力を過信していたみたいです。
「ウォーター!!」
私がそう叫ぶと魔物に向かって水の渦が放出される。
「ちょっと! そっち危ないわよ! ファイア!!」
彼に魔物が襲い掛かろうとしているのを見つけ、次は火の玉を放つ。魔物が驚いて逃げて行くのを見てホッと一息着く。
呪文が単純なことは見逃して欲しい。そんな難しい技名なんか知らないし、私がイメージしたものがそのまま放てるのだ。だからファイア! などと言っているのも本当は要らない、ただイメージしやすいから言っているだけ。
「だいぶ慣れてきたな。だが今のは別に助けがなくても問題なかった。俺より前に出るなよ」
「別に助かったんだから良いじゃない。それよりも早く行きましょ」
最近彼はこう言うことが多い。俺より先に行くなとか、助けは要らないだとか、魔法を使いすぎだとか。
せっかく魔物との戦いにも慣れてきたのに何で文句を言ってくるのだろう。
◇
「なあ、今日は一緒にダンジョンに行くのはやめにしないか」
「……何でよ。私何かした?」
ここ最近はここのダンジョンにも慣れて足を引っ張ることはほとんどなくなったはずだ。
以前は炎を放った時に彼の髪を燃やしかけたり、地下で大量の水を出して危うく溺れかけそうになったりしたのだが、最近はそんなことはない。
「逆だ。何もしないで欲しいんだ。」
「何もしないって……私は邪魔だってこと?」
そう聞きながら自分の声が震えているのが分かる。彼の役に立ちたいと思ってこちらへ来たのに、私は要らないということなのか。
「勘違いするなよ。俺が何のためにこの数ヶ月ここのダンジョンにいると思ってるんだよ」
「それは今のあなたのレベル上げにちょうど良かったからでしょう?」
「そうだ。だから俺の剣の腕を磨きたいのにお前が前に出て倒して行ったら意味ないだろ」
「それはそうかも知れないけど……。私の力で倒せるならその力を使えば良いじゃない」
こう言っては何だが、魔法を使った強さで言ったら私の方が上だと思う。だったら彼が無理をしなくても私が魔王を倒せば良いと思っている。
私は彼が無事でさえいれば良くて、彼に無理して強くなって欲しいとは思っていないのだ。
「それじゃあ意味ないだろ。魔王を倒すのは俺の仕事なんだから」
「でもあなた1人でダンジョンに行くのは反対。ダンジョンに行くなら私も連れて行って……というか連れて行ってくれなくても無理矢理転移するから」
私が魔王を倒すと言ってもきっと彼は頷いてくれないのでそのことについては黙っておく。しかし彼が一人でダンジョンに行くのは承知できない。きっとまた無理をするに決まっているから。
「はぁ……分かった。その代わり俺より前に出るなよ」
「…………うん」
彼にどう思われても、嫌われても良い。私は彼が傷ついて欲しくないだけなのだから。
◇
「おい、俺より前に出るなって言ったよな」
「うん。だから隣にいるでしょ? 何か文句ある?」
そう言って横に笑う彼に笑顔で威圧すると、彼はムッとした表情をするがそれ以上何も言ってこない。私の勝ちだ。
前に出るなと言われたから隣なら良いだろうというのは屁理屈でしかないと分かっているが、こればかりは譲れないのだ。
「ほら、次下に降りたら魔物がわんさかいる階よ! 前回襲って来た犬っころに注意しなさいよ」
「あれは犬じゃなくてウルフ! 魔物だ! 素早いから本当に気をつけろよ」
「分かってるわよ。ほら、行くわよ」
今日の受けた依頼はウルフの牙の納品だ。牙と言ってもそれだけでなく、ウルフ自体を倒して納品すると引き取り金額も上がるからなるべく傷つけずに倒す方が良いのだ。
「おい、だから先に行くなって言ってるだろう!!」
「あなたが遅いからよ。それに階段は狭くて2人同時にはいけないでしょ?」
そう言って先に階段を降りていく。この下の階にも、もう何回も行ってるから慣れたものだ。ダンジョンの構造も、魔物の出てくるポイントも大体抑えている。
「慣れた頃が1番危ないんだぞ。良いから黙って俺の後に……」
「おーーい、痴話喧嘩か? そう言うのは後でやってくれよ。ここは遊び場じゃないんだから」
どうやら後ろから別のパーティーがやって来たようだ。すみませんと頭を下げると彼もそれ以上しつこく言うことなく私の後に続き下の階に降りていく。
「じゃあな嬢ちゃん達。あまりダンジョン内で喧嘩するんじゃないぞ。それこそ本当に命取りになる」
「はい、すみませんでした」
「まぁその男が言ってることも分かるがな。好きな女に守られては不甲斐ないからなっ!」
そう言って豪快に笑うとそのおじさんが代表のパーティーは去って行った。
「……行くぞ」
「うん」
少し気まずい空気のままウルフの出現ポイントに向かって歩き出す。
「止まれっ! 来たぞ!! 10体の群れか……。少しキツイが気をつけろよ!!」
「うん!」
「良いか、俺の合図で……」
「ファイア!! うん? 何か言った??」
彼が何か言っていたが、その時にはもう魔法を放ってしまっていた。私が出した炎の玉は反射神経が良いウルフには上手く当たらなかった。
殺気だったウルフが一気に襲いかかってくる。
「このバカ!! 出すなら広範囲に炎を出せ!!」
「だって広範囲に出したら私達まで危ないじゃない!!」
「っと! その後水出せば問題ないだろバカ!!」
そう言いながらも彼は剣でウルフを一匹ずつ確実に仕留めて行く。かたや私は襲ってくるウルフに対して炎を放ち防御するので手一杯だ。
しかしこのウルフ素早すぎる。広範囲の魔法を放つも反射神経が良すぎて上手く当たらない。
「っっと! 残り3匹!! あいつらを見て攻撃をするんじゃなくて動きを先読みするんだ!!」
私が苦戦してる間にもう彼が半数以上を仕留めてくれたらしい。ホッとした瞬間、私が気を緩めたのが伝わったのかウルフが3匹同時に襲いかかってくる。
「キャーー」
とっさに炎の魔法を放ち攻撃するが、間に合わない!! 痛みを覚悟して目を瞑る。
「っつつ!」
「こんのバカっ!!」
ザクッザッザッ……ドシン。
目を開けると彼が私を庇うように立ち、斬られたウルフが地面に横たわっていた。
◇
ウルフを回収した私達はテントに戻ってきた。
「ごめんなさい。熱かったよね……。守ってくれてありがとう」
そう言って彼の頬や腕を濡らしたタオルで汚れを拭きながらヒールをかけて治療して行く。彼は私が放った炎の魔法を掻い潜り助けに来てくれたのだ。
そのせいであちこちに軽い火傷を負ってしまった。
「別にこれくらい大したことない。あの防護服があったからそれほど火傷も酷くないしな」
そう言って庇ってくれるがせっかく買った防護服も黒くなって煤けてしまっている。あれじゃあもう使い物にならないだろう。
「服なんかまた買えば良いんだ。それよりお前は怪我してないか」
そう言って私の手を取り確認し、手の甲が切れてしまっているのに気づかれる。
「くそっ。少し間に合わなかったか」
彼が守ってくれたのだが、若干ウルフの動きの方が早かったようでウルフの爪がかすってしまったのだ。しかしこれは自分のせいだし、こんな傷は気にしてない。
「なぁ。俺はお前が傷ついてるのを見たくない。俺の後ろで守られてれば良いんだよ」
そう真剣な瞳で告げられて、思わず心臓が高鳴ってしまう。しかし相手は一回りも歳下だ。そんな相手にときめくなどおかしいじゃないか、きっと少し危険な目に会ったからそのせいだ。
「魔物と戦うのは魔法の力だけではない。反射神経や、魔物の動きを先読みする力、そう言ったのが必要なんだ。だからお前は前に出ず俺の後ろに居ろよ」
今回の戦いでそれは良く分かった。自分は強くなったと思ってたけど、いざ戦闘となったら私はただの素人だったのだ。きっと彼の戦闘センスや今まで努力してきた時間には敵わないだろう。
「でもそうしたら私が一緒に居る意味ある?」
「何も前に出て戦うだけじゃない。後ろにいて俺の能力を強化したり、俺が捌き切れない魔物の相手をするだとかサポートの方法はいくらでもある。相手の出来ないことをサポートするのがパーティーじゃないのか? お前何でもしてくれるんだろう?」
っ!! 確かに私は戦うことばかり考えていたけど、それではパーティーの意味がない。彼の言う通りお互いの力を合わせなければ一緒に居る意味などなかったのだ。
「分かった。これからはあなたの後ろでサポートをする。その代わりあなたがやられると思ったら前に出るから、しっかり戦ってよね!」
「あぁ、そんなことさせねぇからちゃんと見てろ」
それに彼はいずれ侯爵になるはずなのだ。きっと魔王と戦った功績で侯爵家になる。
私が前に出て彼のその道を潰してしまったら推しの幸せも無くなってしまうから、今後は大人しく後ろで援護することに徹底しようと思う。
私の返事を聞いた彼は少し生意気なことを言いながらも、嬉しそうな顔をしていた。




