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小指に絹の糸  作者: 梅谷理花
大学生編
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ギフトボックス

 あの日から一ヶ月。変わらないようで少し変わった関係性の直太朗と結人は、今日は直太朗の誘いでショッピングモールに買い物に出ていた。直太朗の目に留まるのはやっぱり、手芸小物の店だ。


「ねえゆいと、あのお店」


「ん、ああ。ナオが好きそうだな」


「うん。行ってみない?」


「……。俺、あっちの店に行ってるから二十分後にあそこのベンチに集合な。そっちのほうがゆっくり見られるだろ」


 結人と一緒に見たかったのだが、結人がそう言うなら仕方ない。直太朗はこくりと頷いた。


「うん、じゃあまたあとでね」


「ああ」


 すっと結人が離れていくのを心細く見送って、直太朗は手芸小物の店に入る。さっきまでのうきうきした気持ちは少ししぼんでしまった。


「一ヶ月記念日……なんて、ゆいとは覚えてないよね」


 ミシン糸の並ぶ棚の前で、直太朗はため息を吐く。あの告白以来、たしかに結人は直太朗に対して以前より柔らかい態度で接してくれるようになったし、こうやって買い物に誘えば来てくれる。でも、それだけ、という気が直太朗はしていた。やっぱり結人のことを特別に好きなのは直太朗だけで、結人のほうはそうでもないのだろうか。


 あまり小物たちに心が動かされないまま、約束のニ十分が過ぎる。手ぶらで待ち合わせのベンチに向かった直太朗は、先に待っていた結人が小さな紙袋を持っているのに少し驚いた。


「ゆいと、何買ったの?」


「ああ、ナオ。ナオこそ逆に何も買わなかったのか?」


「えっと、うん。あんまりこれっていうのがなくて」


「そうか」


 結局何を買ったのか話さないまま、結人が行こう、と手で示す。直太朗はちょっと首を傾げて結人と並んで歩き始めた。


 一ヶ月記念日の話が出ないままショッピングモールを出て、直太朗は普通に楽しかったものの物足りない気持ちを抱えたまま駅に入った。並んで改札をくぐった結人が不意に直太朗の手を引く。


「ゆいと?」


「ナオ、明日も休みだったよな」


「え、うん、そうだけど」


「俺の家で晩飯食っていかないか?」


「……!」


 この駅から結人と直太朗は別方向だ。それを気にしつつも誘ってくれたことに、直太朗は感激して思わず言葉を失う。こくこくと思いっきり頷いた。


「……嬉しい!」


「よかった。じゃあ、行くぞ」


「うん!」


 この際一ヶ月記念日とか忘れて、普通に結人の気まぐれを楽しもう。直太朗は心躍るのを感じながら電車に揺られ、あっという間に二人は結人の家に着いた。


 結人は荷物を下ろすと、ローテーブルにそっと紙袋を置く。いつになく丁寧な仕草に直太朗が少し違和感を覚えたのも瞬間のことで、結人はそそくさとキッチンに行ってしまう。直太朗はうきうきして結人についていった。


「おれ、なにか手伝うことある?」


「特に……。ああ、紙袋の中の買ったもん、開けといてくれねえ?」


「? いいけど」


「よろしく」


 直太朗はすごすごと部屋に戻る。ローテーブルにちょんと乗った紙袋。そういえば結人は結局何を買ったのだろう。直太朗に見せてもいいくらいだから、本当にたいしたことない小物かなにかだろうか。


 ぴったり上に封がしてある紙袋を、ハサミを探してきて開ける。今度はちょっとおしゃれなビニールの包みが出てきた。


「ゆいと? これ、ほんとにおれが開けていいの?」


「いいよ」


 少し笑い含みの結人の声。直太朗は不思議に思いながら包みを取り出した。なんだかリボンで結んであるのだが、開けていいのだろうか。


 少し悩んだあと、えいや、と直太朗はリボンをほどく。中からこじゃれたギフトボックスが出てきた。メッセージカードまで入っていて、結人にしては綺麗な方の字で「一ヶ月記念日」と書いてある。


「……え?」


「開けたか?」


「ゆいと?」


「記念日だろ、今日」


 直太朗はギフトボックスを抱えてキッチンに向かう。料理の手を止めた結人が照れたように振り返っていた。


「覚えてて……くれたの?」


「当然。その様子だとサプライズ成功だな」


「ありが、とう」


「どういたしまして」


 直太朗は感動の涙がにじむのを感じながら、結人に思いっきり抱きついた。





最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] えがった(良かった)…えがった…
[良い点] なんと言っても結人と直の淡く透明な関係性。会話は柔らかく、筆舌に尽くしがたいほど関係性が発展する様子に美しさがある。劇的な展開こそ見られないが、それ以上に陸続きで安心できる空気が作品全体を…
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