【花咲かじいさん】ぽちの言うとおりに庭を掘ったら、タイタンの骨が出てきた
昔々、あるところに、正直じいさんと、その飼い犬のぽちが暮らしていました。
ある日、ぽちは庭に出て「ここ掘れわんわん!」と吠えました。
正直じいさんは不思議に思いつつも、言われるままに庭を掘ってみます。すると、そこから大判小判がザクザクと出てきたではありませんか。
「おお! こりゃすごい!」
正直じいさんは腰を抜かさんばかりに驚きました。ぽちは、いつもお世話になっているおじいさんに恩返しができて大満足です。
「何をしているのだ?」
すると、騒ぎを聞きつけたのでしょうか。隣に住んでいる中二病じいさんが声をかけてきました。
「わふ……」
ぽちは中二病じいさんを見るなり、軽く威嚇の声を上げました。このおじいさんは、いつも奇妙な言動で皆を困惑させている迷惑な老人だったのです。
「実は、うちのぽちがお宝を嗅ぎ当てましてね」
「ほう、やるではないか、忠犬ケルベロスよ」
正直じいさんから訳を聞かされた中二病じいさんが、ぽちの頭を撫でます。ぽちは唸りましたが、あまり効果はありません。
「おじいさんもやってみますかな?」
人の好い正直じいさんは、中二病じいさんにぽちを貸し出そうとします。
飼い主にそんなことを言われたら、ペットであるぽちが逆らうわけにもいきません。そこで、ぽちは一計を案じることにしました。
「ここ掘れわんわん!」
ぽちは庭の端に移動すると、前足で地面を引っ掻きました。
中二病じいさんはそこを掘ります。出てきたのは骨でした。
この骨は、この間ぽちが埋めたおやつでした。きっと中二病じいさんは悔しがるだろうと思い、ぽちはニヤリと笑います。
ですが……。
「おおっ! これは、金色の野辺を逍遙せしタイタンの骨ではないか!」
中二病じいさんは、骨を見て嬉しそうな顔になりました。一体何を言っているのだろうと、ぽちは困惑します。
「おじいさん? そのこん……何とかというのは、何ですかな?」
正直じいさんも首を傾げて、中二病じいさんに何事かと尋ねました。
「ふん、知らんのか。まあ、無理もあるまい。これは古代に封じられたはずの、汚らわしき記憶だからな……」
中二病じいさんは芝居がかった仕草で骨を持ち上げました。
「かつてこの地上には、触れたもの全てを黄金に変えてしまうという巨人族がいたのだ。今は滅び去ってしまったが、その稀有なる力は、まだ奴らの遺骸に宿っていると言われている……」
中二病じいさんは恍惚とした表情になっています。なんだ、またお得意のホラか、とぽちは呆れました。
しかし、正直じいさんの反応は違いました。おじいさんは目を輝かせて、「な、なんと!」と飛び上がったのです。
「で、では、まさかその骨は……」
「左様。これを使えば、あらゆるものを黄金に変えることができるのだ」
「そりゃあすごい! 大判小判なんかよりずっといいじゃないか! 頼む、それをワシがさっき掘り当てたお宝と引き換えに譲ってくれ!」
正直じいさんはとんでもないことを言い出しました。
何を言っているんですかおじいさん。それは、あなたが一昨日僕にくれた骨ですよ、とぽちは言いたくてたまりませんでした。
ですが、「ここ掘れわんわん!」しか喋れないぽちには、そんなことは無理でした。
ぽちが口をパクパクさせていると、中二病じいさんはもったいぶりながら「ふむ……」と腕組みします。
「仕方がない。隣人の頼みとあっては断るわけにもいくまいな。……よし、持って行くがよい」
ぽちがオロオロしている間に、取引は成立してしまいした。
中二病じいさんは大判小判を抱えながら、いそいそと自宅へ帰っていきます。
「儲かった! 儲かった!」
薄汚れた骨を手に、正直じいさんは小躍りしていました。
「わふ……」
どうやら『正直じいさん』は己の欲望にも正直だったらしいと思いながら、ぽちはやるせない思いで主人を見つめるしかありませんでした。




