【ハイファンタジー】呪い持ちの姫ステちゃんは、なんとか生き延びたい
ここから「書き出し」用ではないもの。
定番の『クラス転移もの』。
先生が教室から出ていき、さて私も帰るぞと席を立ちながら鞄を斜めがけにするためにまず首を紐に通しました。
教室の床全体が光を帯びたのはそんな時。
ええー、と思いながら、鞄に腕も通しているのを友人たちが見ていたならば、相変わらずのマイペースと笑われたかも。
そのまま、クラスの半数近くの学友たちと共に、私は次々と展開していく複雑な模様に飲まれていきました。
― * ― * ― * ―
目を覚ますと、見慣れない天井の様子。
あれ? なんで、私、目が覚めたの?
身を起こすと、4台のベッドに私と、それ以外に2人の女生徒が各々寝かされていました。
格好は、私と同じように生成りっぽい布のワンピース。制服ではなく、着替えさせられています。
ベッドを置いても狭さを感じない部屋。
ベッドの横には収納があり、制服が畳まれ、肩掛けの通学鞄が置かれています。中身は……うん、揃ってる。
反対側、他の子が寝ているベッドとの間には、足触りの良いじゅうたん。その上に低めのテーブルと一人座り用のミニソファが3つ。
……それだけ見ても、頭の中には?だらけ。
私、頭が悪いって自覚あるから、誰か分かりやすく説明してくれないかな?
なんで、さっき教室にいたところから、ここに寝ている間の記憶がないの?
着替えた覚えのない服を着ているの?
なんで女の子3人で寝てるの?しかも、そんなにお互い話した記憶の無い人同士で。
何より、ここ、どこ?
頭の中がこんがらがっているうちに、同室の二人が目を覚ましました。
「……ここ、どこ?」
「……ええと……なにこれ?」
同室の二人がそれぞれ言う言葉に、私は顔を横にゆっくり振るうしかありませんでした。
― * ― * ― * ―
同室の二人の名前は鳥居 鳴子さんと紫崎 李緒さん。
私、佐倉井 雫とはクラスメイトで、だけれどあまりよく話すような人ではないです。
鳥居さんは、いつも机で読書か勉強をしてるイメージで、紫崎さんは別のグループの女の子と話してるイメージ。
仲が悪いとかはないけど、積極的に関わってきた間柄でもない。
正に単なるクラスメイト。
「ええと……まず、学校で帰りの会が終わって、帰ろうとして……」
「なんだか魔法陣みたいなのが広がって、教室中が被われた」
私たちは、記憶の整合から始めることにしました。だけれど。
「そのあとは、覚えてません。目が覚めたらここでした」
「私も」
「同じく」
新情報はなかったです。
みんな状況が同じだったということだけがわかりました。
「あはは。これが異世界召喚だったら、【ステータスオープン】とか言っちゃうところなんだけど」
いや。
鳥居さんが、そう言ったことで事態は動きました。
「え、ナニコレ」
「何? 鳥居さん、どうしたの?」
なんだか中空を見つめ出した鳥居さんに、紫崎さんが聞きます。
「ぁ、他の人には見えないタイプか。と、とりあえず、【ステータスオープン】って言ってみて」
訳がわからないまま、言う通りにすると、目の前に半透明の板が浮かび、そこに文字が並びました。
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[名前] シズク・サクライ
[レベル] 1
[種族] 人族(異世界人)
[職業] 治癒士
[HP] 80 [MP] 12,800
[STR]‐ [VIT]D [INT]‐ [MND]SSS
[DEX]B [AGI]S [LUK]SS
[加護/称号] 転生女神の加護 / 異世界人,姫治癒師
[固有スキル] 【召喚されし者】【直接攻撃力なし】
[スキル] 聖属性魔法Lv.5,
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あ。そうか。
これ、web小説でよく見る異世界召喚ってやつだ!
「……なにこれ……」
横にいる紫崎さんは、青い顔をして呟います。
「所謂異世界召喚されました、ってヤツね。本当に起こると意外と冷静でいられるもんだなぁ。それとも現実感無さすぎて、麻痺してるのかな」
鳥居さんは、から笑いしてました。
私は、現実感ではなく実感が無くて、その半透明の板を触ろうとしました。
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【召喚されし者】
異世界からの召喚者限定スキル。『他言語理解』『鑑定』『ステータス表示』『解説』『収納』のセット。
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板でなく、固有スキルの所にあった【召喚されし者】という文字を触っていたみたいです。
触ると説明が出るようでした。
なんだかスキルの名前というよりは、称号のように思っていたけれど、どうやら複数のスキルを統合したもののようです。
説明からすると、他の二人にもあるのかな。
触れると詳細が出ることを伝えると、二人は真剣な顔で中空をなで始めました。
私も解らないところを触れてみよう。
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[STR] 攻撃力。攻撃対象にダメージを与える力。
[VIT] 防御、持久力。攻撃を受けた時に耐えられる力。
[INT] 魔法攻撃力。魔法を使って、攻撃対象にダメージを与える力。
[MND] 精神力。魔法防御力。魔法で攻撃を受けた時に耐えられる力。もしくは回復、補助魔法の強さ。
[DEX] 命中力。遠距離攻撃や魔法の命中率。
[AGI] 敏捷。回避力。移動する力、もしくは攻撃を避ける力。
[LUK] 運。
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日本語で書いて欲しかった。日本語で書いて欲しかった! ゲームに慣れてない人間にはややこしいよ。
ええと、つまり私は、魔法に耐える力が強く、回復魔法や補助魔法が得意で、攻撃を避けるのが上手く、運もいい、ということのよう。
え、これ完璧じゃない?
攻撃力とかの『‐』が謎だけど。
聖属性魔法というのも、回復や補助魔法が中心で、結界魔法も使えるらしいです。
え、これ完璧じゃない?
すごい強くない?
けれど、次の二人の会話でそうではないことがわかりました。
「私は、魔法使い系のステータスね」
「いいなぁ、私は前衛ステだわ。槍術とかついてるし」
「何言ってんの。剣と魔法とモンスターの世界だったとしたら、とっさに身を守れる前衛ステの方が有利だよ、きっと」
「えー、そうかなぁ」
鳥居さんは魔法使いで、紫崎さんはソウ術……って槍ですか。なんだかすごい。
「魔力切れとか、近距離戦に持ち込まれるとか、魔法使いのピンチは多いわよ。近接戦の心得は絶対にないと。私も短剣ぐらいは装備するし」
え……。攻撃、できないとだめってこと?
「あの、魔法というか、回復役とかも、戦えないとダメかなぁ……?」
恐る恐る、いろいろ詳しそうな鳥居さんに聞いてみる。
「そうね……。回復役は、パーティの要になるから狙われやすいし、だからみんなで守るわけだけど、それでも最低限の攻撃力は欲しいわね。自分の身は自分で守れないと。特に逃げるときには、全く攻撃手段がないのは不安だわ」
不安。
どうしよう、私。
「わ……私……【直接攻撃力なし】っていうのがステータスに書いてあ…るん……ですけど……」
私は、全身から血の気が引いていきます。
鳥居さんと紫崎さんが、慌てるのがわかりました。
ダメだ、私。
強いどころか、みんなの足を引っ張ってしまう。
震えが止まらない。
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【直接攻撃力なし】
これを持つものは攻撃力、魔法攻撃力が0になる。
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攻撃力の『‐』はこのせいだったんだ。
自分で身を守る術がないって、どうすればいいの?
ところが、私は、そんなものどころではなかったのです。
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「何故、呪い持ちが召喚されてるんだ!」
私は、追い出されました。
活動報告(https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2353893/)に書いたアイデア『こちらの姫ステちゃんは、本ッ当に!戦えませんので、誰か助けてぇ~!!(大泣)』の元ネタ。
6話から進まないです……。