夜凪景を見守る一介のオタク
私にはアクタージュが読めない。私はこの作品について考えると心が掻き毟られたようにザワザワとしてしまい、歪な感情に支配され、何も手につかなくなってしまうのだ。特にあの夜凪景というキャラクターはいけない。あまりにも魅力的にすぎる。可愛いというよりは美人という表現が似合うであろう澄ました顔立ちを黒髪のロングヘアが彩る。王道である。実は、澄ました、とは言っても、彼女はクールという訳ではなくて、人付き合いが苦手で間の抜けた側面をもっているのである。それが、他の人から見るとなんだか近寄りがたいような、ミステリアスな高嶺の花になってしまっていた。不憫極まりないが、しかし安心していた。夜凪景の時折見せるあの笑顔は、私と夜凪一家だけのものだったのだ。
物語が進むにつれ、そんな彼女も周りと打ち解けてゆき、年相応の可憐な少女の微笑みを見せてくれる。それは純粋な感情の発露といったところで、彼女の境遇を思うと、こちらも口元がついつい綻んでしまう。ここまでは良かったのである。
やがて彼女は小さな舞台で成功を収め、社会に進出してゆく。つまりはプロとして活躍を始めるのであり、私だけの知っている、素人なのだけど光るものがある夜凪景を、陰ながら見守る、そのような活動はもはや出来なくなってしまった。うぶな彼女はいなくなってしまった。彼女はあまりに遠くに行ってしまった。社会が夜凪景を認知し、あれよあれよと新進気鋭の女優に祭り上げる。皆んなは知ったような口調で、夜凪景ってこうだよね、とか、こんなところが素敵、などと囃し立てる。いやいや実はこうなのだぞと混ざりたいが、無駄な羞恥心が私の邪魔をする。私はどうすれば良いのか分からない。私はここにきて、アイドルや声優を追いかける同志の気持ちを理解したのかもしれなかった。さらには、ハリウッドからやってきた傲岸不遜な男は夜凪景を、景、と呼ぶではないか。何ということだ。もはや彼女の名前をそっと呼ぶことすら叶わないというのか。私のガラスの心は割れそうになる。追い立てるのは彼女の辛い過去。まさか、そんなに辛い過去があったなんて。家族というのは私にとっても重大なテーマだった。父や母は私に深い傷を残したものである。私はページをめくるたびに涙を堪えなければならないというのだ。
このような理由で、私にはアクタージュが読めないので、諸君には是非ご一読頂き、今週、今巻の夜凪景はいかに天使であったのかを教えて欲しいのである。