【わらしべ長者】わらしべを交換していたら聖剣エクスカリバーになったし、最終的に国も手に入った
あるところに、少々奇妙な言動を好む一人の男がいました。そんな男はある日、風変わりな声を聞きます。
「人の子よ。そなたは中々に見所がありそうだ。邪神である我が、直々に得物を授けよう」
男の前に一本のわらしべが出現しました。
「それは今はただのわらしべに過ぎぬ。しかし、やがて形を変え、ついには大いなる混沌を引き起こす災厄へと成り代わるのだ……」
どうやら少々患っていらっしゃる神様のようでしたが、男は大喜びしました。そして、そのわらしべを持って、早速旅に出ることにします。
男がしばらく歩いていると、村の外れの広場で、子どもたちが遊んでいるのが見えました。布きれをマントのように身につけている二人の男の子です。しかし、どうも様子がおかしいようです。
「うわーん。魔法使いごっこ、やりたいよー!」
「仕方ないだろ。杖を池に落としちゃったんだから」
見れば、近くの池に手頃な大きさの木の枝が浮いていました。どうやら『魔法の杖』とは、これのことのようです。
男はなんとなく気の毒になって、子どもたちに話しかけました。
「泣くな、童よ。我は神より掲示を受けし光の大魔法使い。これは神に賜った我が得物だ」
男は自分の持っているわらしべを子どもに差し出しました。
「見たところ、貴様にも俺様と同じ大魔法使いの素質があるようだ。我が同胞とあらば、その窮地を捨て置くわけにもいくまい。この杖を授けよう」
男からわらしべをもらった男の子は目を見開きました。
「えっ、いいの!?」
「もちろんだ。だが、タダではやれん。何か対価を寄越せ」
「えっと……。じゃあ、これ!」
男の子は無邪気な笑顔を浮かべながら、羽織っていたマントを脱ぎました。男はそれを受け取って、微かな笑みを浮かべます。
「ほう……。漆黒の闇に染まる夜半の羽衣か。悪くない。もらっておこう」
男は魔法使いごっこを再開する子どもたちと別れ、旅を続けました。
その道中、武装した一人の青年と出会います。彼はとても困っている様子でしたが、男が持っているものに目を留めると、ハッとした表情になりました。
「君、すまないが、その布を譲ってくれないか?」
青年が見ていたのは、男が子どもからもらった『漆黒の闇に染まる夜半の羽衣』でした。
「もちろん、お金は払うよ。……でも、今は持ち合わせがないんだ。だから代わりにこの剣を……」
青年は腰の剣を男に押しつけると、その手から布を引ったくりました。渡されたものを見た男はポカンと口を開けます。
「こ、これは、聖剣エクスカリバーではないか! 魔王を封じることのできる、ただ一つの武器と言われる……」
これをどこで、と男は聞こうとしました。しかし、その頃には青年は姿を消しています。それと入れ違うように、複数人の兵士風の男たちがやって来ました。
「勇者様! ここにいたんですか!」
「探しましたよ!」
どうやら兵士たちは男に話しかけているようです。しかし、まったく心当たりがなかった男は「勇者?」と首を傾げました。
「何を言っているのだ。俺様は、ただのわらしべを授かりし者だ。勇者などでは……」
「何を仰っているのですか! その手の聖剣こそ勇者の証! ……言われてみれば、顔が違う気もするが」
「確かに。そういえば、先ほどすれ違った布を被った不審な青年の方が、何となく元の勇者様に似ているような……」
「いや、そんなことはどうでもいい。この剣を持つ者こそが勇者! 魔王を倒す者なのだから!」
「そうだそうだ! 前の勇者なんて、『魔王退治は怖くて嫌だ』なんて言うような腑抜けじゃないか! そんなのに勇者なんて務まるわけない!」
「新勇者様、ばんざーい!」
兵士たちは勝手に盛り上がり始めました。最初は困惑していた男でしたが、『勇者』という心踊る響きにすっかり魅了され、何となくこの状況を受け入れてしまいます。
兵士たちに連れられて、男は魔王城へとやって来ました。決闘は二人きりでするものだと決まっているそうなので、男は単独で城の中へと乗り込みます。そして、玉座の間で魔王と対峙しました。
「なっ……! それは聖剣エクスカリバー! 我が輩を封じる気か!」
豪奢な椅子に座っていた魔王は、男が腰に差している剣を見てたじろぎました。男はいい気になってニヤリと笑います。
「さあ、覚悟せよ、魔王!」
男は柄に手をかけます。それを見た魔王はひっくり返りそうなくらいに慌てふためきました。
「ま、待ってくれ。取引といこうじゃないか」
魔王は両手を大きく広げました。
「我が輩を倒すよりも、共に歩む方がよいと思わぬか? この世界の半分をお前にくれてやったってよいのだぞ?」
「世界の半分? そんなものをタダでもらうわけにはいかん」
すっかり物々交換に慣れきっていた男は、反射的に答えました。そして、腰の剣を抜きます。
「これと交換でどうだ?」
このまたとない申し出を魔王が受けたのは言うまでもありません。
こうして男と魔王は共同統治者となり、その後の暗黒世界で末永く幸せに暮らしたということです。