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【異世界〔恋愛〕】タイトルなし(乙女ゲーム)

「乙女ゲームもの、ってこんな感じかな?」

と、初めて書いてみたもの。


この頃私は、なろうでは本当に、異世界転移/転生ものしか読んだことがなかった。


せっかくだから、記念に置いとく。

 きっかけは婚約者のこの呟き。


『あー、もぅ可愛いなぁ!やっぱ好みだゎ』



『えっ 日本語?!』


『えっ?!』

『えっ?!』



 ……そして、彼と私の協定が結ばれたのです。



―*―*―*―





 私が転生したことに気がついたのは、3歳頃だったと思う。


 前世の私は、マンガやラノベ、そして可愛いものキレイなものが好きなごくごく平凡な女子で、平和な日本の特に何があるというわけでもない町の、ごく普通の一般家庭で生まれ育った。

 特に何があるというわけでもないごくごく普通の人生を、ごくごく普通に幸せにすごしていた。


 なんで転生しているのかは、さっぱりわからない。 というか、なんで死んだのかさっぱりわからない。


 ついでに言えば、私がどんな名前で、どんな家族がいて、どんな会社に勤めて、どんな人と結婚(・・)したのか。

 さっぱり覚えていない。


 なんとなく、こんな人生をすごしたと、断片的に覚えているだけ。



 しかも、生まれたときから。



 なんか、ラノベや携帯小説だと、ショックなことが起こって頭痛くなったり、数日寝込んだり、思い出したあと性格変わったり、するのが定番だったりするわけだけど、そんなこともなく。


 生まれたときから自分の過去や、自分が自分であることは解っていたけれど、赤ちゃんのときは周りがぼんやりとしか見えないし、眠たくてぼーっとするし、そのあともあんまり自我というか、自分であれしたいとかこれやりたいとかいった意欲がわかず。


 さらにその後も、今の生活と自分の身体に慣れるのに懸命になっていて、「ぁ、これ所謂、異世界転生だ」とはっきり気がついたのが、他の人としっかり対話できるようになった頃、というわけ。



 鈍いと言われようと、私は私が転生したと自覚するまでにそれぐらいかかったし、多分他の人が普通に前世を覚えたまま、転生していても、そんなことになると思う。多分。


 ()大人だった記憶があるのに、今子どもなんだから、生まれ変わってるって気づくだろ、と自分にツッこんで、orzしたこともあったけれど、きっとそんなものだと思う。



 とにかく、私はティッツハンバーグ領主マクアベリの末娘、ミリアナ・フェア・マクアベリに転生した。






 祖父・ディゴット・フィル・マクアベリ公爵は、先々王の弟にあたる。

 幼い頃からその優秀さが知られ、次期王として目されたこともあったが、継承権争いが激化することを危惧し、自ら臣下に下った。

 以降、王を支える側近の一人として、さまざまな役職をこなし、先々王が突然亡くなった際には、次に就いた王が巧妙に隠した証拠を3年かけて調べあげ明らかにし、次王が先王を弑したことを証明した。


そして今は、王の暗殺を止められなかったことを理由に、長男・ジグモンドに家督を譲りその自領で悠々自適の余生を送っている。



 その、ジグモンドの末娘が私、というわけ。



 まぁ、父も祖父に生き写しと言われるほどの辣腕家なので、宮廷での権力はものすごく半端ない。

 権力を求めてそうなったわけではない、というのにそうであるということが、余計にすごさを際立たせている。


 父も祖父も、そうであるべきで必要だったからやっていただけだ、と思っているようだし、周りもそう思っている。

 そういうことは逆に難しいもので、だからこそ、マクアベリ公爵父子は尊敬されているのだ。



──話がずれた。



 私が言いたかったのは、アレ。


 彼と私の婚約話も、父にとって、やるべき、必要なことだったからした取り決めであって、だからこそ彼と私の出会いは必然だった。




―*―*―*―




 アポロニア王国・第二王子である彼、ユリアン・セト・ファザードとは、城内の応接間で引き合わされることになった。


 6歳にして、すでに変わり者という噂のたつ私に会うのを、非常に楽しみにしていらっしゃるそうだ。


 社交辞令か皮肉か、それとも向こうも変わり者か。



 ……。



 いや、とても賢く優しい方だという噂だ。

 優しい社交辞令だろう。

 何せ私の下の兄よりひとつ年上、11歳になるというし。


 王家には、私と同い年と、ふたつ年上の姫がいるから、妹を暖かい目で見る感覚なのかもしれない。



 第一、私に変わり者の噂がたったのは、前世の感覚につられてした行動のせいで、私には変わったことをしている感覚はない。


 夏の暑い日に、庭の池に足をつけて遊んだり、下の兄と一緒に木登りをしてみたり、ちょうどいい縄を見つけて縄跳びをしてみたり。

 また、母さまが風邪を引いたと聞いて、ネギを首に巻こうとしてみたり、しゃっくりのとまらない姉に砂糖を飲み込ませようとしたり。

 一番驚いたのは、私だけがお昼ご飯を食べていたことを知ったとき。この国では一日二食が常識だったらしい。

 代わりに、昼前と昼下がりにティータイムがあり、軽食をとるかお菓子を食べる。



 おかげさまで、おてんばで食いしん坊な変わり者ということになりました!(泣)



 家族や使用人たちが、温かく受け入れてくれたので良かった。

 そうじゃなかったら、心が折れてたかも。



 そんなことを考えているうちに時間が過ぎて、侍従の案内でユリアン王子がやって来た。


 お互いに優雅に挨拶をしたあとは、父と王子が世間話をしているのを大人しく聞く。



 この世界の婚約の挨拶はこんなものだ。

 親同士か親と男性が話して、女性は大人しくしているのが普通。


 結婚してから初めて嫁と話したなんてことも、よくあることだという。


 むしろ、高位貴族なら、親同士だけで婚約を取り決めて、結婚してから初めてお互いを見知ることだってある。


 婚約前にこうして会えただけでも幸運、そうでなく会えるのは、15歳の社交界デビューまでに婚約を決められなかった場合。


 10歳前後で仮にでも婚約するのが、高位貴族の常識。

 でなければ、かなり相手の条件が悪くなってしまうという。



 ……だからと言って、相手が王子様とか、条件が良すぎるような気がするんだけど。



 そんなことを口元に笑みを浮かべたまま、上の空で考えていたため、何か色々聞き逃していたらしい。

 気がつけば王子様が私に話しかけてくれていた。


「では、ミリアナ嬢。庭を散策しながらお喋りしませんか?」


「へ?」


 この世界ではあまりない内容を。




―*―*―*―




 王宮の庭は、さまざまな色に覆われ、まさに今花盛りとなっていた。


その中を二人歩く。


「ゆっくりお話してみたいと思っていたんです。マクアベリ公の許可が出て良かった」


「はぁ」


 気の抜けた返事しかできない私。表情もきっと間抜けているはず。

 それをニコニコ見ながら、楽しそうに色々話しかけて下さる王子様。


 そうかぁ。この方も変わり者なんだなぁ。


 そんな失礼なことを考えながら、見事に整えられた庭の中を進む。


 ピンク色の五枚弁の可愛らしい花が咲いた生け垣を越えると、噴水が置かれた場所に出た。


 噴水、と言っても前世のように水が高く吹き上がっていたりするものではない。

 人工的な湧水といったほうがイメージに近い。

 彫像の配置された岩の間を水が流れていく意匠になっている。

 なんかこれによく似たのが、前世ヨーロッパの観光名所にあった気がする。


 そんな芸術品の向かいに、合わせて誂えられたのであろう東屋があり、王子様はその中のベンチに腰掛けながら話そうと、私を案内した。


 座ると目の前にある噴水と整えられた花々が、まるで絵画のようだ。

 これを考え出した設計士と実際に造り出した人びとに、心の中で称賛を送る。



 そんな風に考えていることは分からないと思うが、ただ感動しているのは伝わったのであろう。王子様は誇らしげに私を見る。



 なので、私は言ったのだ。「素敵ですね」と、笑顔で。


 王子様は笑みをいっそう深くして「ありがとう」と言ったあと、顔を向こうに逸らして、一人言を言った。



 内容的に聞かせるつもりはなかったのだろう。

 けれど、東屋の中では意外に響いて、その声を私に届けた。


 それでも、本来ならこちらには内容が分からなかったはずなのだ。


 ──なぜなら、それはこの世界にはないはずの言語だったのだから。




『あー、もぅ可愛いなぁ!やっぱ好みだゎ』




『えっ 日本語?!』


『えっ?!』

『えっ?!』



 久しぶりに聞いた、もう二度と聞くはずのなかった響きに、思わずお互い日本語でかえしてしまった。


 その時の王子様の顔は、目をこれでもかというほど見開いて、信じられないものを見たような表情だった。


 ……私も似たような表情してたのかな?


 お互いにその表情のまま、しばらく見つめあっていた。

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