回想 前世のヒント
お盆になって何とか時間が取れたので投稿です。ゆっくり時間が取れれば沢山投稿したいです。体調も早くしっかり治したい。
あれから数日。
エスセナは顔を出していない。
軽い口論程度……という認識だったが、どうやら思っていた以上に私達の現状は良くないらしい。
(うーん……どうしたものか。)
私は考えるも、答えは一向に出なかった。
(そういえば……)
私は不意に、昨日のソルスとの魔力通話を思い出す。
『マルニ様、まだエスセナ様やウルティハ様との仲直りは出来ていないんですか?』
「喧嘩、という程では無い……つもりだけれど、まだ上手く行っていないわね。……こういう、友達と喧嘩するって事が今まで無かったから正直困ってるわ。」
『私としては立派な喧嘩と思いますけど……喧嘩の内容が内容ですからね。』
「……ねえソルス、平民の貴女にこんな事を聞くのもおかしいとは思うんだけれど、何か良いアイデアとか、浮かばないかしら?」
『ええっ、私が考えて良いんですか……!?そ、そのアクトリス家の問題やインベスティ家の問題に私のような平民が首を突っ込んでも……!?』
「もちろん貴女の意見という事は隠すし、あくまで意見が欲しいというだけよ、私の中で何か良いアイデアが浮かぶかもしれないし。」
『ええ……うーん……。』
ソルスの唸り声が受話器代わりのブローチから聞こえてくる。
しばらくした後に、ソルスは小さく『あっ』と呟いた。
「どうかした?もしかして何か浮かんだのかしら?」
『いや、その…アイデア、と呼べるほどの物では無いんですけど……。』
「構わないわ、何かあるなら教えてちょうだい。」
『えっと、その……エスセナ様は、前世の記憶がある転生者……?というものでしたよね?』
「ええ、そうね。」
エスセナから、ソルスの事を信用している事からソルスにもある程度の前世の話はしていいという許可を貰っているので、ソルスにもエスセナが転生者である事は既に教えている。
なので恐らく今この世界でエスセナが転生者である事を知っているのは、私、ウルティハ、ソルス、そして恐らくだがこの前大体話を聞いていたフレリスくらいであろう、
もしかしたら、信頼できる家臣などにも話しているのかもしれないが、少なくとも家族にはまだ話していない事からほとんど知らないであろうと私は推測している。
「それが何か関係あるのかしら?」
『その……皆さんが知らない、エスセナ様の前世での知識や技術、文化などを広めてみる、というのはどうでしょうか……もちろん、かなり運任せな考え方ですけれど……。』
「ふむ……エッセの前世の記憶……。」
ソルスには私が前世の記憶を持っている事は言っていないから、あくまでもエスセナの前世の記憶という事になるが、確かに前世にあったものの中で何かを再現したり出来れば、アクトリス家がエスセナに求めている実績に繋がるかもしれない。それが花火のようにこの世界に存在しない物だとしたら尚更である。
それこそこの今使っている魔力通話も、元々はスマホや携帯電話、あと糸電話を元に考えた物なのだから。
観光都市のシレーナでの何か……例えば、新たな観光名所や観光事業、アトラクションやスポットといった、やはり観光に関係する物だろうか。
それとも食べ物や土産物といった新しい名物、などだろうか。
エスセナが料理を出来るかは分からないが、そういったものを考えるとなかなか面白いかもしれない。
問題はそれをどうやって再現したりアレンジするものか、という所だが。
「確かになかなか面白そうね。それなら、もしかしたら新しいシレーナの文化になるかもしれないわね。」
『ほ、ほんとですか!?やったぁ、お……マルニ様に褒められたっ!』
「お?……でも、問題はそれをどうやって用意するか、ね。」
『魔法に関係する物ならウルティハ様なら大概の事は出来そうですけれど……やはり材料などとなると、貴族でも用意は簡単じゃない物なんですか?』
「そこらへんは物によってまちまちね。私のようにオスクリダ家をある程度動かせる力があるとしても、私はあくまで地方貴族だから貴族の中でも力がある方じゃないし、エスセナは多分アクトリス家の力はあまり使える立場に居ないでしょうし……多分一番研究費だとかでお金を使えるウルティハ
のインベスティ家でも、研究に必要な物以外は個人的なものは使えない可能性も少なくないわね。物が用意できなかったり、出来たとしても時間がかかったりする可能性も高いわ。」
『ま、マルニ様のオスクリダ家での権力って凄いんですね……というか、やっぱりそう簡単にはいかないんですね……うーん。』
「まあ、でも新しいアイデアをくれた事は感謝するわ。ありがとう、ソルス。」
『……!はいっ、どういたしまして、マルニ様っ!』
「じゃあ、そろそろ寝るわね。」
『あ、その、マルニ様……っ。』
「……?何かしら、ソルス。」
寝ようとしたらソルスから呼び止められた。
そういえば、なんだか最近は何かを言いたそうにしている事自体は気づいていた。
だが、ソルスから何も言おうとしないから、私から聞くのもあまり良くはないのかな、とも思ったので、私はそのままにしていた。
そのソルスが『ああ……。』、『うう……。』と小さく唸り悶えるような……なんというか、恥ずかしがっているとかもじもじしている?というか。
そんな声をあげながら言葉に詰まっているので、私は小さく笑って声をかけた。
「……落ち着いて、ゆっくり話して良いのよ。深呼吸して、ソルスが言いたいこと、教えてちょうだい?」
『は、はいっ!すー、はー……。』
ソルスはゆっくり大きく深呼吸する。
その様子を想像すると可愛くて、ふふっ、と小さく笑ってしまう。
やがてブローチから小さく、うんっ、と声が聞こえると、ソルスは話し始めた。
『そ、そのっ、マルニ様はエスセナ様やウルティハ様の事を愛称で呼びますよねっ!』
「……?そうね、エッセ、ウルティ、両方とも二人に呼んでいいって言われたから。」
『そ、その……今もマルニ様をマルニ様って呼んでいますけれど……いつか……そうだ、もし私がちゃんとサンターリオ学園に入学出来たらっ。私だけの呼び方で、マルニ様を呼んでも良いですかっ!?』
「……フフッ。あははは…っ。」
私はつい噴き出してしまった。
『な、ななな、何で笑うんですマルニ様っ!?わ、私何か変な事言いましたか…!?』
「ふふふ…いや、いやいや、ごめんなさい、あまりにも真面目な雰囲気で話し始めたのに、内容が随分可愛らしい物だったから、つい…うふふ。」
『そ、そんなに笑われたら恥ずかしいですよ~っ!』
「ふふ、ごめんなさい……そうね、別に今から呼びたいように呼んでも構わないけれど……そうね、ソルスが入学までに我慢したいなら、私もちゃんと待つ事にするわ。」
『!やったやった!ありがとうございますっ、マルニ様っ!なら、もっともっと、勉強も訓練も頑張りますね!』
「ええ、楽しみにしているわ。」
『えへへ、じゃあマルニ様、おやすみなさい、良い夢をっ。』
「ええ、おやすみなさい、良い夢を。」
そうして私は魔力通話を切った。
という事が昨日はあった。
(昨日もソルスは可愛かったなぁ……)
……と、いけないいけない。
ソルスが可愛いことを言うのでついそればかり思い出しそうになってしまったが、今はそればかり思い出すわけにはいかない。
ソルスが言っていた事を私は思い出す。
それは、前世の記憶、前世であった物。
それを使えば、打開策が浮かぶかもしれない。
前世での経験があまり無い私でも何か浮かぶかはわからないけれど……それこそ、エスセナなら前世で色んな経験をしている筈だ。
今のこの現状を打開する為にまずは、エスセナと普通に話せるようにしなきゃ。
私は決意を新たにした。