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冒険者達、巻き込まれる

別視点ストーリーです。OLが離れて1週間後のお話。

読まなくても大丈夫な話。ハイソン村の結末。

前作、器用貧乏冒険者・異世界に来たると世界観は共有してあります。

俺はタロウ、ニホンジンと呼ばれる来訪者だ。

この異世界にやって来てはじめの依頼は散々なものになった。


明らかに玄人な冒険者ジョンに依頼を掻っ攫われ、

しかも宿に帰るまで延々と冒険者ホラー、怖い話を聞かされる羽目になったからだ。


だが、今回の依頼は一味違う。

堅実かつコツコツ、命大事に経験を得るのを柱に行動している俺たちは良い依頼を見つけた。

依頼内容は簡単だ。ここから2日程度離れたハイソン村へ薬を届けること。


ハイソン村周辺は医療用のコカの葉が取れる事で有名だ。

コカの葉だけでは病気は治らない、当たり前のことだが。

そんなわけでハイソン村の医者に薬を届ける仕事が出されるわけである。

人工もそんなに多いわけでもないので冒険者におまかせ出来る分量を届ける。

ハイソン村で病気になった人がいたら、俺達の拠点のある交易都市カルサにつれていく。



ぶっちゃけ楽勝だ。あそこの道は整備されているし儲けもいい。

今回は教会の仕事で忙しいシスターや研究熱心な魔法少女はつれて行かなくてもいいだろう。

(分前が減るというのは飲み込んでおこう。)


今回は頼れるタンク、女騎士アリサお嬢様と一緒だ。

病人が出た際の運ぶ役に期待しておこう。

タンカよし、熊よけよし、マスクよし。荷物よし。装備よし。アリサヨシ!


静かな村だった。

甘ったるいバターの芳香、砕けた焼き菓子、そして死体。

それだけしか残っていなかった。


「なんだこれは!毒か?」

クッキーを拾い上げたアリサ。



ニホンジンの俺は女神から身体能力の向上というチートを授かっている。

毒性なら緩和できる。そう判断して地面に落ちていたバタークッキーを食べた。

甘くて美味しい。ただそれだけだった。


だが周りを見るとおびただしい数の死体。

毒殺でもない、ガリガリにやせ細り腹だけが膨れ顔が黒く腫れている。

流行り病だったらまずいことになる。


「アリサ、なにかわかるか?」

「飢餓だ。」

「え、どうしたんだよ。てかお嬢様のお前が何で知っているんだよ。」

「周りをみろ!腹が膨れて全体的に痩せこけている。草花なんてない。」

「飢餓ならクッキー食べればいいだろう!」

「ニホンジンは飢えた事がないんだな。いいか、飢えた際に一気に栄養のあるものを食べるとな。

 顔が膨れてパンパンになり死ぬ。」

「え。つまりこの人たちは美味しいクッキーを飢えから逃れるために食べて死んだのか?!」

「・・・。そういうことになる。

 そもそも2ヶ月前、半期に1度の税金を課されている。

 あと掲示板の中にここの領主が道を作る工員を募集していた記憶がある。」

「重税と人が不足して・・・。ってことか。」


これは誰が悪いのだろうかな。

領主か?飢えて食べ物に手をだした村人か?それとも空からの奇跡なのか。

誰にもわからない。


「依頼人にとりあえず報告だな。」



お嬢様で出奔したお前が何で飢えを知っているのか。

その疑問は喉にしまっておいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


依頼主への報告は流石に気が思い。

ハイソン村出身の女性にこのことを報告していいのだろうか。

あの村は重税により飢餓になり、クッキーを食べて死にました。

馬鹿じゃないの?と笑われそうだ。ああ憂鬱。


依頼人の妙齢の女性は俺たちの報告を淡々と聞いていた。

「一つ質問が。」

「なんでしょう。」

アリサは静かに下がって出口の確保と周囲の確認をした。


わかりやすく言葉にするしかないだろう。


「あなたはこの依頼を3ヶ月に一回、定常的に出しています。

 冒険者にも色目をつけて金を足しています。

 その条件が直行直帰であること。

 貴方の資金源は異常です。

 貴方はなにか隠していませんか?」


「何を『隠す』ですか?」面白そうに依頼人は笑っている。

「依頼人の素性とその目的ですよ。

 こんなに高価な依頼、なかなかないですしね。

 それに渡された医薬品の中にこんなものが隠れていました。」


取り出したのは手のひらサイズの人形。

正直気にしていなかった。

子ども用の人形だと判断はしていた。

そもそも論、冒険者にとって金さえ貰えれば、

非合法的でなければ何でもする。

依頼人の素性であろうと詮索は本来ならば禁止だ。


だがこれは見逃せなかった。

「これはお手軽な監視魔術具ですよね?」

「その件に関しては、私が出奔した理由が絡んでいます。

 村長による家族へのイビリがないかを監視するために・・・。」


ー思考を止めるな。愚鈍な俺たちにはそれくらいがお似合いさ。ー

かつてそう言っていたあの男の姿を思い出す。

ここで目をそらしても良いだろう。

だが真実を知るためにはある程度の覚悟が必要だ。


「なるほど、村長への監視ですか。それもあるでしょう。」

だがそんな面倒な手は使わなくてもいいだろう。

「コカの葉の製粉に関する見張りのことですか?

 文官の妻、メディアさん。」

「あら、そこまでできているのならば問題はないわね。」


3ヶ月に一度、定期的に現れる美味しい依頼。

ただの美味しい依頼だけで済ませられないのが悲しいかな冒険者の性。

絶対何かしらの裏がある。

依頼人の素性をこっそり探ったとしても構わないだろう。


「よくできました。黄金亭の銀級冒険者、タロウさん。

 本来ならば高値を出して見なければいけない依頼なのですが、

 この件は出来る限り穏便に済ませたかったのです。」

「故郷だからか?」静かにアリサは問う。

「ええ。そもそも私が出奔したのは重税による口減らしです。」


なかなか人生ハードだ。

出奔して街にたどり着き、文官の妻になるだなんて。

どんな手腕を使ったのかわからない。

そもそもコイツが文官になる程度の知性を持った人なのでは?


「あの村はこの街とは別の領主が治めていますが、近年重税がかさんでいるそうです。

 あの村で真っ先に金になりそうなものはコカの葉による医薬品になります。」


それは知っている。俺は中毒症状が怖くて使っていないが。

怪我が多い冒険者でも医薬品のコカの葉は使われる。

ただし高価だ。


この国は基本的に麻薬は禁止されている。

100年前に滅びかけた国だからだ。理由は察するが。

麻薬は使用厳禁だ。



ただし嗜好品として使うのが禁止なのであって、

医薬品に使うことは構わないとされている。ただし医者の許可もいるし面倒だ。

領主より偉い国の許可がなければ栽培はできない。


「領主は国に対してコカの葉を治めていますが、それ以上を求めました。」

「まあなんとなくわかる。金がほしい!ってことだろう。」

結局どの世界でも『価値』がなければ意味がない。そういうことだ。



アリサは懐から粉を取り出した。

「これは最近流通している製粉されたコカの葉だ。

 一応言っておくが質はかなり悪い。」

吸ったな?こいつ本当にお嬢様なの?

晴れ晴れとした顔をしていやがる。

「この街にも麻薬に侵されている。荒事にはしたくない。

 生産元の様子を探りたい、だから伏せて依頼した。違うか?」


メディアはにっこりと微笑んだ。悪寒がする。地雷を踏んだと気がついた。

「ええ、そして此処からあなた達に別料金をお渡しします。

 この件に関して黙っておくことの料金です。」

なかなかな金額だ。

「そしてもう一つ依頼をしましょう。」


「宿屋を通して依頼してください。」

にべにもなく却下したい。絶対文官絡みの依頼だ。

下水道掃除並に割にあわない汚れ仕事だ。


「あら、この街の領主の目である私に逆らいますか?」

脅しをかけて来やがった。

ニホンジンである俺はある程度教会に保護されるだろうが、

この街はなんやかんや気に入っている街だ。

大事にされると困る。


「話を聞くだけなら。」

「では、第一にクッキーをばらまいたニホンジンの確保と捜索を依頼したいわ。」

「クッキーをばらまく能力なんてアホなことをするのはニホンジンだけだからよ。」

By メディア

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