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温泉を気に入ってくれたようです。

 

「湯加減はどう〜〜?」


「ちょうど良いからこっちに近づいてくるな!! その線からこっちに来るな!!」


「分かってるわよ。どうせ湯煙で見えないんだからそんなに神経質にならなくても良いのに」


「何か言ったか?」


「何でもないでーーす」


 彼は今私のお手製温泉を楽しんでいる。私の異世界チートの賜物だ。この前のダンジョンで怪我させたお詫びに温泉を作り疲れを癒してもらおうと思ったのだ。



 ◇



「ねぇ、いつまでこのテント生活を続けるの? 普通冒険って色んなところ旅するのよね?」


 私はそう愚痴ってしまう。何せここ1ヶ月お風呂に入れていないのだ。チート能力により川の水を温かくししたり、シャンプーも購入したりしてここに来た時よりも生活は良くなったが、それでもそろそろお風呂に浸かりたかった。何せ私はお風呂大好き日本人だったのだから。

 この世界にもお風呂に入る文化はあるらしいのだが、どうやら大きな宿に泊まった時に入るものらしい。それも温泉みたいな特別な感じではなく、一部屋一部屋にお風呂をつける余裕がないから、みんなまとめて入れるように大浴場をつけただけみたいな感じ。

 だから別に入れなくても構わないし、それに入る為に宿に泊まるのも彼からしたら考えられないらしい。

 そこで私は考えた。彼にお風呂の素晴らしさを味わってもらおうと。



「お風呂を作るってそんなことで出来ないだろう。そんなに入りたいなら今度宿に連れて行くからそんな訳がわからないことするなよ。労力と能力の無駄使いだ」


「無駄かどうかは私が決めるの! 見てなさいよ、私の凄さを分からせてあげる!」



 そう言って腕まくりをする私を彼が呆れた目で見ていたが無視無視。。

 私の計画では、この川のすぐ隣に穴を掘り、そこに川の水を移し温める予定だ。天然温泉を作ってみせる! 実際は私が作る人工物なのだが、こういうのは雰囲気が大事なのだ。

 私は人が1人入れるくらいの穴を思い浮かべて呪文を唱える……。



「穴を掘れ〜〜!!」

 グググ、ド〜〜ンッ!!


 そう言うと私が狙いを定めた場所に大きな穴が空く。イメージ通りだ。次は川の水を穴に移す。


「前から思ってたけどお前の呪文ってほんと雑だよな。性格が出てる」


 横から雑音が入るが何も聞こえない。


「水よ来い!!」


「来いってなんだよ。生き物でもあるまい」


「うるさいわね! 集中出来ないから黙って!!」


「はいはい、ってこの水濁ってるぞ。とても風呂として入れるもんじゃない」


 そう言われて見てみると、穴に水は移動したのだが、砂と混ざってしまい濁っている。これでは泥水に浸かることになってしまう。



「うーーん、どうしよう。砂をどうにか出来たら良いんだけど」


 とりあえず一度水を川に戻してみる。穴の底はぬかるんだ状態だ。

 私のチートの残念なポイントは0からは何も作り出せないことだ。これはイメージ力の問題だろうか。

 炎や水などの魔法は、空気中の魔素を使うから何もない状態で発動出来るのだが、それ以外は何もない状態からは生み出せない。元のある物質の状態を変化させることしか出来ないみたい。

 しかも魔法で出したものは長時間は保たずに消えてしまう。ちゃんと浸かれる温泉を作りたいなら実際にある水を移して、その水を温めなければならないので少しめんどくさい。

 だから温泉を作ろうと思っても温泉そのものが出てくるのではなく、そこにあるものを変化させて作らなければならない。



「岩をどっかから移動させてくるとかなら出来るんじゃないか? まぁこの辺りにそんな岩はないからすぐには無理だが」


「そうよね……。ダンジョンに行けば岩はあるけどあれを持ってきたらダンジョンが崩れそうだし……」


「あぁ。あとは川の小石を拾って敷き詰めるか?」


「小石って言ってもそんなに小さかったら役に立たないでしょ……ってその手があったか! 砂も石も岩も元は同じよね!」


「?? あぁ大きさが違うだけだろう?」


「それよ! 岩を0から作り出すことは無理でも変化させれば良いのよ! 砂よ大きくな〜〜れ!!」


 私がそう唱えると、穴の底の面にあった砂が大きく変化していい具合に岩の床場が出来上がる。穴の周りも同じように砂を大きくして、見事岩風呂の完成だ!


「見たか私の力を!!」


 腰に手を当て胸を張るが、彼は冷たい目をして流す。


「お母さんはそんな子に育てた覚えはありません!」


「誰がお母さんだ! こんな母親ごめんだっ」


「反抗期って嫌ね」


「はぁ、もうそれいいから水を移してみろよ」


「そうね。水よ移動して!」


 そう唱えると先程と同じように岩風呂に水が満ちるが、今度は綺麗な透明なままだ。上手く成功して小躍りをしたくなってしまう。


「おぉ、成功したんじゃないか?」


「やったぁ! 大成功ー! 早速入りましょう!」


「バカ! 今はまだ明るいから入るのは夜にしろ!」


「どうせ私たちしか居ないのに?」


 ここはダンジョンからも距離が離れているので、人が通るのを見たことない。私たちしか居ないのだ。


「……俺が居るだろう」


「うん? あっ一緒に入りたいの? 日本では混浴のお風呂もあったけど、さすがこの年齢の息子と一緒にお風呂入るお母さんは居ないわよ?」


「もうその設定は要らないから。とにかく夜までは入らないぞ。ほら、今日は街に行ってこの前の依頼の換金をするんだから早くしろ」


「はいはい、分かったわよ」



 ◇


 街から帰ってきた私は、夕飯も食べ終えお湯の準備をする。ちょうど良い温度にすると、彼を呼ぶ。普段頑張っている彼に一番風呂を譲ってあげようと思ったのだ。



「うん? 俺が先に入って良いのか?」


「そう! 一番風呂って特別なのよ。今日はそれを譲ってあげる!」


「……分かった。覗くなよ!」


「分かってるわよ」







「天然温泉はどうですか〜〜」


 彼が引いた線の外から声を掛ける。すると寛いだ彼の声が聞こえてくる。


「確かにこれは良いな。お湯もトロトロしてて匂いがする」


「ふふ、ちょっと特別なお湯にしたのよ。良いでしょう? ゆっくりしてね」


 お湯も少し温泉風にしたのだ。いつもの私が好む入浴剤じゃなくて、本格的な温泉のように疲労回復の効能をつけた。きっと溜まった疲れを回復出来るはずだ。

 そして彼が入浴を終えると自分が湯に浸かる。彼はいつものようにテントの中で大人しくしている。


「はあぁぁ。やっぱり温泉は格別だわ。しかも自分で作った温泉だからね!」


 独り言が大きいのは気にしない。今では彼と2人の生活にも慣れたが、日本で一人暮らししていた時は良く独り言を言っていた。一人暮らしあるあるだと思う。

 そんな風にのんびりしてた私に突如それはやって来た。


 ポトン。

 うん? 何か今嫌な音がした気がする。そして肩に走るゾクゾクとした感触。

 おそるおそる左肩を見るとそこには例のアレ、8本足のあいつが居たのだ。



「キャーーーー! ユーーリーー!! 助けて!!」


 ザッ! タッタッタッタ。


「どうした!? って何もないじゃないか。驚かすなよ」


「こっち!! こっちにいるのよ!!」


 そう私が必死に伝えると、恐る恐る近づいてくる。


「もっとこっち! 肩にっ! 肩に乗ってるの!!」


「どれ……バカ!! 蜘蛛くらい自分でどうにかしろよ!! この前トカゲ素手で触ってただろう!」


「ヤダよ! 無理!! 私この生き物が1番苦手なのよ!!」


「っつ! そんなこと言ってもお前今どういう格好か分かってんのかよ!!」


「無理〜〜!! ユーリお願いっ!!」


「くそっ! 後で文句言うなよっ」

 

 そう言って岩風呂の淵まで来てくれる。


「ほら、ちゃんとタオル押さえとけよ。もう少しこっち来れるか?」


「うん」


 半泣きになりながら彼の方に近づく。その間も肩の上でモゾモゾとアレが動いており気が気じゃない。


「じっとしてろよ。ほら、取れた」


 彼はアレを取ると、ポイっと奥の方に投げてくれた。


「良かったぁ……ありがとうユーリ!!」


「バカっ! その格好で抱きつくなよ!! 俺も濡れるだろうが」


 バサっ。

「あっ」


「っつ!! バカかっ! 早くどうにかしろ!!」

 

 ホッとして彼に抱きついたら身体に巻いていたタオルが落ちてしまった。彼が背を向けている間に落ちたタオルを拾い、もう一度巻き直す。


「……見た?」


「……何も見てねぇから」


 背を向けたままそう答えるが、こっちを見ようとしないし、見えている肌が全部真っ赤になっている。多分見たのだろう……。

 まぁ一番最初の時に着替えさせてもらってるし、今回のは事故だから仕方ないだろう。1回や2回見られたところで今更どうこう言う歳じゃないからね。


「ごめんごめん、私は全く気にしないから忘れて」


「……頼むから、本当に頼むから気にしてくれ。俺の心臓がもたないから」


 私が謝ると彼が何か言っていたが、声が小さ過ぎて上手く聞き取れなかった。そんなに気にしないって返事よねきっと。汚いもの見せるなとかそんなことを言われたのかもしれないし、あえて聞き返すこともしない。



 その日は私がテントに戻ると彼は素振りの練習をしてくると言って、私が寝るまでテントには戻ってこなかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ユーリ、煩悩を打ち払ってる笑 ユリはお母さん気分になっちゃってますねー。 息子の思いにいつ気付くのやら~
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