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語り合える友達

「…というわけで、僕の前世の話はここまでかな。次はその後転生してからの話だけど…その前に、今度は君の前世の話を聞きたいかな。…もちろん、転生した者同士の秘密だ。他の人はもちろん、ティハにも話したりはしないさ。」

「…ウルティの反応見て何となくは察しては居たけど、ウルティもエッセが転生者な事は知っているのね。」

「ああ、もちろん。僕と彼女の二人の協力であの魔法は出来たわけだからね!」


つまり、あの魔法は転生後に何か思いつく何かがあったという事か。

まあ、流石に女優だからって花火関係の仕事がバラエティ番組やドラマとかで花火師の仕事があったとしても実際に花火を作れるようになる俳優はそうそう居ないだろうというのは流石に世間知らずに終わった私でもわかる。

そういえば、あのウルティハのシャボン玉みたいな魔法もほとんど見たことがないかもしれない。

似たような魔法自体は見たことが無いわけではないが…やはりあれも発想はエスセナであろうか。

シャボン玉…花火…共通点は…もしかして、パレードみたいに演出を意識したものなのであろうか?

(室内で爆発するシャボン玉とか花火は危ない気もするような気もするけど…?)

そんなことも考えたりした。

いや、無粋なのは自分でも分かっているけど…。


「ウルティに別に秘密にもしなくても良いのだけれどね…私の人生は、貴方ほど劇的な人生でも無かったわ。…普通の平凡な人生だった、とも言いづらいけどね。」

「構わないさ。…ああ。もちろん、話したくない部分があるなら話さなくても構わないよ。そこまでデリカシーが無いつもりは無いからね。」


それを聞いて安心した。

いや、安心した、とは少し違うかもしれない。

なんというか、これで言質が取れた、というのが近い気分であろう。

というのも、直球に聞くわけにはいかない部分があると思っているからだ。


そう。

「この世界がゲームの世界である」、という事実を知っているかの確認を遠回しにしなければいけないと思っていたからだ。

もしその事実を知っていたなら簡単だ、お互いに行動方針を話し合ったりすれば良いのだから。

だが、相手は前世はバリバリの売れっ子女優アイドルだった人だ。

乙女ゲームというもの自体にそもそも縁が無かった人間かもしれない。

つまり、相手がその事実を知らなかったら、相手を混乱させるかもしれない。

それに、私がその知識によって有利な立場を取れる、という立場の差を作るような行為は、何故だかしたくはなかった。

…自分の思っている事は甘い事なのかもしれない。

でも、そういう立場の差を作って、ソルスやアルデールとはまた違う、マルニーニャ・オスクリダとしても黒野心としても対等な立場で言葉を交わせる…もしかしたら、「友達」と言えるかもしれない存在を失いたくないと、心のどこかで思っていた。


「すぅ…。」、と息を整える。

だから、これから、友達で居たいからこそ、嘘をつく。

あまり嘘をついたりするのは好きじゃないけど…やるしかない。


「私は、生まれた時から心臓が弱かった。…ううん、心臓だけじゃない、身体がそもそも弱かったわ。病院を入退院を繰り返して、なんとかそれでも中学を卒業して高校2年生までは頑張って生きたけど…私の身体は、20年生きれないだろうという宣告の通り、17歳で人生を終えたわ。…親や学校の友達の支えに応えて、もっと生きていたかったけど…身体はそれを許さなかったわ。」

「……それは、すまないね。言いづらい事を聞いてしまって。」

「ううん、構わないわ。私は、もっと生きたかった。もっと友達と話したり遊んだり、家族と何処かに出かけたり…走ったり勉強したり、色んな世界の色んな世界に触れてみたかった。それが叶わなかった事は事実よ。でも…そうやって、家族や友達や病院の人々に支えられて生きてきた人生を、情けないとか恥ずかしいとは思っていないし、もっと頑張りたかったけど、私なりに、頑張ったのも事実だから。だからそれを、あまり腫物のように扱わなくて良いのよ。…それに、前世がそうだった分、今の人生で勉強したり運動したりを楽しんでいるのも事実なのだからね。」

「あはは、そういう所は同じだね。僕達は、前世での後悔や思い残した事を、目一杯充実させているもの同士だ!」

「ふふ…そうね。だから、最初は大変だったし、ちょっと迷惑かもとも思っていたけど…今は結構、この勉強したり訓練したりしながら放課後に研究するこの時間は嫌いじゃないわよ。部活とかクラブ活動みたいでね。」

「おお!!そうかいそうかい!!なるほど確かに部活動みたいというのはなかなか面白い発想だなぁ!」


これは、嘘は一つも無い。

こう思っているのも事実だ、我ながらちょろいとも思うけれども。

今のこの時間が楽しいのも事実だし、だからこそこの実験に誘ってくれたエスセナとウルティハの二人には感謝しているのだ。

だからこそ、私は「友達」だと思っているのだろう。


「ところで、どんな生活をしていたんだい?」


急なエスセナの言葉に小さく驚く。


「へ?だから、入退院を繰り返して…。」

「ああ、そこじゃなくって。ほら、何か好きな事だったり遊んだりしていた事とかは無かったのかい?」


うっ。

一番聞かれたくない部分を聞かれた…。

自分が好きだった事、それこそがゲーム、特に恋愛ゲームであり、それがこの世界の、『やがて光の君と共に』の世界の根幹に関わるかもしれないのだ。

そしてその根幹に関わるという事は、私どころか、私以外の人達、特に登場人物達の運命に関わるかもしれないのだ、主に私の知識が原因で。

自分達の周囲は話し声や魔法、訓練の音で騒がしい。

私達の話を聞いている人は恐らく居ないであろうとは思うので誰かに聞かれるという心配は無いが、例えそれを考慮しなくてもそれを教えるのはかなりリスキーだ。

エスセナは『やがて光の君と共に』の登場人物ではない。

もしかしたらモブキャラクターに居たのかもしれないが、少なくともネームドキャラクターには居なかったのは事実だ。

恐らく、この世界で大きく流れに関わる事は無い…と思いたかったが。

私と同じ転生者である事がわかった上に、多分自分の思う通りの生き方をしてきたであろう。

そして、それは私も当てはまる部分もある。

つまり、もしかしたら既に何かが大きく変わっている部分もあるかもしれないのだ。

その上で、更にメタな世界について触れる事を共有しようとしたらどうなるだろうか。


秘密を共有する仲間を作るべきか、私だけの秘密にしておくべきか。


どちらが正しいのかは今はわからないが、「今はどうするか」、は決まっている。


「そうね…ゲームが好きだったわ。友達と一緒に遊んだりするような一部の動いたりしなきゃいけないゲームは出来なかったから、RPGとか、恋愛ゲームだったり。」

「ほうほう、ゲームかー。僕はあまりそういう遊びをする暇無かったから、あまり知らないんだよね。精々、ゲームの主題歌を担当したり、ゲームに出演させてもらったくらいかな。」

「それはそれで凄いとは思うけど…とりあえず、そんな感じで、凄くインドアな趣味の生活だったわよ。」

「……ふーん??」


さっきまでにこにこしていたエスセナの顔が、「怪しい」と言わんばかりに疑わし気な顔と視線でこちらを見る。


「え、えっと…何かしら?」


不味い。

明らかに今、私は動揺しているだろう。

今度はエスセナの顔はにやり、と笑った。


「マルニ…今は、心ちゃんって呼んだ方が良いかな?」

「ど、どっちでもいいけれど…何かしら?」

「僕は、私は、これでも前世でも今世でもそれなりに売れっ子の女優でねぇ。」

「も、もちろん、それは知ってるわよ。」


なんだろう、明らかに、これはサスペンスやミステリーで追い詰められる犯人の立場だ。


「これでも人の嘘とか隠し事を見破るのは得意なんだ。何と言っても、『演技とは嘘をつく事なり』、という言葉があるくらいだからねぇ。その逆で見破るのも自然に上手くなってきたんだ。」

「…そ、そう…。」


明らかに、今私は目が泳いでいるであろう。

つい無意識にエスセナと目を合わせないようにしてしまう。

もちろんそれを、僅かな変化をエスセナは見逃さない。

…前世や今世で探偵役とかやっていたのだろうか。

流石に女優やアイドルのおっかけみたいなのはやっていなかったからわからないが。


「そこまで動揺したり、詳細を語らない辺り、何か言いたくない部分がある…違うかな?」


…これ以上の嘘は、どうやら無駄らしい。


「……そうね。正直、あまり話せないことがあるわ。…でもそれは貴方への信頼がどうとかという理由

では無いわ。…話さない方が良いかもしれない、と。そう思うから話さない事にしたの。」

「ふーん…そっか。ならいいや!」

「……は?」


私は思わず間抜けな声を出してしまう。


「僕は『秘密がある』という事を確認したかったんだ。その秘密があるという事実がわかったという事、そしてそれが自分の為では無く僕達の為かもしれないという事!それがわかったなら、僕から、私から聞く事はこれ以上は無いさ!」

「あ、貴方、私がそこも嘘をついているかもしれないのよ…?貴方達の為じゃなく自分の為の保身で隠しているかもしれないのに、それを信じる理由なんて…!」

「それを自分で言う人を疑う理由って、あるかい?」


エスセナがニコリ、と笑った。

でも…私はびくり、と小さく震えた。

怖い、に近い感情かもしれない。

威圧感とかがあるわけでも無い、笑顔の筈なのに。

そのエスセナの笑顔は、どこか狂気のような部分が見えた。

まるで、「自分を騙せるとでも思っているような自惚れは無いよね??」、と言わんばかりに。

そんな、絶対の、揺るぎない自信を感じた。


「…わかったわよ。…いつか話して良いと思えたら話す、それまではまだ私の中で秘めておく事にするわ。それでいいかしら?」

「もちろん!いやあ、マルニの事がもっと知れて僕はとってもとっても嬉しいよ!」


普段の笑顔に変わって話すエスセナ。

今度は黒野心としては呼ばず、マルニとして呼ぶという事は、前世は前世、今世は今世という事なのだろうか。

そういう部分も含めて、気遣える部分は本当に気遣うのだなと思った。


この会話で二つの事を私は得た。

一つは、エスセナの言葉を鵜呑みするなら、恐らくエスセナはこの世界の事を全然知らないという事。

そしてもう一つは…。


(この世界の秘密をまだ打ち明ける事は出来なかったけど…こうやってエスセナに前世の事を、秘密の事を少しでも話せて良かったな)


少しだけ、背負う物が軽くなったという事だった。


エスセナの掘り下げのようでマルニ、黒野心の心情を書くことになった回です。まだ構想中ですが、日常的な部分はこういう回が増えていくかもしれませんね。また、コメントを参考に書き方を少し変えてみました。これで少しでも読みやすくなったのなら幸いなのですが…コメントをくださる方、読んでくださる方々、本当にありがとうございます!これからも面白い展開を書けるように頑張ります!

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