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ラキドの街

「ふう、やっと着いた」


 日もすっかり暮れ、街中からは色取り取りのランプが溢れるようになる頃、俺はようやくラキドの街に辿り着いた。

 途中の道中でトラブル等に巻き込まれなかったためスムーズに進むことができた。

 そのためまだ日が完全に落ちきっておらず、門兵は立っていなくて、何者かと問われトラブルになる心配がなくなったことに内心喜ぶ。


 何もかも奪われて、手ぶらでやってくる人間なんて怪しい以外何者でもないからな。

それに、服が斬られていて中々際どい格好をしているしな。薄く切られた皮膚は軽く塞がっていて血は止まっているが、怪しさ満点だろう。


『うう......ひどい、ひどいぞ......!』


 俺が少し得した気分でいると、頭の中からペニアの泣き言が聞こえてきた。


『いくらなんでも捧げられるとはいえ、体とか服の汚れを捧げるとはあんまりだ!おかげで数少ない友人が私を離れていったぞ!』


「うるせえペニア。あんたが急かすから仕方なく汚れを捧げたんだ。それにあんただって賛成してくれただろ?なら文句を言うな」


『揚げ足をとるでない!あれはそういう意味で言ったわけじゃないのだ!全く、これだから人間は!』


「レベルが上がったからいいじゃねえか」


『むしろそれが嫌なのだあああ!!』


 それじゃあ私が変態みたいではないか!と悶絶するペニアの声が響く。

 神界で転げ回っているのか、ぐわんぐわん響いてきて、疲れた頭をさらに疲弊させてくる。


「はいはいわかったわかった。ペニアが俺の汗とかで喜ぶ変態ってのは分かったから騒ぐな。頭が痛え」


『だから違うといっておるだろうがあああ!!!』


 ペニアが俺の頭の中で大絶叫をするが、それを無視して俺はラキドの街に足を踏み入れた。


 そして踏み入れた瞬間、わっ、と圧倒された。


 俺が住んでいた街とは比べものにならない、人の数。

 様々な音が入り乱れ、ある種の音楽となっている喧騒。

 嗅いだことのないような美味しそうな料理の匂いが、辺り一面に立ち込めている。

 そして何より、街の外からでも分かるくらいに溢れ出ていたランプの光は街全体を昼間のように照らし、この街を鮮やかに彩っていた。


「相変わらず、すげえ街だな。ここは」


 俺は久々に訪れたこの街に圧倒され、そして懐かしんだ。



「さすがは、世界屈指の大都市。そして、邪神の置き土産、モンスターの坩堝、【ダンジョン】が存在する街」


 活気溢れる街並みを見ながら、俺は思わず口からそんな感想が零れ落ちた。



 この街、ラキドは数少ない【ダンジョン】保有都市である。

【ダンジョン】とは、かつて邪神が神界から追放され、下界を通じて地獄に落ちた際、神界に一矢報いるために放った力の残滓が迷宮を創造し、モンスターを生み出す巣窟となったものだ。


 遥か昔では、モンスターが溢れる【ダンジョン】は災厄の一種であったが、かつて神であった邪神の残滓から生み出されたというのもあって、そこから生み出される資源は人々に豊かな実りをもたらした。

 そこでは取れる毛皮は何よりも強く、そして暖かい。果物は甘く瑞々しく、肉は美味い。採掘される金属はこの世の全ての金属よりも硬く、そして鋭い。

 何より、戦争がなければまともに上げることができない戦神系の【神託】のレベリングの場としても優秀である。


【ダンジョン】を保有する都市は、そういった資源、富、そして名声を求める者達が集まるため、大きく発展する。

 このラキドの街もその例外にもれず、世界屈指の大都市となっていた。




(俺がこの街で生活していたのは、まだ小さい時だったな。友達はできなかったけど、それなりに楽しかったなあ)


 そんな風に懐古していると、空はすっかり暗くなり、【ダンジョン】から帰ってきた冒険者や仕事仲間と食事に行く人でいっぱいになり始めた。

 この風景も懐かしく、傷心の俺を少しばかり癒してくれた。


『そういえば、お前は今どこに向かって歩いているのだ?お前の記憶の中の宿とは違うところに向かっているぞ?』


 感動に浸っていると、それに水を差すようにペニアが話しかけてくる。


「ラキドに着いたら本当は『ギルド』に行く予定だったが、生憎先立つものが何もないからな、冒険者になるにしてもこの街に滞在するにしても金がなきゃどうにもならん。先に叔母の家に行って、お金を工面してもらう」


 殺し屋に襲われて何もかも失った俺は、このままギルドに行くと、犯罪者だと疑われ拘束されてしまう。

 そうでなくても、浮浪者と勘違いされて相手にされない。

 だから俺は予定を変え、この街に住んでいる母の姉、叔母の家に向かう。


『ん?お前の母親が手配した宿には行かないのか?手配したってことは金が無くてもしばらくは過ごせるはずだが』


「んなもん怖くて行けねえよ。起きてる時ならまだしも寝てる時に襲われたら堪ったもんじゃない。目が覚めたら既に天界で、お前が目の前に居るとか想像したくねえよ」


 母さんも父さんとグルで、もし抜け出してきた場合の保険をかけて殺し屋を向けているかもしれない。

 俺が生きてて、それで困るのはあの2人だからな。破滅するのが怖いという理由で。


『そんなもんかのお。あの母親なら大丈夫だとは思うが。それよりも突然叔母の家にいる行っても大丈夫なのかい?』


「何かあっては遅いからな。それに宿をとったのも叔母経由だろうから突然行ったって大丈夫だろ。手違いで泊まれませんでした、ってな」


 叔母にまで手を回されてたら堪ったものじゃないがな。


『まあ、そういうことにしとくかの』


 ペニアを納得させ、俺は叔母の家への道を歩く。




 叔母の家は入った門のほぼ反対側にあるため、めちゃくちゃ遠い。

 大都市というのもあって道は分かりやすいが、遠いものは遠い。

 レッサーウルフとの戦いからほとんど休んでない俺には、表面には出ていないがかなり厳しい。

 それでも俺は足を止めることなく、少し早足で歩く。


『デニス。お前、何を焦っておる』


 そんな俺の状態を見抜いて、ペニアは声を掛けてくる。


「別に焦ってないさ。ただ、早く休みたいだけだ」


『ならその場で休めばいいではないか。お前が私に捧げずに何本も隠し持っているレッサーウルフの牙を売れば少しは金になって飲み物一杯くらいは買えるだろう。そうすれば少しはマシになる。何故そうしない。嘘をつくでないぞ』


「はっ。急かした本人がそれを言うのかよ」


 偉そうに提案してくるペニアに俺は苛立つが、ペニアには隠し事は出来ない。

 現に、俺は焦っている。


「今俺の周りを見ているなら、後ろを見てみろ。そうすれば分かるはずだ」


『ん?ああ、なるほど。そういうことかのう』


 ペニアは俺の言う通りにして、そしてそこで見たものを理解して納得したようだ。


『ありゃつけてきてるの』


「ああ、しかも足音とか気配を消そうとしてるからまとまな人間じゃないな」


 ペニアが下界を見て、そいつらを認識して、俺はそいつらの様子から少なくとも俺にとって良い奴ではないと判断した。


 気がついたのは、本当偶然。

 そいつらが石を蹴り飛ばした音を、偶然拾うことができたからだ。


 普通に歩いてて蹴り飛ばした時と、足音を消している時に石を蹴り飛ばした時とは音が若干違う。

 その違和感で、俺は追ってきているそいつらを認識することができた。


 この技能はあのクソ親父に教わったものだ。

 何でも、モテモテだったらしい父さんには追っかけが多くて、追ってきてることに気が付けるようになったらしい。


(ちっ、思い出したくもない)


 俺を殺そうとしたあのクソ親父の顔が思い浮かび、反吐が出る。

 だが、今は気づけたことに感謝しよう。


『だけどあいつら、素人だのう。こんな街中で足音とか気配消したら返って目立つと言うのに』


「どうせ金で買われた放浪者だろう。そんなもんさ」


 ペニアの評価に俺はごもっともと思いながら、そう自分で納得する。


『だがどうする?このままだといずれ追いつかれるぞ?』


 ペニアの言うように、危険はどんどん近づいている。

 そいつらはだんだん近づいてきているし、スピードも上げている。何より俺の疲労がやばい。


「仕方ない。裏道使って捲くか」


 このまま叔母の家に向かえば、途中で人通りのないところを通ることになる。

 そうなれば、やつらは俺を襲うだろう。

 疲れてなければ話は早いが、今は正直歩くのがやっとだ。

 馬鹿正直に進めば、殺されるのは目に見えて分かる。


(小さい時に使った裏道だ。覚えているといいが)


 俺は心の中でそう呟き、そして覚悟を決め、ふらりと傍道に入った。


 •••



 バタバタバタっと薄暗い裏路地に荒々しい足音が響く。

 複数人の男が、必死な様子で何かを探しながら走り回っていた。


「くそっ!どこ行きやがった!」


「この辺に逃げ込んだのは間違いねえんだ!ごちゃごちゃ言ってないで探せ!」


「あのガキが......捕まえたらぜってえボコす!」


 口々に罵りながら、男達は裏路地を走り回る。

 だけど一向に見つけることができず、次第に罵倒はエスカレートしていく。




 そんな彼らを、俺は上から見ていた。

 壁際の配管、それが通路のようになっている場所に、俺は隠れていた。




『上手く隠れたのう』


「(昔父さん相手に逃げ回った時に使った裏道の裏道だ。あの時は父さんに泡吹かせられたけど、今回も役に立って助かった)」


 この辺りは二階三階建ての建物が多く、そのために、水や、お湯を沸かしたり灯をともしたりする為の魔力を配給する為の配管がまるで立体迷路のように広がっている。


 昔偶々見つけた点検用のハシゴを伝って来た時には感動したものだ。父さんを欺くことが出来たし。

 それに、この配管はそんなに強くない。今の俺くらいの体重なら大丈夫だが、大人がもし登って来たら簡単に外れてしまう。まさに子どもの秘密の抜け道だ。



『しかし、やつらバカだのう。同じところをグルグル回って、見てて滑稽だ』


「(それは同意だ。脳みそが筋肉でできているような連中だからな。だけど、今の俺からしたらめんどくさいことこの上ない)」


 俺を探し回っている奴らはこの近辺をグルグルと回って全然離れない。

 きっとここに居るはずだ!と強い執念を感じる。

 普通ならバカを晒しているところだが、奴らの勘とか、信じたくないが感覚的な嗅覚が俺がここにいると知らせているのか、執念深くここを離れずに、それが俺の行動を封じている。


 だが、流石に俺がずっとここにいると思っているバカではないようで、次第に探し方が雑になり、注意が散漫になっていくのを見て取ることが出来た。


 そしてついに、奴らが諦めた。


「もしかしてここを抜け出したか!?ちっ、面倒な......おい!例の宿に張ってる奴らに連絡を取れ!もうそっちに行ったかもしれねえ!」


 俺を見つけられないことに痺れを切らして、男達のリーダー格の男が周りの男達にそう指示する。

 男達はそれを受け、散り散りに散っていった。


「ふう......」


 ようやく解放され、緊張を解いて一息つく。

 バレるとは思っていなかったが、それでも緊張はするし不安だった。

 それから解放され、俺は一先ず安心した。


『お前の予想が当たっておったのう。例の宿とは、お前の母親が手配した宿だろう?まさかお前の母親までがお前を狙っているとは』


「だろ?用心しておくことに越したことはないんだよ」


 どこか戦々恐々とした雰囲気で呟くペニアに、俺は得意半面母さんまで俺の命を狙っていてことに、少し寂しくなる。

 心のどこかで、母さんだけは裏切らないだろうと信じていたのだろう。

 だけどそんなことはなかった。

 母さんも、父さんと同じ人間だったようだ。



「っ!」


 一瞬、俺の意識が飛ぶ。

 そしてバランスを崩し、下に落ちそうになった。


「あっぶねえ......」



 辛うじて寸前で意識を取り戻して、なんとか踏みとどまることで落ちることを免れる。


『おい、大丈夫か?』


「大丈夫だ」


 ペニアに心配され、俺は短く返す。

 だが、本当はそこまで大丈夫ではない。

 そろそろ体が限界に近いようだ。

 意識が朦朧としていて、体に力が入らない。


「.......早く行こう」


 俺は気を引き締め直して立ち上がり、そして時短の為にそこから飛び降りた。


「くっ」


 ダンッ、と響き、足から腰にかけて衝撃が走るがなんと着地に成功する。


『無茶をするのう』


「仕方ないことだ」


 どこか呆れ気味のペニアを他所に、俺は裏路地を出た。

 出た先、夜の街は既に佳境に入り、あちこちで酔っ払いが騒いでいたり、娼婦などが男を誘ったりしていた。

 その道を、俺はふらりふらりと駆け抜けた。


 •••


 それからしばらく、俺は歩き続けた。

 客引きとかに絡まれることもなく進んだため、スムーズに進むことが出来た。


 途中で俺を探しているような男達がいたが、別の道を使ったりして遭遇することを避けた。


「着いた、か」


『やっとだのう』


 そうして歩いているうちに、俺は叔母の家に辿り着いた。


 街外れの小さな家。周りの建物に比べて見窄らしい外観は、昔から変わっていない。

 俺は味が出ている、というよりも傷みかけているドアをノックした。


「......おかしいな」


 しかし、返事が返ってくることはなかった。

 中から物音がすることもなく、静寂がその代わりに返ってくる。


 もう一度ノックしてみても結果は同じ。

 もぬけの殻のようだ。


『おかしいのはお前だろう。こんな時間に起きている方が珍しいわい。ちっとはそういうのを考えな』


「......そうだった」


 すっかり疲れ果てて時間の感覚が狂ってしまっていたようだが、今はもう既に真夜中もいいところだろう。

 そんな中でノックしたって、返事が返ってくるはずもなかった。叔母も寝ているだろう。


「仕方ない。野宿するか」


 追っ手が来ている状況で野宿は危険極まりないが、致し方ない。

 家の裏とかに隠れておけば、そうそう見つからないだろう。


 そう心を決めた瞬間、家の中から物音が聞こえてきた。

 寝ぼけているのがよく分かり、ドタドタと不規則な足音が響いてくる。


 そして、足音が近くまで来ると、ドアが開いた。


「こんな遅くに誰が......デニス?」


 不機嫌そうに出てきた叔母は、俺の姿を見て困惑した表情を見せる。

 そりゃそうだろう。本来ならば例の宿に居るはずなの俺がここにいるのだから。


「ごめん、叔母さん。ちょっと色々あっ———」


「デニス!!」


「うおっ!?」


 急に、叔母さんが抱きついてきた。

 突然のことに俺は驚き、そして受け止めきれずに俺は尻餅をついた。


「よかった......よかったよお......」


『ひゅーひゅー』


 俺の胸元で、まるで子供のように泣く叔母さん。

 頭の中で、ペニアが囃し立てる。


「え、えっ?」


 あまりの情報量の多さと疲労で、俺の頭はこんがらがってしまった。






話が進まなくてすみません......

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