小話.寝起きの蜂蜜飴
学院生活3年目のとある一日の物語
目覚めた朝は喉の痛みに悩まされる。
乾燥が気になる季節が迫っているのだ。
真っ先に口の中をゆすぐと多少は引き攣りそうな喉奥の痛みが緩和されるから、それから朝の紅茶をひと口飲む。
「ううん……」
声を出して、声音を確かめる。
喉を包み込むように手のひらを当てて温めてみた。
「ご主人様。毎朝辛そうなので蜂蜜飴をご用意いたしました。いかがですか」
「ありがとう、カーチェ」
包装紙に包まれた飴が平たい小皿に五つ。
そのうちの一つをとって、口の中に放り込む。
じわりと舌に広がっていく蜂蜜の甘さにマルティエナは顔を緩ませた。
(ポケットに入れて持っていこうかな?)
溶け出した飴が喉の内側を保湿してくれる。
制服に着替えて寝癖を直していく間に、舌の上から消えていった。
「あ、あ……うん、調子が戻ったかな」
掠れていた声は元通り。
地声がどうであれ関係ないけどね、と思いながらも自身に魔法をかけていく。
ヴァルトセレーノ王立魔法学院には魔法医学関連の講師を兼ねた医師が複数名在職している。
広大な敷地内に治療室が点在しており、24時間いつでも診察してもらえる体制なのだが、マルティエナには最も縁遠い場所だった。
というのも、闇の古代魔法で『マティアス・オーレン』の姿かたちに変えていることが原因だ。
自身を偽る古代魔法。
使いこなすには詳細なイメージが秘訣となる。
病気なら尚のこと。
例えば、足を骨折したのならどのように骨が折れ、今の状態がどうなっているのか。それらが他の体の部位にどんな影響を与えるのかといった具合に。
発熱したとして、その原因を自分で知っていなければ『マティアス・オーレン』の姿で正確な診断は受けられない。
生まれてからの日々を一緒に過ごしてきた兄を想像するのとは訳が違う。
それほどの医学知識を持ち合わせていないマルティエナが診察を受けたのならば、良くて誤診、最悪は未知の病として研究対象にされかねない。
結果、上手く診察を逃れて定番の薬を入手するか、自然治癒を待つかの二択になる。
「マティアス様、朝食のご用意ができました。ひよこ豆のサンドイッチにきのこのクリームスープ、ヨーグルトのムースです」
「ありがとう、エルジオ。どれも美味しそうだ」
学生寮の食堂は、朝昼晩の三食とも作られた数種類の料理の中から食べたいものを各自取り分けていくスタイルだ。
連れてきた使用人に配膳を任せ、自室で食事を済ませる者も一定数いて、マルティエナも朝食はそうすることが日常だった。
「それじゃあ行ってくるね」
カーチェとエルジオに見送られてマルティエナの学院生活は始まる。
今日は一日どのように過ごそうか。
講堂までの通学路で、やるべきこととしたかったことを思い浮かべていた。
→温室へ
→講堂へ
→???(loading…)




