シレーナでの発表会 前日その3
「お嬢様、今日は通話の予定はあるのですか?」
「余裕が有れば……だけど、多分体力的にも精神的にも疲れそうだし、しない可能性の方が高いかしらね。」
「する場合は私は部屋から出ておきましょうか?」
「フレリスだって流石に疲れるでしょう?わざわざ部屋から出なくても、私がホテルの外辺りで話す事にするわ。」
「メイドを気遣う事は主人としての成長は私としては非常に喜ばしい事ですが、普通はメイドは主人を気遣って自ら動く物だと思う物とも思いますが?」
「もう、私達はそういう主人とメイドって単純な関係と同じじゃないでしょうに。」
「そこの関係性を崩すのは如何かと思いますが……なんて、これ以上はお嬢様と言葉を交わしている場合ではないでしょうかね。」
「そうよ、もう一回劇場に行くんだから、早く支度しないといけないわ。」
ホテルの一室は素晴らしい物だった。
素晴らしい所だったのだがベッドにダイブでもしようならそのまま寝てしまいそうな気がしたので残念ながら座る事すらしなかった。
令嬢モードの私は気を張っているのではっきり言って疲れるのだ。
まあこのマルニとしての人生、令嬢モードで居る時間の方が長いのである程度は慣れては来たのだが。
(早くここでゆっくりしたいけど我慢、我慢……!)
とりあえずそんなこんなで、ついてきているメイドがフレリスだけなのもあって普通に私も荷物で置いておいていい物は置いていくように整理しながらフレリスと言葉を交わす。
まあ別にオスクリダ家で仮に何処かへ出かけたとして、普段からメイド達に任せるのではなく自分で荷物持ちなどはするのだが。
別にメイド達が信用出来ないというわけではない。
フレリスは姉のように慕っているし、オスクリダ家のフレリス以外のメイド達ともそれなりに友好的な関係を築けてはいるつもりだが、自分でやらないと落ち着かない、というのはあると思う。
やることをやらないと落ち着かないのは私の性分なのかもしれない。
そんな事を考えながら整理もある程度落ち着いた。
「観光都市の一番大きなホテルの良い部屋に泊まる……普通ならとても贅沢な時間でしょうに、私達はせわしないわね。」
「私達はあくまでもただの観光客ではない上に、こういう事への慣れも無いのですから、時間も精神的にも余裕が無いのも仕方がない事です。ロビーへ行きましょう、お嬢様。」
「ええ、そうね。」
私達が本格的に部屋を利用出来るのはまた後だ。
私とフレリスは二人でロビーへ向かう事にした。
ロビーではまず全員集まったうえで、エスセナも合流して一緒に劇場に向かうという段取りだった。
意外にも私達が一番先にロビーには着いていた。
二人でやっていたうえに荷物をある程度フレリスも持っていたのでてっきり一番最後になるのかと思っていたのだが。
二人でただ待つというのもなんかその気になれないし、フレリスとは普段から学園寮で話をしているからか、話題も何を話せばいいのか……と考えていると。
「お嬢様、こちらをどうぞ。」
「ん?……あら、果物のジュースね。ありがとう。」
「ドリンク無料、私も受けられるという事でしたので早速利用してみました。」
「相変わらずそういう所はちゃっかりしているわね……。」
「私のような平民出身にとっては甘いものは貴重な物なのですよ。」
「よく私とスイーツを食べたりクールキャンデーを食べに行っていたのによく言うわね……。」
やれやれ、と私は苦笑する。
フレリスは前から思っていたが結構甘党なのかもしれない。
見た目的にはキツイお酒でも似合いそうな綺麗な女性なのに……まあ、そういう所含めて可愛らしさのある女性なのかもしれないが。
まあ、私も甘い物は好きだ。
ここはフレリスのちゃっかりさに乗っておく事にしよう。
二人でのんびりとジュースを飲みながら待つ事にした。
やがて少し経って。
「わりー、待たせたか?」「そんなに待っていないわ。」「なら良かったわ。」とウルティハが来て。
「おや、済まない、私が最後だったか。」「エッセがまだ来てないから大丈夫ですよ。」とそのすぐ後にジュビア先生が来て。
「済まない、待たせたね。」
「大丈夫よ、そっちは色々あったでしょうし、時間がかかっても大丈夫よ。」
「色々、という程ではないけれど……まあ、ある種言質を取っておきたかったから、それが取れたから、戻ってきたって所かな。」
と、エスセナが戻ってきて、無事私達は全員集合出来た。
いよいよこれからが本格的な準備の始まりだ。
私達は気を引き締めた。
「さて、それじゃあ行こうじゃないか。」
劇場に向かっている道中。
私達はエスセナに質問をした。
「ところで、私達はさっき言っていた『言質』とやらについて聞いても構わないのかしら?」
「ああ、構わないよ。」
エスセナは少し考えるように口元に手を当てて答える。
恐らく、エスセナの中でもまだ推論混じりな部分がある、という事なのかもしれない。
「お父様は、まず前提として、僕に、『価値を示せ』、と言った。」
「価値……ね。言葉だけを聞くと、随分と冷たい言葉にも聞こえるけれど。」
「そこはお父様も分かっているらしい。多分、言いたいことは、経済的な意味だけではないと思うんだ。」
「つまり、単純にお金を稼げ、という意味だけではないという事ね?」
「でも、それって単純な数字だけじゃ表せねえって事じゃねー?」
「そうさ、僕が多分一番求められているのは、もっと感覚的な部分が大きいのだと思うよ。……お父様が話していたんだ、自分も演劇に素直に感動したりしていた時代があったという事を。」
「つまりは、その心を呼び覚ます事を求めている、という事かしら?」
「ならその時代の演目をセナが再演するとかもいいかもしれないな!」
「ふふ、今すぐは無理だけれど、そういうのも悪くないかもしれないね。」
エスセナは更に深く考えるように目を瞑る。
まるで、そうであってほしいと祈るかのように。
「お父様は、僕を、私を冷たくしているわけではないんだと思う。むしろ逆に、私に期待しているからこそ、敢えて突き放すような言い方をしたんだと思うんだ。今、娘と父親という関係では無く、一人の演者と観客として、経済的に、理屈的に私を見ようとする目を変えられなければ、変えさせるくらいの力を見せなければ、先には進めない、私はその程度の役者なのだって。そう言いたいんだと思うんだ。」
「……信頼関係があるからこその試練、って事か。」
「そういう事だね。……一遍だけだとしても、魅せに行こうじゃないか!」
エスセナの言葉に私達は頷く。
正直な話、話が拗れたり、エスセナが変な受け取り方をして誤解している可能性もあったが、そうならなくて安心した。
どうやら、私達の想像以上に親子の信頼関係は強固な物だったらしい。
そして……それならば、やるべきことは最後まで手を抜かない事だ。
もちろん映画の内容を今から変える事は出来ないから、そこを変える事は出来ないが、発表の内容を少しでも良いものにするように努力する事は今からでも間に合うから。
それをしに行くんだと、私は気合を入れる為に軽く自分の頬を叩いてみる。
(さて、最後の仕上げをしに行こう)
映画の内容の下書きを作るか考えながら書いていました。ある意味私にとっても一種の発表会のような内容なので、心の緊張感が高まっていますが、悔いの無いようにしっかりと書き上げていきたいと思います。今年は体調を崩し気味なので体調にも気をつけながら頑張ります。




