クレアシオ・プリカシオ その1
パチパチパチ、という拍手と共に舞台の幕が上がる。
魔法による音響の確認は十分。
映画の確認も何回もやった。
さあ、私達の時間を始めようか。
「えー、あ、あ。よし、音声大丈夫だね。皆さま、初めましての人は初めまして。お久しぶりの人はお久しぶり。このフェ・クレアシオのスポンサーもやっているこのシレーナの貴族、アクトリス家の一人娘、エスセナ・デ・ヌエ・アクトリスです!」
「今回の発表に技術含めて色々協力させてもらったインベスティ家貴族令嬢、ウルティハ・インベスティだ!」
「同じく今回協力させてもらった、オスクリダ家貴族令嬢、マルニーニャ・オスクリダです。」
「本日は、皆さまお集まり頂きまことにありがとうございます!さて、私達が今回発表させて頂くものは、新しい演劇の形の提供です!」
「といっても、演劇、という形とはまた違う形の、表現の提供というのが正確な言葉になるんだがな。」
「今回のような場に来てくださった皆さまは、恐らく普段から演劇に触れる機会の多い方々が多く集まっているのだと私は思います。ですが、演劇という物が身近では無い方々も恐らく世の中には少なくないのでしょう。かく言う私も、私の故郷、コミエドールでは劇場も無く、たまに劇団等が公演しているだけで縁が深いものでは無かったです。私は孤児院等への支援も行っていましたが、孤児院の子供達のような人達なら尚の事縁は無かったでしょう。」
「それには様々な理由が考えられるでしょう。まず、金銭的な問題。そしてそれに結びつく理由の一つとも言える理由である、演劇はいつでも見れる物では無いという事。演劇をする側も、小道具や舞台を作り上げたりする為に必要な資材等が確実に手に入るとも限らない。もちろん役者のスケジュールや護衛等もバカにならないでしょう。つまりは、お互いに様々な理由により、大衆のための娯楽で在るはずの演劇が、このままでは一部の人々にしか見られないという可能性もある。今回は、そんな中から新しい可能性の提供をしようという話になります!」
「まずはこれを見てくれ!」
ウルティハが指をパチン、と鳴らすと、背後から白い布が現れる。
それは、普通の服等に使う布とは質感が違い、布と紙の中間、という風に感じる質感であった。
「これは今回の為に作った試作品だ。名称は「スクリーン」、っていう。どう使う物かはこれから説明していくとして……。」
「これから皆さんには、僕達が作った魔法による新たな演技表現、「映画」という物を見てもらいます。その映画に使う魔法の技術も大事ですが、僕が書いた脚本のストーリーにも注目してもらえると嬉しいです!それでは皆さま、映画の時間はお静かにして、じっくり御覧ください!」
パチン、と次はエスセナが指を鳴らした。
それに合わせて段々、劇場内の明かりが暗くなっていく。それと同時に、スクリーンにスイッチが入った魔導機が光を当てる。
光を受けたスクリーンに、更に魔法式の起動をすればやがて映像が映し出される。
【_____これより始まるは、闇の魔法を持ちながら、心は闇に染まらない、優しく愛を知る少女。『闇の聖女』といずれ呼ばれる少女と、それを支える少女の物語である】
スクリーンに映し出された言葉に劇場内は軽くざわつきながらも、物語は開演した。
今回はクライマックスの始まりとして短く。次回からは、劇中劇の始まりです。私にとっては初めての挑戦になりますが、頑張って描きたいと思います。