OL、偉い人に目をツケられる。
最近バタークッキー、スノーボールクッキー、抹茶クッキーを出せるようになったOL。
クッキーレンガはクッキーを圧縮しチョコでコーティング。
後パン粉をはたき、バターでカリカリに揚げ、表面をさらに圧縮クッキーコーティングした
ただのカロリークッキー。普通に食べようとしたらまず歯が折れるので削ってふやかして食べる非常食。
偉い人の目ってことは禿ってやつか?
私の日本史(歴史ドラマに限る)が唸るぜ。
つまりおかっぱ少年少女のスパイに目をツケられたのか。
チョコチップクッキー食べない?甘いよ、美味しいよ??
バタークッキーだけでない、抹茶クッキーも最近出せるようになったのだ。
買収できないものか、甘いもので。
と思いながらやってきたカルサの街の高級住宅街アバネチア通り。
あ、これガチモノのやつや。家の中からハゲスパイ(おじさま)が出てきたら間違いなく私は死ぬ
とひしひし感じながら住宅に入った。
流石に剣を装備した運動神経の良さそうな若者とごつい鎧を装備した女騎士に表立って敵うとは思わない。
だからおとなしくついてきた。
そんな中世界最強のスパイのハゲおじさんに目の前に立たれたら、
クッキーを出す前に頭が飛んだらーGAME OVERーだ。笑えない。
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想像していたスパイとは違った。
ただの妙齢の女性だった。残念。
市役所の美人なお姉さまって感じ。
こんなお姉さまに呼び出されるということは私は何かしら悪いことをしたのか、いやしてない。
今までやってきたことなんてクッキーで逃亡を図っただけだ。
冒険者の二人は手短に報告を済ませると速やかに玄関に向かった。
危機管理能力と丸投げ能力は優れているようだ。
絶対コイツらには困りごとを依頼しないと心の奥底から決めた。
「こんにちは、メディアさん。私はまだ税金を収めるには3ヶ月ほどありますよ?
手続きの不備は商業ギルドへ申し付けてくださいな。」
「違いますわ。女神の御使い、いいえ ニホンジン」
この黒髪と茶色の目はどうやら目立つらしい。
「どうかされましたか?文官・メディア。」
「ええ、質問事項を。貴方はパウンドの領主をクッキーで生き埋めにした容疑で問われています。」
文官も人手不足なのだろうか。そこら辺は騎士団とか警察とかの役割なのでは?公務員ガンバ。
「ぶ・・・。ふくく。なんですか?その非常に愉快な・・・。じゃなくて幸福な死に方。
私は商人をしておりますが、確かパウンド領地代行の公式なお知らせでは前領主様は病死されたと聞きました。」
当たり前だろう。 “普通”ならこんな反応をする。
クッキーで埋もれて死んだなんて死因としては嫌なリストNO 2だ。間違いない。
ナンバーワンは何かって?焼死だと個人的には思う。
「・・・。そうですか。ではもう一点聞きましょう。
ハイソン村にクッキーを売ったのは貴方ですか?」
「いいえ。”売って”いません。」
彼らは勝手に貪り食っただけだ。その質問からして、恐らく村人は助かっていないだろう。
私は警告はした。が哀れ間に合わなかった。そして食べたのは彼ら自身だ。
私は何もできなかった。彼らが死にに行くようなものも、止めることはできなかった。
だがその後悔は村長からの手紙で萎えた。
結局異世界に逃避しようとしても、人は何も変わらないのだ。
「わかりました。ニホンジン、キクさん。貴方を現在罪に問うことはできません。
これは私のわがままで、貴方をここに呼び出しました。」
「でしょうね。メディアさん。貴方は所詮、ここの領地の文官でしょう?
他の領地のことに首は突っ込めない。」
「ええ。ハイソン村は一部分は自業自得であるのでしょう。
ですが私は貴方に会ってみたかった。」
その眼差しは羨望・郷愁というよりか、
どちらかというと田舎暮らしに辟易として都会に逃げ出してきた若者の語り口だった。
もう少しわかりやすく言うと、大学で上京してきて呑み会の席で都会のイイ点を語り、
故郷を貶めている姿に似通った。
都市で得られるものは無関心。それに憧れた、
ええ、私も貴方も同族ですよ。同類嫌悪ってやつ。
あのハイソン村村長を見ていれば、飛び出した理由もなんとなくわかる。
振り切れたのだろうか。振り切ってはいけないものを。
「ああ、そうだ。キクさん。この領地にはニホンジンはすべからく保護・活用すべきと考えられています。
ここの領主にお会いいただけませんか?」
「いいえ、私はここで資金をためて旅に出るつもりなので、残念ながらクッキーを売ることしかできません。」
「そうですか。ありがとうございます。
そうだ、ここに紅茶があるのです。貴方のクッキーと一緒にこちらをお持ち帰りください。」
「ありがとうございます。メディアさん。そうさせていただきます。」
静かに振り切った女にかける言葉なんてない。
私は確かに、あの村で加害者であったことは間違いないのだから。
「ああ、そうだ。もうじきこの街でお祭りがあるのです。あと一ヶ月後に、是非参加してくださいね。」