OL、都市から出る。
まあ、そう淡々とうまくいくわけがなく。
私は領主の前に突き出されていた。
もちろん特に抵抗なんてしなかった。
私のクッキーを無限にばらまく能力は価値がある。
そう確信していたからだ。
「黒髪に茶色の目・・・。典型的なニホンジンだな。」
「その通りでございます。領主様。
私、ハイソン村からやってきました。こちら村長より託された書類でございます。」
そのまま書類を渡した。
「フン、文字が読めないようだな?ニホンジン?」
「そのまま渡しても問題がなさそうですので、渡しました。」
周囲は静まり返った。
要するに喧嘩をふっかけたわけだ。
こんなしょぼい街で私がどうこうなるとでも?という意味だ。
重税でヒーヒー言いながら住む街なんて良いものではない。
月毎に上がる社会保険料を見ていたからわかる。
静かに減る給与、迫る期限の3年。
もっと自由な街がいい。商売をするのなら。
「その女を捕らえー」
まあそうだろうと想像はしていたので部屋の中に大量のクッキーを出現させた。
質量の法則に逆らったクッキーの壁に騎士だって為す術もない。
というより領主の真上にクッキーを出したのでおそらくただではすまないだろう。
エスケープクッキー術。必殺土砂崩れ。
そう名付けて目星をつけていた窓から、
街へと飛び出した。
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パウンドの住人は言う。
「領主様の城がクッキーでは弾け飛んだ。
何を言っているかわからないと思うが本当なんだ!
あれのせいで領主様はクッキーで埋もれて亡くなってしまったんだ。」
城主につかえていた騎士は言う。
「ひどい目にあった。流石にクッキーで埋もれて死んだなんて騎士の名折れだ。
領主の名折れでもあるかもしれないが・・・。
前領主様は・・・。死体すら残らないような死に方なんて俺は嫌だね。」
思わずため息をつきたい。ついた。
タロウは調査に訪れたパウンドで大騒ぎに巻き込まれていた。
領主の屋敷がクッキーで爆発した。あまりにもわけがわからない。
だがハイソン村がクッキーで滅亡した以上、関わらないわけにもいかない。
あのおっかない文官は今後目をかけてくれる以上頑張らなければならない。
「なあ・・・。アリサ。なんでこうニホンジンってアホな能力持つのかね?」
「クッキーを無限に生み出す能力か?非常に興味深いな。
兵糧という概念がひっくり返るぞ。」
この真面目なのかわからないお嬢様はブツブツ言い始めた。
こんななにもない空間からクッキーを無限に出すなんて技術は少なくとも魔術ではない。
というより後先考えなさすぎなのでは?
領主だぞ?!ニホンジンが一斉に狩られる側に回る可能性がある。
「その心配はなさそうだがな。異邦人による天罰だという声が大半だ。」
聞き込みに行ったアリサがさらりと言った。
そりゃそうだろうな、クッキーに埋もれて死ぬだなんて誰だって嫌だ。
天罰かなにかと考えておいたほうが世界はうまく回るだろう。
「もしゃもしゃ、しかしこのクッキー美味しいな。」
呑気なアリサに声をかける。
「やめておけよ。人間か圧死したかもわからないクッキーだぞ・・・。」
キク:クッキーを無限に生み出す能力
タロウ:身体能力等の強化する能力