手応えは無くとも、確実に一歩進んで
「あれぇ?」
「あ、あら……?」
私とウルティハは、二人して首を傾げていた。
おかしい、こんな筈では無かったのだが。
そんな事を心に思いながら。
討伐依頼に何か問題があったわけでは無い。
あの後普通に学園に帰還し、私達はしっかりとジュビア先生に依頼完了の報告を済ませて寮に帰った。
そして翌日早速集まって映像を見てみようという事になって、いつもの空き教室に二人で早速偉大なる役者、エスセナ【グラン・アクト・セナ】の魔法を使ってみたのだ(ちなみにエスセナは今日も台本の執筆作業が忙しいらしく来ていない)。
そこまでは良かったのだ、そこまでは。
だが問題はその魔法で撮った映像の内容だった。
映画などで、演じる役者の視点に近い位置からの映像を映すという方法があるのは私も知っている。
そういう意味では確かに映像資料として使えるだろう。
また、この魔法はある程度だったら前世で言うストリートカメラのように自分を中心として周囲を見渡す事も出来る。
この方法は知らなかったのでびっくりした。
てっきり、この魔法は「自分の記憶や視覚を映像として出力するだけ」の魔法なのかと思っていたのだが、どうやら「自分を中心として一定範囲内の物を情報として記録してそれを映像として出力する」、という機能も持っているらしい、これは便利だ。
だが、そこにも落とし穴があったのだ。
それは、この魔法の映し出せる映像の内容の主が、その魔法を使った人の視覚内、もしくはその人を中心とした一定範囲内のみ、という事である。
つまり、一定範囲外からの映像が作れない、作れるとしても角度などの制限が出来てしまうという事だ。
更に、顔のアップなどを撮るならそれなりに近づく必要がある、もしくはしっかりと表情を記憶する必要があるのだ。
それ故に、私がイメージしていた映像とは違う物が多かった。
映像を映画フィルムのように記録すると考えて、ある程度のストックには出来るが、何か物足りない……。
そう感じた。
ウルティハの方も、どうやらエスセナから映画という物について多少なりと聞いていたようだが、いまいちピンと来ていない感覚だったようだ。
「うーん……なんか、迫力とかはあるけど、これだけだとなんか足りない気がするんだよなー。」
「同じく、ね。なんというか……私達自身を撮る、という物には向いていないのかしら?」
「そっかそれか……アタシ様やマルニの視点での事とか、その周りの事とかは見れるんだけど、アタシ様達を映してる、って感じとはなんか違う気がするんだよな。」
「つまり、私達をある程度遠くから姿を視認して、それを映像として記録する方法を考えなきゃいけない、というわけね……。」
ふむ。
これを解決する手段……。
私は思考を巡らせてみる。
これだけを資料とするには少々物足りない。
何より、こういう撮り方という物はある程度映画という文化が根付いた後で新しい切り口として撮る物だろうと私は思う。
つまり、もっと普通の撮り方をする方法を考えなければいけない。
となれば、必要な存在は……。
「カメラとカメラマン、かしら……。」
「かめら……?かめらまん……?」
聞き馴染みの無い言葉にウルティハはきょとんとする。
「前世には機械であったのよ、こういう映像を記録する為の機械が。そして、そのカメラを使って撮影を魅力的に撮るカメラマンという職業が。」
「へえ、前も聞いてびっくりしたけど、ほんとに二人の前世は機械が発展してたんだなぁ。おまけにその機械を扱う為の専門の仕事まであるなんて。いや、魔導機の方も整備士とか開発者とかも居るんだけどさ。」
「そうね、だからこそ、この世界でもその機械……カメラを作る必要があると思うの。」
「そのカメラの構造とか仕組みは把握してんのか?」
「いえ、構造とか詳しくは……だけど、電話を魔力通話という形で再現出来たのだから、多分不可能ではないとは思うわ。何となくだけれど作り方は想像がつくし。」
「そっかそっかぁ!マルニの知識とアタシ様の発想力が組み合わされば何となくなんだろ!!」
明るい声で笑いながらウルティハは言う。
全く、どんなものなのかの想像すらつかないであろうに、このよく分からない自信は一体どこから湧くのか。
だが、今の私にはこのウルティハの自信が有難い。
何となく、何とかなる、という気がするからだ。
口に出したら多分調子に乗ってうるさくなるから心の中で感謝の言葉を呟く。
「問題はもう一つ……そのカメラを扱うカエラマンの方だけれど……こればかりは簡単には見つからないかもしれないわね?」
「ん?カメラで撮るだけの仕事が何で簡単には見つからねえんだ?」
「ただカメラで映像を撮るだけなら、前世では職業にはならないわよ。カメラマンは、どれだけ魅力的に風景や登場人物を撮るのか、センスや技術が必要だったと聞いたわ。」
「んー……?あ、そうか、魅せるってことはアートとかと同じで、魅せるセンスや技術、つまりそれを磨く経験や才能も必要ってことか!」
「ええ、そう言う事。」
ましてやそういう者は一朝一夕では見に付かない物であろうということは映画やドラマに疎かった私でも簡単に想像がつく事だ。
ゲームやアニメといった私が見ていた、絵やアニメーションでさえ描き方で魅せ方が変わって来るのだ。
それが生ものを撮るカメラもきっと同じなのであろう。
(必要な物は多分人脈、付き合ってくれそうな……でも、それが私達には……どうすれば……)
そう考えていた時だった。
「やはり今日もここに居たのか。」
不意に聞こえた、居なかった筈の男性の声に驚いてビクン!と反応する。
ついバッ!と振り向いた。
そして、声の主に納得した。
それは、私達の秘密の一部を、唯一共有していた大人だったからだ。
「ジュビア先生、びっくりさせんなよー。うぃっす。」
「ちゃんと挨拶したまえウルティハ嬢。マルニーニャ嬢もご機嫌よう。」
「ご機嫌よう、ジュビア先生。何か御用でも?」
「いやなに、気まぐれにここに足を運んで君達の様子を見に来たといった所だよ。」
「なんだよ、案外先生も暇なんだなー!」
「こちらはこちらで色々とあるのだが……全く失礼なものだな。」
そう言いながらも怒った様子は特に見せず、やれやれと無気力そうに首を横に振る先生。
完全な否定はしないあたり、暇があった、というのも案外間違いないのかもしれない……
(あれ?待って?)
私の頭の中に、一つの仮説が不意に浮かんだ。
それは、少し突拍子も無い話だった。
だが。
それが、もし可能ならば。
様々な問題が、解決するかもしれない。
今直面している問題だけではない。
その先の、様々な問題を解決する方法になるかもしれない。
この事実に辿り着いて、興奮しそうな心と声を抑えながら。
私は、口を開いた。
「ジュビア先生、少し、私からお話があるのですが。」
隣に居るウルティハと私の向かいに居るジュビア先生は、似たような不思議そうな視線で私の方を見つめるのであった。
今月は私的な用事が多く、あまり投稿はできないかもしれませんがこうやって少しずつお話を進めていけたらなと思います。もしくは、可能ならお話のストックを作っておくのもありかもしれませんね。さて、いよいよこのウルティハ&エスセナの章、「魔法使いと大女優」編もだんだんと終わりが見えてきました。まだクライマックスではありませんが、クライマックスを盛り上げる為に可能な限り舞台を作ろうと思っています。頑張りますので、読者の皆様、どうか暖かく見守っていてください、いつも読んでくれて、ありがとうございます。