ウルティハ・インベスティの魔法芸術
エスセナの一人劇場が終わった後、次はウルティハが魔法を見せる為にまたブロックを現出させる。
「うっし、じゃあ、見せてやらあ!」
そう言いながら、ウルティハは、魔力を手に纏わせていく。
様々な色の輝く魔力を見ると綺麗だ…と思うのと同時に少し気になる事がある。
「…ウルティは、現出は使わないのかしら?」
そう、なにも現出で武器を出したり、エスセナのように外部媒介を使う様子が無い。
「ん?おう、アタシ様の魔法は直接撃つ!直接ぶち抜く!!それがアタシ様の魔法の信条だぜ!」
「…何かそれも理由があるのかしら?」
「んー?まあ、無くは無いなぁ。」
魔力で遊ぶようにくるくると魔力を浮かばせる。
そうしながら、ウルティハは応える。
「現出は現出でもちろん強みはあるし、それに合わせた魔法の戦略とかもあるのはわかっちゃ居るんだけどさー、アタシ様は特別運動能力が高いってわけじゃないし、騎士志望じゃないし、あくまで魔法研究家だからなぁ。手から撃てる魔法とかならすぐに撃てるし、別に手から撃つ魔法だって戦略が少ないわけじゃないんだぜー?」
そう言いながら「よっ」と軽く手を振るう。
そうすると、さっきまで遊んでいた魔力がまるでおおきなシャボンだまのように拡散してゆっくりとブロックに近づいていく。
「例えばこんな風に…よっ!爆!」
ぐっ、とウルティハが手を握ると、そのシャボンだまが一気に弾けて爆散する。
炎、水、風、氷、雷。
熱と木と土は無かったが、様々な属性の魔力が弾ける。
炎が燃やし、水が削り取り、風が切り裂き、氷が凍てつかせ、雷が爆ぜる。
「……確かに、凄い。」
外部媒介を使わずにこんな事が出来るのは間違いなく、圧倒的な魔力とコントロール故に成せる技だろう。
何より、それを単純な魔力でやるのでは無く、美しく行う事が出来るというのは良いと思う。
魔法が素敵なだけでは無いのは、もちろん今更わかっては居る。
でも、だからこそ…『魔法研究家』、『魔女』などと呼ばれる彼女の魔法がこうやって美しいのは、心に響く物がある。
だからこそ…
「凄く…綺麗ね。」
そう思わず、小さく呟いた。
それをどうやら、二人は聞き逃さなかったらしい。
「そうだろうそうだろう、ティハの魔法は、美しいんだ!」
「違うだろ、セナ!…魔法ってのはな、美しくて、楽しいんだ。」
へら、と二人は笑う。
(…こんな顔もするんだ、二人とも。)
変わり者だとか、貴族の中では厄介者扱いの二人でも、こんな風に穏やかに笑い合う時があるのだな、と。
それを微笑ましく思うのと同時に。
(私も、ソルスと居る時は、こんな風に笑って居るのかな。)、と。
そう思うのであった。
「確かに今のは凄かったわ。それで…様々なやり方があるって言うなら、他にも色んな魔法があるのよね?」
そう言うと、ウルティハは待ってました、と言わんばかりに笑みを見せる。
「あったり前だろ!一つマルニに見せたい魔法があるんだよ!」
そう言いながら、左手に魔力を溜めていく。
色はどちらかと言うと赤色が多めの魔力の輝きだ。
恐らく炎属性が中心の魔法だろう。
(一体どんな魔法を見せる気なんだろう…?)
そう思いながら見つめる。
「これはな、エスセナが考案した魔法なんだ…完成した時早く色んな人の見せたかった、まさに芸術の魔法何だぜ!」
魔力を溜めて振るう為にウルティハは構える。
「さあさあ、皆さん見ていきな!アタシ様とっておきの芸術的な魔法、今ならタダで見れるチャンスだぜ!見なかった事を後悔すんなよ!」
ウルティハが室内訓練場の周りの人を煽るように叫ぶ。
「なんだ?」
「魔法の芸術って何々?」
「あの『魔女』の魔法か…見ていく価値はあるだろうか。」
エスセナが一人芝居をしたときとはまた違う、まるで大道芸を見るように周りに他の生徒が集まってくる。
(この状況で魔法を魅せようとする度胸、凄いな…)
そう思いながら様子を見届ける。
「行くぜお前ら!踊る火花【バイラリーナ・チスバ】!!」
溜めた魔力を、振るう手と共にウルティハは解き放った。
拡散する魔力の光。
その光が天井近くにまで飛んだり、真っすぐ飛んだり。
様々な方向に乱れ飛ぶも、コントロールしているのか人に当たるようなへまはしなかった。
「散!」
そうしてまるで楽団の指揮をするかのように手を振り上げた。
するとどうだろう。
【バン!バァン!バンバン!】
【ヒューッ、バァアアン!】
それは、まるで、いや、まるでじゃない。
それは、どう見ても、明らかに…。
(あ…嘘。この世界で、見れるなんて…。)
この世界、ディアーユに転生して。
このインフロールの国に生まれて。
コミエドールの町で育って。
その生活の中でもアイスキャンデーみたいなクールキャンデーを見つけたり。
そんな風に、前世と同じような物を見つけたら嬉しい気持ちになっていたけど…。
まさか。
まさかこんな所で見つけるなんて。
(…花火、綺麗)
そう。
ウルティハが撃った魔法は、まさに花火以外の何物でも無かった。
「おお…!」と周りからも歓声が上がった。
それすらも、花火の美しさと音に彩りを添えるようで。
私は何も言えず、ノスタルジーに浸りながら、その花火の魔法に目を奪われているのだった。
ウルティハの魔法について書くと理論的なのはもちろんですが芸術的な感性の部分も働かせなきゃいけないから大変ですね…本当はもっと書きたいことや説明したい事も沢山あるのですが。