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騎士への第一歩

もうすぐ幼少期編が終わるのを考えると、物語の本番がどんどん近づいてくるのを感じます。

「私は騎士になりたいですっ、お父様、お母様!」

私は両親に直談判した。

屋敷でもオスクリダ家の人間と許可を貰った従者しか入れない一室のソファに座り、テーブル越しの両親と私は向かい合う。

今、この部屋には私と両親と、私がお願いして許可を貰ったフレリスしか居ない。

私の言葉に固まった両親は、しばらくの間の後ゆっくりと父親がフレリスの方を見る。

私もちらりとフレリスの方を見る。

(これで、良いんだよね…?)と確認するように。

フレリスは表情を変えない。

私の手は、小さく緊張で手が震えていた。


「まずは私からの授業として、交渉をしましょう、お嬢様。」

「こう…しょう?」

今までなるべく子供らしく振る舞うように気をつけてはいたけど、多分演技でも何でもなく、今までで一番子供みたいな反応をしているだろう。

それくらいフレリスの言葉に意味がわからなかった。

「流石に交渉だけでは分かりませんね…そうですね、つまりお願い事を叶えようという事です。」

「わがまま…ってコト?」

「交渉と我儘は違うと私は認識していますが、まあ今回はそういう認識でも良いでしょう。つまり、お願い事を叶えてもらう為にどうするか、を考えるという事です。」

「なる…ほど?」

フレリスの考える交渉の印象も気になるけど、まあ確かに近い印象はある。

私もとりあえず頷いてみた。

「じゃあ、誰にお願いすると良いの?」

「ご主人様と奥様にです。」

「えっ。」

ぴしゃりと言い切るフレリスの言葉に思わず素で変な声が出てしまった。

あの両親に交渉…?

いきなり難易度が高すぎる気がする。

賄賂や不正、脅迫や圧力だとか、色々悪い事をしている両親に交渉を、しかも4歳の小娘がするというのはあまりにもハードルが高すぎるのではないだろうか。

だがフレリスは、自信があるのか意味深な笑みを見せた。

「大丈夫ですよ、お嬢様。勝算はあります。…あのお二人、お嬢様にはかなり甘いですよ。」

「甘い…?」

そう言われて少し考えてみる。

…そう言われてみると、そう言えばフレリスが私を攫うと言って外出して帰って来た時も私を見てフレリスにあまり強く怒鳴ったりしなかった。

あれから結局、フレリスと外に出かける事度々あった。

その時は私とフレリスと二人でお願いすれば大体許可を出してくれた。

それに、両親が商人や国の役人などの偉い人やお金のある人との取引などをする時も、親の片方やメイドさんの誰かに私を任せて私に取引を見せないようにしていた。

私が余計な事を言ったりして迷惑をかけたり失敗したらいけないからというのもあるとは思うが、それ以上に私にそういう場面を見せないようにしていたのが大きいのかもしれない。

今更娘への悪影響を考えるのもおかしい気はするが…自分達なりに大事にしているのかもしれない。

それに出てくる料理なんかも、もしかしたら両親より豪華かもしれないくらいいつも豪華だ。

…幼いぶん食べて大きくならなきゃいけないのはわかっているけど、幼いながらダイエットを考えたほうが良いかもと思うくらいには。

メイド達への指示も私に対しての指示が最優先だ。

私がまだ子供の身体だからというのもあるとは思うけど…挙げていくと確かに少し過保護というか、両親なりの愛情で溺愛してるのかもしれない。

良く言えばその愛情をある意味受け入れる…悪く言えば、その愛情を悪用というか利用しようというのがフレリスの考えなのだろう。

…両親と同じように人の気持ちを利用するというのはあまり気が進まないけど…私のやりたい事を通す為には必要なのかもしれない。

なら今は、我慢の時かもしれない。

「…わかった、どうすればいい?」

「良かったです。難しい事はありません、今回は敢えて素直に言ってみましょう。何を言われても譲らない態度を見せるんです。細かい事は色々お任せしますが…何とかなるでしょう。」

思ったより具体的なプランじゃなかった。

どうしよう、上手く行くのだろうか…。

不安になりながら、少しだけ思った事がある。


ああ、きっと原作の、本当のマルニーニャ・オスクリダなら、簡単に出来たのかもしれないと。

当たり前のように、当然のように。

そしてそれが出来て、全て思い通りになってきた人生だったからこそ、原作で失敗した後に立ち直れなかったのかもしれない、と。

そして、決してそれの始まりはフレリスもマルニーニャ・オスクリダも悪ではなかったのだろうと。

…私はそうならないようにしなきゃ。

心の中でそう決意した。


…そんな事があって今に至る。

細かい部分はフレリスもフォローしてくれるらしいけど、正直めちゃくちゃ緊張している。

父親が口を開く。

「…お前の入れ知恵か、フレリス?」

「騎士になりたいというのは今初めて聞きましたが、槍の訓練はつける約束はしました。私の勝手な判断で申し訳ございません。ですが、お嬢様の為には間違いなくなるかと。」

「この子の為になるかもぉ、そもそも貴女の槍術がこの子の役に立つかも、貴女が決める事じゃないわぁ。其処らへんの騎士や兵士に頼むとか、そもそも武術が必要無い人生を送らせれば良いのよぉ。」

母親が指摘する。

母親の顔は顔は笑っているけど明らかに目が笑っていない。

父親の方も今にもテーブルに拳を叩きつけそうな真っ赤な顔をしている。

多分両方ともかなり我慢しているのだろう。

だがそれに物怖じしていたら多分私のお願いも通らないだろう。

フレリスに目線を送る。

フレリスは表情も変えないし頷いたりはしないけど、目線をこちらに送ってくれる。

そのまま行け、という事なのだと思う。

「わ、私は皆を守れるようになりたい、槍を私も出来るようになりたいですっ。」

「ここ最近の貴族はもちろん、平民出身のサンターリオ学園の卒業生も騎士になる者も少なくないです。持つ者こそ持たざる者の為に、というお嬢様のお考えは素晴らしいと思いますが。」

「それは確かにそうだが、オスクリダ家の令嬢として必要かどうかは…。」


「……っ。」

渋る父親にじっと視線を送る。

自分で言うのも何だけど、私は極力我儘も贅沢もしないようにしてきたつもりだ。

勉強の為に本をお願いしたりする時など、細かいお願いをした事は無くはないけど、極力屋敷のお客様やメイド達、もちろん両親にも、なるべく迷惑をかけないようにしてきたつもりだ。

…フレリスとの外出の許可以外は。

その私が初めて自分から、迷惑をかけるかもしれない我儘を、お願いをしている。

そのことに両親は答えを出すのを渋っているようだ。

でも逃がさない。

そうやって返事を先延ばしにされたら、何回言ってもなあなあな答えで誤魔化されるだろう。

切り出した今が、きっと一番のチャンスなのだろう。

フレリスも畳みかけに行く。

「勉学面での家庭教師や、サンターリオ学園で必要な魔術の指導も私がお手伝いいたしましょう。もちろん専門の教師の方が見つかるまでの繋ぎでもかまいませんし、教師の方が来られない時の代理としてでも構いません。」

「むむむ…。」

「…マルニはフレリスの教えで満足なのかしらぁ?その道のプロだけに任せれば良いと思わなぁい?」

母親が私に質問をしてくる。


落ち着け、落ち着け私。


自分の意思を伝えるんだ。


私は答えた。

「私は、フレリスの事信じてるから…フレリスに、教えてもらいたい。そして、フレリスもお父様もお母様もメイド達もこの街の人達も守りたい、ですっ!」


一番守りたい人は居る。

でも、それでも。

この言葉にも、嘘偽りは無かった。


それを聞いた母親は少し考えて、父親の方を見た。

父親も母親の視線に視線と頷きで返す。

「…大怪我でもさせたら、クビでは済まさんからな。お前の孤児院ごとお前の人生を終わらせてやる。あと、あまり余計な事を可愛い娘に吹き込むなよ!」

怒り交じり…多分意思の硬さに折れた諦めに対する投げやりな気持ちのようなものもあるだろう言い方の言葉だったが…。

許可は、取れた。

「ありがとう、お父様、お母様、立派な騎士になります!」

「許可をいただきありがとうございます、ご主人様、奥様。」

「貴女に許可を出したんじゃないわぁ、マルニのお願いだから許可しただけよぉ。でもまあ、私達の娘なんだから、絶対に凄い騎士になれるわぁ。」

「はい、頑張ります!」

こうして、何とか騎士の訓練を受ける許可を得た私だった。


「お疲れ様です、お嬢様。無事騎士への第一歩を歩めましたね。…槍の訓練だけのつもりでしたが、騎士の許可を取る事になるとは思いませんでしたが。」

「ううん、フレリスが居たからだよ、私だけじゃ全然話せなかった。」

部屋を出て二人きりになって話す。

上手くいった事が嬉しくて思わず身体が跳ねるも、フレリスの言葉に首を横に振る。

実際フレリスがほとんど理屈的な言葉を言ってくれたお陰で、私は意思を伝えるだけで良かった。

実質私は何もしていないのと同じだ。

それでもフレリスは微笑んでくれる。

「誰かに頼るのも時に大事です。自分はまだまだである事、誰かに甘えていい事、今日はこの二つが分かれば充分上出来ですよ。」

「…そっか、ありがとう、フレリス。これからも甘えていい?」

「ええ、私が力になれるならば、喜んで。…もちろんいつかは自分で色々出来るようになれたら素晴らしいですが。」

私の問いに微笑んで、そっと頭を撫でてくれて、フレリスは答えてくれた。

えへへ、と思わず小さく笑顔が漏れてしまった。

…この優しい手にも、応える為に、立派な騎士になりたいな。

「では早速、明日から訓練を組んでみましょう。明日から忙しくなりますよ、頑張りましょう。」

「うんっ!」

私は笑って頷いた。

明日から、頑張ろう、私。

そう思った一日だった。

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