インフロールでの映画作りとは
映画作り。
それは一見突飛な発想に思えるであろう。
だが、私には一つそれを可能とするアイデアがあった。
それは、以前お茶会でウルティハが見せた『人や物の記憶や情景を切り取ったかのように流す魔法』である。
あれはエスセナが映画や投影機をモデルに作った物、と言っていた。
もちろん、あれが例え高度な魔法じゃないとしても、ずっと映像を流し続けるのは魔力的に厳しいだろう。
だが、その魔法をずっと発動している状態で固定出来る、魔導機が使えるなら。
確か、最近違う大陸の技術も入ってきて、魔導機は魔力を補給すれば魔法をずっと発動したり展開状態に出来ると聞いた事がある。
私は魔導機に詳しいわけでは無いが、貴族としての仕事で調べたり使ったりする機会はあったので情報はある程度入れるようにはしている。
そこで、だ。
その魔導機を使って、私達が記憶や記録を編集したものを魔導機に集積、そしてそれを投影させる事で映像を映す。
それを上映する映画にする…という事だ。
「大まかな計画はわかった。確かにそれは魅力的かつ画期的なアイデアだ。けれど……幾つかその為には越えなきゃいけない障害があるのは、君達もわかっているよね?」
「そうね……魔導機の導入は、金銭的には問題ないけれど、魔導機の使い方はあまりわかっていないし、そもそもそういう使い方が出来るという確証もあるわけでは無いわね。」
「魔導機の操作は多分アタシ様は出来るぜ、魔法の研究で何回も使ってるからな。まあ、件の魔法を魔導機に使った事は無いけどな。」
「それもあるけれど最大の問題は……。」
エスセナが私達二人をじっと見つめる。
……今回に関しては、多分エスセナが何を言いたいのかが分かる。
そして、その問題に対する答えは、私はアイデア……とまでは呼べないにしても、少し浮かんでいる物があった。
「君達、そもそも演技って出来るのかい?」
エスセナの疑問は当然の疑問だった。
映画を作る。
それこそ、前世の所謂映画研究会みたいな、学生や一般人が趣味や個人で作るレベルの物すら、この世界で作れるのか怪しいと思わざるを得ない。
ましてや、これはシレーナ、アクトリス家とのビジネスになるかもしれない物を作ろうとしている。
そして何より、あの『水嶋エンジェ王姫』が、そしてこの世界の役者としても名が広まってきた、『エスセナ・デ・ヌエ・アクトリス』が出演するのだ。
周りも当然だが、何より本人が半端な物は納得しないであろう。
それに対する私の考えをぶつける。
「私達が参加するプランと、私達が参加しないプランがあるけれど、聞くかしら?」
「一応聞こうじゃないか。」
「まずは参加しないプラン。これは単純。学園の人やシレーナの役者、この国の劇団の人を呼んで
その人達に演技をやってもらう。演技力やもちろん、小道具とかの知識もあるだろうから、安定はするでしょうね。」
「確かに無難かつ安定したプランだね。それに劇団の人とのコネクション作りに使えそうだ。……で、もう一つのプランは?どんなプランだい?」
「……私達が参加するプランは、私達の戦いを撮る、というのはどうかしら?」
「僕達の戦い……?」
「アタシ様達が戦っている所を映像にする、って事か。」
そう、これが私が考えていたプランなのである。
この世界には魔物や野生の獣、魔獣と言った、前世では漫画やアニメ、ゲームの存在だったそういった存在が実際に存在する。
つまり、特撮だとかCGを使った怪物と戦うような映像をこの世界では実物で撮る事が出来るという事なのだ。
「なるほど……かなり賭けになるけれど、面白い考えだね。それに、その方法は僕達でも、似たように魅せる技法とかは前世にも無くは無かったけれど、それを実際にやる、というのは興味深い。」
「でしょう、特に迫力という点では負けないでしょうし、授業で討伐に出ていくという時も撮影の続きも出来るから、時間の短縮のもなるし。」
「……うーん……。」
エスセナは考える。
エスセナはあくまでも演者だ。
もちろん、多少くらいは演劇とかの監督だったりスタッフだったりの話を聞いたりした事はある。
だがそれは、あくまでも演者としての心構えだったり、演じる為の役作りだったりで、という話だ。
ほとんど、監督したりする立場でどうするか、という視点での考えをした事は無い。
もちろん業界では芸能人が監督や脚本をする作品があるのは知っている。
自分がゆくゆくはそういう立場になるかもしれない、とは思ってはいたが、まさかあんなに早死にするとは思っていなかった。
だからそういう立場になっての視点は今までほとんど持っていなかった。
これは、そういう意味でも試練になる。
普通に考えるなら、前者のプランが良い、というのはエスセナも分かっている。
この世界のプロがエスセナの、『王姫』の基準に見合うかは私も分からないとはいえ、間違いなくある程度のクオリティに仕上げるという事が出来る可能性が高い。
でも。
だけど。
「……後者の方が、少し、面白いかもしれない。」
にやり、とエスセナは笑う。
その目は輝き、心の底から楽しそうに……まるで、どこか狂気を孕むかのような目で笑っていた。
その笑みを見れば、にやりと同じようにウルティハも笑う。
「流石は、アタシ様の相棒だな。」
「ああ、試したくて仕方ないって気持ちだよ。こんなに興奮してゾクゾクするのは久しぶりだよ。」
その空気感に内心少し気圧されつつも、私もその心を押し留めて強気に笑ってみせる。
「決まりね。なら、私達を中心に映画を作っていく。その方向でいくわよ。」
「ああ!」「うん!」
私達は手をパンッ、とそれぞれハイタッチをする。
これからが大変になるのは間違いないけれど……挑戦の日々が始まるのだった。
さて、ここから劇中劇のようになっていくわけですが、果たして僕は上手く書けるでしょうか…もの凄く不安ですが頑張ります。