ある文学少女の苦悩
1,000文字ぴったりの短編です。
すぐに読み終わると思います。
とある文学少女がいた。名を仮にTとする。
彼女は活字中毒とも言える程の読書家であった。図書館にある本は全て読破するくらいは難なくこなす。
そんな彼女がWEB小説の世界に触れるのは当然の成り行きであったと言えよう。
そこで間違いが起こった。「私も自分の最高の作品を投稿したい」と。
そこから彼女の苦悩の日々が始まった。
「はぁ~、また今日もPV一桁か~」
けれども現実は非常なもの。彼女がどんなに自身の最高傑作と思える作品を投稿してもブックマークも付かなければ評価も入らない。感想欄は未だ荒野である。
「そうだ! 本を読んだだけでは駄目なんだ。私には経験が足りないんだ」
ある日彼女の中で閃いた。読者を魅了する作品を書くにはもっと真に迫った描写が必要なのだと。それを現実にするには自身が様々な経験をする事が必要なのだと。
それからの彼女の行動は早かった。美味しい食べ物を求めて東へ西へ。それだけでは飽きたらず、自身でも鍋を振るい最高級の料理を研究する。彼女の腕前は三ツ星シェフを感嘆させる程へと成長する。
また、世界各地への旅行も行なう。小説の舞台となりそうな場所を現地にまで行き撮影する。国を超え、世界を又に駆けるのは勿論、小説のためなら南極の横断やチョモランマの踏破、果てはヨットでの世界一周まで行なう。彼女は超一流の冒険家として名を馳せた。
なのに、
「まさか私の作品に妖怪ブクマ剥がしが出るなんて」
これまでの経験を元に書いた小説を投稿しても相変わらずブックマークや評価は伸びない。未だ底辺作家のまま。それだけなら良かったが、あろう事かなけなしのブックマークの数が減るという事態に直面する。
「何が、私の何がいけなかったと言うの……」
そこで彼女はついに覚悟を決める。
エンターテイメントの華と言えば戦闘シーンは欠かせない。彼女は自ら格闘技の世界へと足を踏み入れた。
辛いトレーニングに耐え、様々な格闘技の第一人者を倒すほどの実力を手にし、最終的には総合格闘技の無差別級のチャンピオンの座を獲得する。
一躍彼女は時の大スター。数多くのTV番組にも出演し、誰もが「万能の天才」と褒め称えた。
だが誰もが知らない。彼女の本当の姿を。
「Tさん、次の貴方の目標を教えて下さい」
「そうですね。ブックマーク100を超えて底辺を脱出する事です」
そう、彼女の本当の姿は「小説家にな〇う」に作品を投稿する一底辺作家であった。
彼女の苦悩はまだ終わらない。