王族と私達を結びつける物
気づけば「転生悪役令嬢はヒロインの影になりたい」(略称はまだ決まっていない)も、30話まで来ました。正直想定よりかなりスローペースで物語は進んでいますし、その場その場の思い付きで書いている部分も多々あるこの物語を、かなり飽き性である自分がここまで書き続けていられるのは、この作品を素晴らしいものにしたい、もっとこの世界の事を書いていたいと思える事と、何より読者の皆様と私の周りの人々の温かい声援有ってのことだと思います。これからもっとマルニやソルス達の素晴らしい一面を紡いで行けるように、そして皆様が笑顔になれる作品になって行けるように頑張りたいと思います、皆様、ありがとうございます、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
「さて、まず問題なのは、実績の内容だ。様々な分野に手を出す、というのもまた一つではあるが、まずは君達の一本、柱になるような実績を作りたい。それがクラブの方向性や、クラブに対する印象を決める事になるだろう。」
「実績の内容……とりあえず、今までの活動は、まずは私の闇属性の研究をやって、闇属性の特性の理解を深めたり、発展性を考えていた所が今までの一番大きな活動ね。」
「で、ここ最近の活動は、マルニだけ魔法を見せるのは不公平だから、アタシ様とエスセナの魔法を見せたり模擬戦を見せたり、って感じだなっ。」
「となると、僕達の今までの研究から考えると、闇属性に対する研究の発表が一番無難、といった所かな?」
「そうだね、最初はそれで構わないだろう。だが、光属性と闇属性は未だに研究があまり進んでいない魔法の属性だ。いずれそれではネタ切れになる。二つ目の問題だな。この問題の解決策として浮かぶのは……君達の夢ややりたいことはあるかい?」
「やりたい事……?」
(私の、やりたいこと……。)
困ったそれは言うわけにはいかない。
仮に、誰かに話すとしても今では無いし、悪役令嬢としての話は墓場まで持っていくつもりだ。
だから、私が答えられるのは……。
「私は、大切な人を護る騎士になる事です。」
「アタシ様は、魔法の芸術と研究を極める事。」
「僕は、魔法と演技で魅せる表現者になる事。」
「ふむ……それぞれ全く違う道を志す者達が何の因果かこうやって集まって一つの事を成そうとする集まりを作っている、か……。」
ジュビア先生は考える。
「ふむ……。」「うーむ……。」と小さく唸りながら考える。
私達では出ない案……果たして、どんなものなのか。
やがて考えが纏まったのか、ジュビア先生は口を開いた。
「私の考えるに、一人一人の道の全てに繋がる道をやり続けるというのは難しい。時には誰かが自分の為の研究は一旦我慢して仲間の手伝いをする、という事もあるだろう。それは、何となく分かっているだろう?」
「それは、まあ……時間も、魔力も、何か活動をするとなるなら資源も有限でしょう。だからこそ、出来る事を絞っていくというのは大事になるとは思います。」
「そこが分かっているのは良いことだ。そこでだが……マルニーニャ嬢、君が最初に割りを食う羽目にになるかもしれない。それでも構わないかい?」
「……何か案が浮かんだという事なら、聞かせてください。」
私が最初は我慢しなければいけないというのは少し思う所はもちろんある。
だが、私は私で、今後の事について、少し思惑がある。
私はウルティハの今後のプランに便乗して二つ、私もやりたいことが浮かんでいた。
一つは、このままここで闇属性の研究や魔法の修行をしたいという事だ。
そもそもオスクリダ家の事も、闇属性の魔法の事も受け入れてくれる所があるとは限らないのだ。
それを考えれば、私の家柄も関係なく受け入れて、闇属性の魔法も拒否するどころか一緒に研究までしてくれる。
更に言えばエスセナもウルティハも、魔法については学園どころかこの国でも有数の実力者だ。
魔法の修行相手として、申し分ない相手だ。
そしてもう一つの思惑だが……。
実は、私も可能なら王族との繋がりを持ちたいと思っていた。
もちろんだが、オスクリダ家の為や自分の為、というわけでは無い。
「やがて光の君と共に」の攻略キャラの一人が、王族……というか、王族も王族で、この国の王子様なのである。
リジャール・ルスフロル……インフロールの国の王子であり、「やがて光の君と共に」の一番攻略キャラ、看板キャラである。
まだ会った事は無いけど、幼少期のアルデールにも気づいたし、一目でジュビア先生に気づいたのだ。
1個違いのリジャールなら、恐らく外見の変化もほとんど無いであろう。
そのリジャールと話す、もしくはその周りの人と話す事が出来るようになれば、騎士としての活動もしやすくなって、ソルスがリジャールとくっつく可能性も上げられるかもしれない。
(ソルスと……誰かが、くっつく……。)
そう思うと、何故か胸にずきり、と痛みが走った。
周りの声が少しずつ遠くに聞こえていく。
何故、だろう。
ソルスは、この世界の主人公だ、どんな事があろうと、ソルスをバッドエンドにするわけにはいかない。
だからこそ、リジャールにしろ、アルデールにしろ、ジュビア先生にしろ。
誰かと結ばれて幸せに、悪役令嬢の私が知らない所で幸せに暮らすのが正しい筈なのだ。
それがソルスの幸せであり、私の幸せな筈なのだ。
私の幸せは、ソルスに捧げるべきなのだ。
それが、正しい筈なのに。
それが、正解な筈なのに。
この胸の痛みは、何故。
この悲しみと寂しさは、何故……?
「……う、…嬢、マルニーニャ嬢。」
「……っ!?」
気づいたときには三人共、私の方を見ていた。
ジュビア先生もだが、珍しくエスセナもウルティハも、なんだか困惑というか心配げな顔をしている。
「だ、大丈夫なのかよ、何か、急に遠くを見て意識まで飛んだみたいに。」
「……ちょっと考え事していただけよ、気にしないでちょうだい。」
「僕は……私は、目の前で泣いている友達を見て、気にしないなんて事は出来ないな。」
「へっ……?」
エスセナの言葉で気づいて自分の目元を拭う。
私の顔に、涙が伝っていたのが分かった。
「……い、色々あるのよ。そう、ちょっと疲れていただけよ、気にしないで。」
「い、嫌だったらいいんだぞ?ちゃんと嫌だと言うんだぞマルニーニャ嬢?」
「大丈夫です、思い出した事があって少し感情的になってしまっただけです。」
私は少し言葉に力が篭りながらも言う。
私は大丈夫なフリをする。
大丈夫、私はやれる。
私は、悪役令嬢としての破滅の覚悟も、騎士としてソルス達を護り続けて生きていく覚悟も。
例えどっちの道だったとしても、貫ける覚悟は出来ているはず。
そう自分に言い聞かせる、言い聞かせ続ける。
先日考えたばかりの、「それ以外の選択肢」が頭の片隅にちらつくのを否定出来ない頭で。
「な、ならいいけれど……。」
「ええ、二人ともごめんなさい、先生も、ご心配をおかけして申し訳ありません。」
「あー……えっと、とりあえず、大丈夫そうなら話の続きをいいだろうか?」
私達の様子を見ながらジュビア先生が手を挙げる。
そうだった、今は先生の意見を聞く所だった。
「ええ、もちろん、お願いします。」
ほっとしてか先生は小さく息をつく。
そして、ジュビア先生は考えた意見を、口を開いて言った。
それは、ジュビア先生のイメージからも、そして、私の予想からも全くの想定外の物だった。
「とりあえず私が浮かんだプランだが……君達で、何か出し物をするのはどうだろうか?」
「「「……はあ?」」」