色々な疑惑があるようです。
「ではこちらがユリ様の部屋になります。何か用があればベルを鳴らして頂ければ近くに控えている者が来ますので」
「ありがとうございます」
礼を伝えるとすぐに立ち去っていく男性。神官と呼ばれる人なのだそう。ここの神殿には使用人はおらず、全部自分たちで管理しているのだと聞いた。
部屋を覗いてみると、1人部屋にしたらかなり広い。さすがに王城の部屋程の広さはないが、2,3人は泊まれそうな広さの部屋に、アンティークの化粧台とクローゼット、そしてベットが置かれている。全て私好みだ。ベットの横には大きな窓があり、開放感もある。
「30分後か……。そんなにゆっくりしている時間はないよね」
大きな窓からは先程の湖が見える。王族が泊まるように用意されていた部屋だから眺めも良い位置にあるのだろう。明日の朝は早起きして湖に朝日が当たるのを見るのも気分転換には良いかもしれない。
そんなことを思いながら暫く景色を眺めていると湖を歩く人影が見える。
「あれは……ユーリとララさん?」
少し距離があるので人影はかなり小さいのだが、あの目立つ赤髪はユーリで間違いないだろう。そしてその隣を歩く小柄な女性もララさんしか思い当たらない。
確かユーリの部屋へはララさんが案内すると言っていたのだが、そのまま2人で湖に来たのだろうか。
「何であの二人が?」
二人は知り合いではあるようだが、そこまで親しくしているようには思えなかったのに。いや、ララさんがユーリのことを特別かのように思っている気配はしたが、ユーリはいつもと調子は変わらなかった。だから特別な関係だとは思わなかったのに実際は違うの?
……やっぱりゲームと同じように2人も惹かれ合っているのだろうか。でももしあの2人が結婚したら? 勇者と聖女様が結婚? でもそれなら勇者と聖女の子孫であるゲームの中のユウとリリーも親戚のはずだがそうではなかった。だから違うよね?
そう私が混乱している間にも、2人は仲睦まじい様子で湖を見ながら座り込んで話している。
もし2人が結婚したら……ユウは生れなくなってしまうかも知れない。ユウが生れる為には惹かれ合っている2人を引き離さなきゃいけない? 私が2人を引き裂くの?
でもこの世界に居るはずのなかった私が手を出したりしたら、それこそ未来が変わってしまうんじゃないの?
私は茫然としながら2人が話す後姿を見つめることしか出来なかった。2人は私の視線に気づくことなく暫くすると立ち上がり一緒に建物内に入っていく。
「……」
はっとなり時計を見ると、あと5分程で集合の時間となる。……そういえばリア様の部屋の位置を聞きそびれていた。
きっとこの後大事な話があるに違いない。先程見た光景は気になるが、頭の片隅に無理やり追いやる。わざわざララさん達が居ない所で話す内容だ。ゲームの世界のことも聞かれるかもしれない。
ベルを鳴らして来てくれた神官の方にリア様の部屋の位置を聞く。案内は断り、1人で部屋に行くまでにゲームのことを思い出しながら歩いて行った。
◇
「全員揃ったようだな。それでリア殿、いったい何が分かったんだ。わざわざみんなを集めてということは重要なことなんだろう?」
「ええ。ですのでユリ殿、スキルを使ってこの部屋を盗聴されないように防音の魔法を掛けて下さいませんか?」
「えっ。防音ですか?」
そこまでする必要があるのかと思いながらも、ミラー様にも促されたので魔法を使う。
『防音になれ~~。盗聴も防げ~~』
ユーリから冷たい視線が送られているのは気のせいだろう。うん、呪文はアレだがイメージはバッチリだからちゃんと出来ているはず。
「……いささか不安ではありますが、多分大丈夫でしょう。では今から言うことはあくまでも可能性の話ですからそれを念頭においてください。ちゃんとした確信があるわけではありません」
「承知している。今分かっていることを教えてくれ」
リア様の言葉に一気に緊張感が走る。みんなが真剣な表情で次のリア様の言葉を待つ。隣のユーリからもごくりと唾を呑む音が聞こえてくる。
「祈りが捧げられているはずなのに、あの魔石には魔力が0、空の状態でした」
「なんだと!? 魔力が溜まっていない? 使ったということか?」
「魔力が溜まっていないってどういうことなんですか?」
私が質問するとユーリが説明してくれる。
「神官長や聖女が祈りを捧げていると言っていただろう。お前が持っている魔石のネックレスにムーンの力を溜めているように、魔石というのは魔力を溜めていざという時にその溜めた力を使うんだ」
「そして神官長や聖女はその祈りが他の者よりも強い。そういうスキルを持っているからね。だから彼らの今までの祈りによって、魔石には膨大な魔力が溜まっているはずだったんだ。そしてその魔力を使うべき時が来たら、必ず王城に報告する手はずになっている。そしてその報告は近年の間ではなかったはずだ」
「本来自然災害や大飢饉などの非常事態でのみ、その魔力を使用出来るようになっていますからね。100年程前に使用したとの報告があったはずですが、歴史書が正しければそれが最後のはずです」
「なるほど。あるはずの魔力がなくなってしまっている。確かにそれは異常事態ですね。どこに魔力がいってしまったんでしょうか」
そう問うが、ミラー様も考え込んでしまい重たい空気だけが漂っている。そしてそんな中、リア様が再び口を開く。
「それは……あの魔石から魔力がどこかへ供給されている形跡があります」
「魔力が供給? どういうことだ?」
「あの魔石に神官やララ殿が祈りを捧げていると言っていましたね? その祈りによって彼らの魔力が魔石に溜まっているんです。そしてその溜まった魔力が継続的にある場所へ供給された形跡が確認されました」
「一体どこに送っているというんだ?」
いつも丁寧な対応をしているはずのミラー様が詰め寄るような口調になっている。その言葉遣いからも深刻な様子が伝わってくる。
「……。あくまでも推測でしかありません。供給先まで特定は出来なかったのですが、2か所供給場所があり、1か所はあの海ダンジョンの方面に向かっていました」
「あのダンジョンの魔石にか?」
「はい、おそらくは」
「……その魔力の供給のせいで、あの巨大イカが発生したのか?」
今までずっと黙って2人の話を聞いていたユーリが初めて口を挟む。
「その可能性は高いと思います。今までずっと何もなかったのに、あの魔石があるとはいえ、急にあんな魔物が出る可能性は何かきっかけがないと考えられません」
「だが今までも祈りはずっと捧げられていたのだろう? それがなぜ今になって急に関係してくるんだ」
「私の推測でしかないですが、長年の魔力がやっと巨大イカが発生させるレベルまで溜まったか、もしくは聖女の特別な魔力が力を与えたか……」
「そんな……」
思わず呟いてしまう。
「それでもう一か所はどこなんだ?」
「遠くて場所の特定までは出来なかったんですが、西の方面です。そしてこれは本当に憶測というか、私の勘になってしまうんですが。……おそらくあの魔力は魔王本体に供給されているんじゃないかと思います」
「なんだって!?」
「そんなことある訳ないだろう!!」
「どういうこと!?」
リア様の発言にみんなが驚いて声を荒げてしまう。
「供給先の方面から、どす黒い魔力を感じたんです。あれは普通の人間に出せるようなものではない。人間ではならざるものと言ったら魔王としか考えられません。あの魔石が魔王の魂の一部だとすれば、その魂に捧げた魔力が魔王本体に向かうのは当然の流れというか、そう考えると違和感がないのです」
「まさか……。魔王本体に魔力が供給されているとは……。いったい神殿は何をしてくれているんだ!!」
そう言いながら怒りをぶつけるように机に拳を叩きつけるミラー様。そしてユーリの様子も見てみると、彼も信じられないと言った表情でリア様を見つめている。
「これは神殿側に説明をしてもらわなければならない。今すぐ神官長をここに呼ぼう」
「いや、待ってください。こうは考えられないですか? 神殿側が魔王への魔力を故意に供給し続けていた」
「一体何の為にそんなことをするんだ!!」
「例えば、聖女と魔王の力を使ってこの国を制圧しようとしている……とかですね」
「なっ! あいつがそんなことするはずないだろう!!」
「やめてっ!!」




