼をこなして生活する、という日々が続いていた。
【闇属性の魔力の持ち主は心に闇を持つ】
そういう言い伝えがこの世界にはずっと根付いている。
それはジーア達が暮らしている村もけして例外ではない。
最近は依頼をこなす事で、まだ幼かった時代のジーアと比べるとだいぶマシにはなってきたが、それでも村人達の態度は良いとは言えず、好意的に受け入れているのは変わり者と言われているユニコとプーロくらいで、他の村人は「迷惑をかけないなら何も言わないが飽くまでも他人行儀」という姿勢の人々がほとんどだった。
村という狭いコミュニティ内で、いじめという事態にまで発展しなかったというのは幸運であったが、それでも村人から避けられる生活は、特に幼い頃に両親を亡くしたジーアにとっては堪える物であったのは言うまでも無い。
それでも、ジーアは耐えてきた。
村人達に怒ったり、恨み言を言ったりせずに、耐えて静かに暮らしていく。
そんなつもりだった。
だが、そんな日々はこれから変化が起こる。
「それで、今日も依頼を持ってきてくれたのですか?」
「そうだよ、でも、今回の依頼は、大変かもしれないんだ。」
「大変……というと?」
「あーし達の村の近くに、最近魔物の巣が出来たらしくてさー。それを調査して、可能ならそれを壊滅してくれーってさー。」
「魔物の巣、ですか。私達が戦う力があるからという理由の依頼なのでしょうけど……それは、近くの町、もしくは厄介な巣ならば国の騎士に依頼する物なのでは?」
「そうだね、だからあくまでも調査して、様子を見て報告資料を作る、というのが想定されてるあたし達の役割だと思うよ。」
「そういう事でしたか、それなら納得しました。では、早速準備に取り掛かりましょうか。」
「ジーア気が早すぎでしょー。まあ、あーし達が準備って言ってもいつもの探索装備くらいなものなんだけどさー。」
三人は、それぞれ調査準備をする事にした。
三人は、幼いころから顔馴染みだったわけではない。
ユニコは親の方針でなるべく闇属性使いのジーアに関わらないように教育されていたし、プーロは村に数年前に越してきたのであった。
ある日、魔法を使ってジーアが魔物狩りをしていた時であった。
それを偶然見かけた、ユニコと先にユニコと友達になっていたプーロが声をかけたのだ。
『うわ、すごっ。闇属性の魔法、初めて見た!』
『ちょっ、プーロちゃん…!』
『……何ですか?見世物では無いのですが。』
『見せもんとか思ってないって!むしろ闇属性って使える人って少ないんしょ?あーし凄いって思うよ!』
『何を言っているのやら……大体、そもそも闇属性は人々に嫌われる魔法で、その理由は……』
『【闇属性の魔力の持ち主は心に闇を持つ】。』
ユニコは前に出た。
プーロにも、そしてそんなユニコにも、何処か冷めたような、何処か諦めたかのような視線を向けるジーア。
『そこの方はわかっているみたいですね。それに、貴女も分かっているでしょう?分かったのなら、さっさと私と……』
『関わらない方が良い、かな?』
冷たかったジーアの表情が、瞳が揺らぐ。
プーロの表情があまりにも、からかう様子は無く、真剣な疑問と、何処か怒りが見える顔だったからだ。
『あーしは闇属性とか使えないし、この村に来る前に居た町にも周りにも居なかったけどさ、他の人が出来ない事が出来るって凄い事だと思うんだよね。それに、あんた今すぐ魔法であーしをぶっ飛ばしたいって、今思ってる?』
『そんな事……!!……思うわけ、無いじゃないですか……。』
『だよね、そんな人はあーし達の事気にかけたりしないしっ。』
にっ、と笑うプーロ。
それを見て決意を固めたかのように、ユニコも一歩踏み出す。
『えっと……プーロちゃんは、とても良い人で、それに人の事よく見てる人なんだ。そんなプーロちゃんが、貴女の事を信じていいって思ってるなら……あたしも、貴女の事を、信じてみたいの、ジーアさん。……今まで、同じ村に居ながら貴女の事を避けてた事、素直に謝ります、ごめんなさい。……都合のいい事を言ってるのは分かっているけど、貴女が良ければ、あたしとプーロちゃん、二人で、これから話して行かない……?』
『……貴女達に、利益になるような事は無いかもしれませんよ?私と関わって、貴女達が村で白い目で見られるかもしれませんよ?』
『そんなんかんけーねーしっ!楽しい事沢山だべるべっ!もし楽しいことわかんないなら、これから楽しい事して、楽しくしていくべっ!』
『楽しい事をする……楽しい事をしていく……。』
今までに無い発想に、思わず言葉を呟きながら自分の中に噛み締めていくジーア。
噛み締めて、咀嚼して、飲み込んで。
そして、それを自分の中に飲み込んで、自分の物にしていく。
やがて、どこか納得したように、頷いた。
『わかりました。では、私の家に来てください。ちょうど狩りも終わった所ですし、素材を換金して何か食べ物でも買って、家で話しましょう。』
『お!?会って早速おうちデート!?たんのしみーっ!』
『デートではないと思うけど……少し興味深いのはあたしも同じね。』
『もう、全く……特に変わった物は無いですよ?さあ、行きましょうか。』
ジーアは、ここで初めての、今まで村人に見せてこなかった微笑みを見せて歩いて行った。
これが、不思議な三人の少女の始まりだった。
いきなり知らない人達の話になったので驚くかもしれませんが、これがどういう事なのかは見て行けば分かりますので、どうかよろしくお願いします。




