マルニ、思い返して考える 3
ト書きがキャラクター視点の文章の書き方にまだいまいち慣れない、難しいですね。そもそも小説が難しいのですが。
そんな事もあって、私はフレリスとよく話すようになった。
もちろんフレリス以外のメイドやお屋敷の外の人とも、なるべく悪そうな人以外とは仲良くするようにしているけど、フレリスは頭も良く、それに気安い感じがして話しやすいのだ。
そんなフレリスに声を掛けられたのは幸運だったかもしれない、いっそのこと相談してみようか。
「えっとね、フレリス、真のお嬢様って、どうやってなるの?」
「ふむ、そうですね…。」
自分の言葉を覚えていたのか、「真のお嬢様」という単語に特に問い返したりもせず、フレリスは口元に手を添えて考えた。
それをじっと見つめて私は答えを待つ。
「…お嬢様は、どのような人になりたいですか?」
「え?えっと…。」
問い返されて私は考える。
どんな人になりたいか、か…。
…流石に前世がどうこう言うのは流石に信じて貰えない…というかフレリスを困らせたり混乱するだけだろうから置いといて。
どんな人になりたいかを考えている時に、それが表情に出ていたのか、フレリスがアドバイスをくれる。
「どんな人になりたいかを考えるのがまだ難しいなら、逆にどんな人になりたくないかをまずは考えてみてください。そうすれば、自ずと答えが見えてくると思いますよ。」
どんな人になりたくないか…か。
そう考えると、浮かんでくるものはあった。
それは両親のように…そしてその子である、本当の、原作のマルニーニャ・オスクリダ。
ああいう風にはなりたくない。
私の大好きな、ソルスを虐めるような人には、誰かを虐げるような人にはなりたくない。
その為には、何が必要だろうか。
きっと、色々必要なのだろう。
色んな事を知る為に勉強して、誰かを守る為に身体を鍛えて、簡単に揺らがないように心を強くする。
これから出会うであろうソルスの為でもあるけど…それ以上に、私がそうしたい、そうなりたい、そう在りたい。
なら、そこから始めよう。
気づかないうちに、顔に出ていたのだろう、ドキドキとワクワクする心が。
フレリスが笑みを見せる。
「答えは、見えてきたみたいですね。」
私は頷く。
「うん…私、勉強したいし、強くなりたいし、フレリスの事も大事に出来るようになりたいっ。」
「ふふ…お嬢様の歳でそこまで言えるなら、凄いですよ。私に教えれる事があれば、私からもご教授しましょう。」
「やった、ありがとう、フレリスっ!」
私は嬉しくて、思わずぎゅっとフレリスに抱きついた。
「おっと…お嬢様は甘えん坊ですね。」
フレリスはそっと私の頭を撫でてくれた。
…考えたら、誰かにこうやってスキンシップして甘えることなんて、前世でも無かったかもしれない。
前世のお父さんお母さんに、「頑張れ、生きて。」と手を握ってもらったりした事はあるけど。
…思い出したら、少し寂しくなってきた。
もう今のマルニーニャ・オスクリダとしての生に慣れてきたと思っていたけど、気を抜いたらこれだ。
もう言葉を交わす事も、顔を見る事も出来ないだろうけど…お父さんお母さん、元気かな。
私が居なくなっても、元気でいるかな…そうだったら良いな。
色々思い出していると、フレリスと触れ合う嬉しさと、色々思い出した寂しさで少し涙が出ていた。
その事にフレリスは気づいているのか分からないけど…フレリスはそっと優しく、私の髪を撫でてくれた。
私がこっそり落ち着くまでフレリスのメイド服に顔を埋めた後、顔を離してフレリスの顔を見上げる。
泣いた跡、気づかれないといいけど、少し恥ずかしいし。
私は誤魔化し半分でフレリスに聞いた。
「っと…フレリスは、何を教えてくれるの?」
「そうですね…多少のお勉強は教えられるでしょう。ですが、所謂一般的な勉学は家庭教師や学校のほうが沢山教えてくれるでしょうし…。」
フレリスの言葉に少し残念に感じた。
家庭教師が付くとして、どんな人が付くのかはわからないけど、両親の知り合いの伝手とかだと意地悪そうな人だったら嫌だし…それに人として好きなフレリスに教えてもらいたいという気持ちもある。
「あとは…槍の手解きなら多少は出来るでしょうか。こちらもしっかりとした騎士に教えてもらえる方が良いかもしれませんが。」
…槍!?
「槍、槍教えてっ。」
恐らく今、私のフレリスを見る目は輝いているだろう。
私の食いつきの良さにフレリスも珍しく面食らう。
これには理由があるのだ、主に3つの理由が。
一つは、マルニーニャ・オスクリダが原作で使っていた武器だ。
原作でマルニーニャ・オスクリダは、タクト型の細剣を使っていた。
だから、原作とはかけ離れるが、マルニーニャ・オスクリダが使っていた武器と違う武器を学べる機会が巡って来たのは間違いなくチャンスだと思う。
毛嫌いするとまでは言わないけど…良い印象はやはり持たないし、変わるなら形から入ってでも変わりたい。
二つ目の理由は、やはり元気に身体を動かせる、という単純な理由だ。
たったそれだけかもしれないけど、私にとってはそのたったそれだけが大事なのだ。
自分の身体を自由に思い通りに動かせるというその事実が、私にとってはとても大きくて、大事な事なのだ。
そして最後の理由…それは、ソルスを守る騎士になれるかもしれないからだ。
もちろん、騎士になるという事はソルス以外の人も守れるようになることも大事だけど、学園に入った時に騎士としてソルスを守れる騎士になれば…それは、とても素敵な事だと思う。
傍に居て、その笑顔を近くで見れて、その笑顔を守れる…それが出来るようになりたい。
持つ者こそ、持たざる者を守るべきって言うし、平民のソルスを守ることになっても問題ない筈だ。
と、そういう理由で興奮気味についなってしまった。
フレリスは表情をいつもの仏頂面に戻って少し考えた。
「…わかりました。なら私が槍の手解きをしましょう。但し、約束として、ちゃんと教師がついた場合はしっかりその教えも守ること。あと、勉強もしっかり頑張ること。良いですね?」
「うんっ!」
私は大きく頷いた。
楽しみだなぁ…というワクワクとドキドキで思わず顔がにやけてしまう。
いつからだろう、とそわそわしていた…その時だった。
「そうなると、ご主人様と奥様の許可を取らなければいけませんね…あと、槍を教えるならついでに魔法についても教えた方が良いですね…。」と、ぶつぶつと小さくフレリスが呟いたのが聞こえて、私は固まる。
そうだ…あの両親から騎士になりたいという思いを伝えるどころか、槍の鍛錬の許可を取るのも大変だ。
妙に過保護気味なあの両親(特に父上)から、怪我が当たり前の槍の鍛錬の許可を取るのは難しそうだ。
そして、魔法の鍛錬…かぁ。
私は、とある可能性を想像して嫌な予感が頭に浮かぶのであった。
色々上手く行けば、いいんだけどなぁ…。