【大きなかぶ】当然、抜けない
「や、カブめ、とうとう生えてきおったな」
この間植えたカブが成長しているのを見つけたのは、畑仕事に出たおじいさんでした。
「昨日、寝ないで必殺技を考えたかいがあったわい。……食らえ! 必殺、カブ抜き拳『うんとこショット』!」
おじいさんは勇ましいかけ声と共に体をねじりました。
しかし、カブは抜けません。
「ふん、そう来なくてはいかん」
おじいさんは勝ち気に笑いました。
「最近の野菜は手応えがないのが多すぎる。少しはワシも楽しませてもらわんとな……。ゆけ、『よっこらショット』!」
おじいさんは両手を高く掲げて片足立ちになりました。
それでもカブは抜けません。
「なんとまあ、我が夫ともあろう者が、衰えたものよ……」
そこに、おばあさんがやって来ました。
「その程度のことで、大地を裂く白の悪魔が抜けるものか。……退いていろ、私がやる」
おばあさんは近くから木の枝を拾ってくると、その先をカブに向けて突きつけました。
「この魔剣ホワイトレヴナントソードをかわせるか? ほあっちゃー!」
おばあさんは木の枝でカブを何度も叩き始めました。
ですが、カブは抜けません。
「ぐあっ……!」
その内に枝が折れて、おばあさんの額に直撃しました。おばあさんは頭を押さえて、地面にうずくまります。
「こいつ、できる……!」
おじいさんはおばあさんに駆け寄り、カブを忌々しげに睨みました。
「魔剣将軍!」
その光景を見ていた孫娘が飛んできました。
「くっ……もはや私もこれまでか……」
おばあさんは仰々しく手を天に伸ばしました。それを孫娘が握りしめ、唇を噛みます。
「おのれ、よくも我らの大将を……」
孫娘は勢いよく立ち上がると、折れた木の枝を使って、地面に魔方陣を描きだしました。
「お、お前、まさかそれは禁断の……」
おじいさんは目を見開きます。
「やめろ! そんなことをすればお前は……!」
「……今まで世話になりましたね、カブ抜き拳の伝承者よ」
孫娘は覚悟を決めた顔をしています。それを見たおじいさんは、止めても無駄だと思ったのでしょうか。拳に力を込めました。
「待て、妻の仇だ。ワシもやろう」
おじいさんは「はああぁ……」と唸って、気合いをため込みます。それを見たおばあさんは、よろよろと起き上がりました。
「貴様らにそこまでのことをさせておいて、この私が何もせぬというわけにもいくまいな。見せてやろうではないか、大地を裂く白の悪魔に、我が究極奥義を……。この残り少ない命を賭して、な」
彼らは三方向からカブを囲みます。そして、それぞれが得意な技を一斉に放ち始めました。
「食らえ、必殺二連拳、『うんとこショット、どっこいショット』!」
「ブラックレヴナントソード!」
「出よカブ喰らいの獣! ドーン、バーン、ズババーン!」
三人の猛攻をカブはもろに食らいました。土煙が舞い、視界が遮られます。
「やったか……?」
誰かが呟きました。
そして、視界が晴れた先に広がっていた光景はというと……。
結局カブは抜けていませんでした。




