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『マティアス・オーレン』の行方 〜ところで、兄はいつ戻ってくるのでしょう?〜  作者: 青葉 ユウ
-- Chapter 1 --

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25.学院祭の過ごし方



 ヴァルトセレーノ王立魔法学院の学院祭は年に一度、三日間にわたり開催される。

 純粋な魔法の技術を競うトーナメントや武術を交えたトーナメントの他に、入学式に第一王子が見せた芸術のような魔法をお披露目したり、研究中の魔道具を発表する場もある。

 貴族や商人、国の組織といった重鎮達が足繁く訪れ、才を見込んだ者の顔と名前を覚えて卒業後の就職先にどうかと勧誘する。学院祭は個々の力量を学外にアピールする絶好の機会なのだ。


 季節によって魔法の効果が多少なりとも影響を受けるので、平等に優位な機会が訪れるようにローテーションで開催時期は変わる。つまり、誰しも在学期間のうち一度は得意な元素魔法を発揮できる季節に学院祭が行われるのである。


 とはいえ、実力の備わっていない一年次にその機会が巡れば大したアピールにならない。その辺りの事情を理解している大人も多いが、実力を見定めて目にかけてくれるかは別問題だ。

 結局は運次第なのだが、逆を言えば不得手な季節だからこそ実力が証明できる場合もある。


 学院祭での催しは全て自由参加のため、一つも予定をつくらなかったマルティエナは、学院祭限定で屋台を開く商人と品定めする学生で賑わう遊歩道を情報資料館の窓越しに眺めていた。


「お〜、お前やっぱりここにいたな」


 そんなマルティエナに声をかけたのはクレイグだ。去年と変わらぬ光景に笑みが漏れる。


「クレイグは今年も参加しなかったんだ?」


 学院祭一日目の今日は魔法と武術の腕を競うトーナメントが開催されている。

 学生と学院祭に足を運んだ者の多くは寒空の下、闘技場の観覧席から勝敗の行方を見届けているだろう。


「当然だろ」


 クレイグにとって当然なのか。

 顎に指を当てたマルティエナは、ううんと首を捻る。


「私は爵位を継ぐから困らないけれど、君は必要じゃないの? 大人からの評価がさ」

「俺はタイミングを見計らってるってだけ。来年はでるつもり」

「その考えには私も賛成かな」

「お前も俺の真似していいぞ」


 情報資料館に来たというのに手ぶらのまま席に着かないクレイグに、マルティエナは読んでいた本を閉じると立ち上がる。


「これでも一度は出ておこうと思っているよ。埋もれて終わる気はないからね」

「いや~、お前とは当たりたくねぇな」


 冗談交じりに笑うクレイグが歩き出す。

 その横を歩くために大幅で踏み出したマルティエナは、その時までに兄は戻ってきてくれるだろうかと肩を竦めるのだった。



 ◇◇◇



 トーナメントを開催している闘技場は学院の離れにある。

 そこに至るまでの道筋には学生が生み出した魔道具や、栽培に成功した植物、魔獣の素材を加工した装飾品等を販売する出店が連なるのだが、反対に学院本棟の前に広がる運河の両端の遊歩道には、次代を担う可能性のある学生と若いうちからコネクションを得ようと各地から訪れた商人が出店を開く。


 なかには国を跨ぐ旅商人や異国の商人もいて、取り扱う商品もバラエティ豊か。

 外部へのアピールよりこちらを楽しみにする者も一定数いて、マルティエナとクレイグがまさにそうだった。


「それアレッタ嬢にでもあげんの?」


 陳列棚に等間隔で並べられた品からひとつ手にとったマルティエナに、隣から顔を覗かせたクレイグが尋ねる。


「たしかにアレッタ嬢に似合いそうだね」


 深みのある青紫の宝石。角のないなだらかな曲線のチャーム。日陰の棚に並べられた姿は夜の暗い色合いに染まる宝石の雫だった。

 光に透かすと綺麗ではないかと手にとっただけなのだが、言われてみるとアレッタによく似合う。


「兄さん、目の付け所がいいねえ! そいつは陽の光を吸収して内側から輝く貴重な石だよ」

「光を?」


 折角なので試してみようと太陽が昇る空にかざす。

 クレイグと二人して指の先程の宝石をじっと覗き込んだ。


「う~ん? おっ、色変わってね?」

「本当だ……アレッタ嬢の瞳の色……」


 内側から光を放ち始めた鮮やかな紫。月夜の下で艶めく黒髪と白い肌に映える宝石だと思ったが、白昼の下でもアレッタに寄り添う宝石だったらしい。


「兄さん、グランマ王国の金細工職人と提携しているから、宝飾品にするなら幾分か値引きするぞ」

「耳飾りにしたいんだけれど、どんなデザインになるかな」

「これまで取り扱った図案はこれだが、イメージがあれば言ってくれ。ちなみにこれが完成品の売り物な」


 早々と購入を決めると着々と話は進む。オーレン伯爵家が懇意にしている宝石細工師に依頼しようと思っていたが、渡された数枚の図案を見てみると、繊細な意匠ばかり。その金細工職人が作ったという宝飾品も欠点のない出来栄えだ。


 ヴァルトセレーノ王国から離れた位置にあるグランマ王国の職人ということもあってマルティエナが身につけるなら異国感が目立つだろうが、顔立ちのはっきりとしているアレッタにはこちらの方が合うかもしれない。


 図案の中から一つ選び、更に希望のモチーフやアレッタのイメージを伝えていく。


「そんじゃ、出来上がったら送り届けるからな! 問題があればここに一報いれてくれ。俺の店だ」

「楽しみにしているよ。よろしくね」


 ひらりと手を振って、名を覚えた商人と別れる。

 辺りを見渡して近くの露店の品を物色している最中のクレイグを見つけたマルティエナは、途中で一人の商人とすれ違った。


 折り畳みの椅子を脇に抱え、陳列棚になる木板や敷布をひとまとめに背中に背負った商人は、学院祭は始まったばかりだというのに帰路につく出で立ちに見える。

 単に出店場所を変えるだけなのかもしれないが、それにしても早すぎないだろうか。


「おや、お前さんもう帰んのかい」


 背後から聞こえた男の声は、先ほどまでマルティエナがやりとりしていた商人のもの。どちらもヴァルトセレーノ王国では見慣れぬ服を着ていたので、同郷の商人かもしれない。


「いやぁ、目つきの悪いお兄さんが買い占めてくれたんでね。太っ腹な客人に会えて運が良かったよ」

「そりゃすごい! 使い道のわからん掘り出し物の魔道具なんだろう? ここではそういった品の方が需要があるんだな~」



(目つきの悪い、太っ腹な客人?)



 学生を網羅しているわけではないが、身近な人物が思い浮かぶ。

 学院祭の花形であるトーナメント戦よりこちらに足を運ぶ点も、使い道の不明な魔道具を買い占める点も。

 それに、魔道具は質と効力によって売値は天から地へと分かれる。使い道が不明瞭ということはどちらかもわからないため、大抵高値がつけられるものだ。そんな品に手を出せる財力と、金に糸目をつけない姿勢。


(折角だし後で様子を見に行ってみようかな)


 大半の学生が浮足立つ学院祭。

 気前の良い買い物を済ませたコルスタンは今日も変わらず昼寝をするのではないか。

 こんな日だからこそ師匠の昼寝に少し付き合うのも気持ちいいかもしれない。


 その後に闘技場に顔を出せば上位争いが見れることだろう。卒業を控えた第一王子の姿を一目見ようと、今年は大勢の人が集まっている。アスタシオンも参加すると話していたので、順調に勝ち進んでいけば兄弟の一騎打ちも有り得る。


 今後の予定を決めたマルティエナは、その後もクレイグとともに並べられた品々をのんびりと見て回るのだった。


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