名も無き暗殺者 前編
名も無き暗殺者(前編)
彼の名は 本郷 隼人
彼はただただ 平凡を愛していた
何も変わらぬ 日常を・・・
高校生になってようやくクラスに慣れ始めた5月のこと
彼は あることに気になっていた
それは教室の一番端の席にいる 女生徒の事
彼女は外見は可愛く大人しく見えるが 愛想はあまり良くなく さらに 明らかに周りとは違う不思議な何かを放っていた
彼女の名前は里宮 と言うらしい
里宮は体が弱いのか よく学校を休んだり 授業に出なかったり 出たとしても途中で授業を抜けたりしていた
休憩時間 またも彼女は姿を消した
「おい 隼人 お前 あの女の事ばかり見てないか? 何だ? 外見が可愛いからホレたか? 青春だねぇ」
隼人にこのクラスで唯一話しかけてくる男 寺原
彼もまたあれこれ厄介な奴だが省略する
「五月蝿いよ いくら僕でもあんな妙な行動を取ると気になるさ」
「それをホレたって言うんじゃないの?」
ガタッ
隼人が急に立ち上がる
「お どこに行くんだ?」
「・・・便所」
「あっそう 付いて行こうか?」
「余計なお世話だ」
便所に行こうと廊下に出る・・・すると
遠くに里宮の姿が見える 辺りを見回しながら歩いている
「あいつ・・・何やってんだ?」
興味本位で後を追う
一番隅の曲がり角まで来ると 彼女は通信機みたいなのを取り出し 喋り始めた
〈こちらベレッタ 異常ありません ターゲット確認できず〉
〈了解 ベレッタ そのまま任務を続行せよ〉
〈了解〉
「べ ベレッタ? 何なんだ? あいつ?」
キーンコーン・・・
チャイムが鳴り始める 隼人はあわてて教室に戻った
ベレッタ・・・任務・・・そんな言葉が頭を巡り 授業に集中できない
そして放課後
「おーい 隼人 帰ろうぜ!」
「ん ああ」
帰ろうと廊下を出ると・・・彼女がいた
「里宮?」
「おっ 一目ぼれの彼女かい? くく では邪魔しちゃ悪いし 俺は帰ろうか」
「何の邪魔だ」
「いや コクるんだろ?」
「アホか」
「いいや お前の考えなんて手に取るように分かる じゃあな」
寺原は足早に去っていった
邪魔者がいなくなったところで 隼人は里宮を追った
廊下の角を曲がったところで里宮を発見・・・が
誰かと話している
「あれは・・・地理の遠藤・・・ 何やってんだ?」
二人は何か深刻な話をしているようである
と 遠藤がこちらに気付いた
「何だ本郷 盗み聞きか?」
里宮もこちらに振り向く
「え・・・ああ 邪魔だったかなぁ・・・ どうもお邪魔しました」
遠藤はニヤリと笑い 何かを取り出し隼人に向かって突きつけてきた
「な・・・なんだ?」
里宮は相変わらず無表情のままでとんでもないことを口走った
「あれはトカレフ・・・」
「(トカレフって・・・銃の名前じゃないか!)」
下手すれば撃たれるかも知れない・・・そんな恐怖心から隼人はその場に座り込んでしまった
「遠藤・・・やはりあなたは奴等の仲間だったのね」
「フフフ だとしたら どうする? 里宮さん?」
「組織の命令通り あなたを殺します」
「おっと 待て こちらには人質がいるんだぞ なぁ本郷君?」
隼人の心は恐怖と不安で満たされていた しかし
もしかしたら里宮が助けてくれるかもしれないという希望もあった
しかし 次に出た彼女の言葉は そんな希望を打ち砕くものだった
「人質? だから何? 組織からは人質の確保とかそんな命令は聞いていない
生きていようが死んでいようが私には関係ない」
「(お・・・おい マジかよ 僕の人生 ここで終わりか?)」
「フフフフ・・・ハハハハハハ!!!」
突然遠藤が笑い始める
「残念だったね本郷君 彼女にとって君の命はどうでもいいんだってさ!
なら・・・!」
パァン
一発の銃声
撃たれた・・・隼人はそう思った しかし実際
熱さも痛みも何もない その代わりに
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
遠藤の絶叫が聞こえてきた
「あなたが彼を撃つ前に私があなたを撃つ・・・簡単な話よ」
隼人はなんとか自力で立ち上がり 里宮に問いかける 里宮の手にも銃が握られている
「お前 何なんだよ! なんで銃なんか・・・遠藤も! てか何で殺すんだよ!」
「あなたには関係ない」
「関係ないことあるかよ! 人が死んだんだぞ!」
「でも私が撃たなければ あなた死んでたわよ・・・良かったの?」
「それはそうだけど・・・あーーーっ! もう!! 」
自分の中に訳の分からない感情が生まれてくるのを感じた
そして隼人は思った
「いい? 今回は運が良かっただけ 次は命の保障はできない 死にたくなければ 私に関わらない事ね」
そう言って彼女は背を向けて去っていく
去っていく彼女に向かって隼人は叫んだ
「どんな理由があっても殺しはいけないんだよ! 何が命令だよ 馬鹿野朗!!」
そう叫ぶ隼人に彼女は一言だけ言った
「あなたこそ 馬鹿ね」
前編終了 中編に続く
作者から一言
ベタな話ですみません・・・
タイトルの意味は次回で分かります きっと