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人魔変身-クロス-  作者: 湯樹
Begins Day
1/4

プロローグ

「――っ」


 言葉が出ない。今、自分の目の前に広がる惨状に言葉が出ない。


 部屋の片隅で氷漬けにされ巨大な氷塊へと成り果てた人物は妹。綺麗にバラバラに切断されて倒れている人物は母。黒焦げという表現は不適切か、消し炭と言った方が正しいか、見た目では判断できないが消去法で恐らく父だろう。


 荒らされた部屋、これだけなら金目の物を奪おうとした強盗犯の犯行に見えなくはないが、目の前に広がる超常的な力によって殺害された家族の姿を見てただの強盗犯の犯行にはどうしても思えなかった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



『――ッ』


 言葉が出ない。意気揚々と出かけた先に広がる惨状に言葉が出ない。


 焼死体にバラバラに切断された死体、おまけに氷漬けにされた女の子。唯一生きている少年は――この死体の家族か。膝から崩れ落ちて呆然としている。


『……微かだが魔力を感じるな……』


 絞り出すかのように声を出す。この惨劇を引き起こした者は間違いなく()()()()()()()ではなく()()()()()()()()()だろう。


「……そこに誰かいるの?」


『!?』


 一体誰がやったのかと思案している最中、少年の突然の問いに思わず驚く。俺の方をしっかりと見つめて尋ねている。まさか見えているのか。


『お前、俺のことが見えているのか?』


 まさかと思い逆にこちらも少年に問う。少年は「姿は見えないけれど声は聞えた」と答える。


「これは君がやったのか……?」


 震える声で少年は続け、再度俺に質問を投げかける。


『いいや、俺じゃない。ってもそれを証明する手段がねぇか。少なくとも言えるのはこの世界の人間の力による犯行ではないってことだな』


 そうかと、静かに答えた少年は歯を食いしばり、両手を強くギリギリと握りしめて続ける。


「許せない……犯人を僕は絶対許さない……!」


『復讐か。やめとけやめとけ、何の力も持ってないお前がどうにか出来る相手じゃねぇよ』


 この世界の【人類種(ヒューマン)】がどのくらいの強さなのか分からないが、少なくとも俺と同じ世界の者達に目の前の少年が勝てるとは到底思えない。そもそも次元が違うと忠告するものの、目の前の少年は諦める様子はなかった。


「おやおやぁ……? 殺し損ねた人間がいたみたいですねぇ……」


「『!?』」


 ねっとりとした声が突然聞え俺と少年は驚いて、声が聞えた方向を振り向く。そこには黒い帽子を被り黒い服を着た男が立っていた。


「あなたが……父さんや母さん、妹を殺したんですか……?」


 少年は身体を震わせながら男に問う。それを聞いた男は嬉々として少年の問いに答え始めた。


「えぇ、そうですよ、そうですとも! 最近手に入れたものなんですけれどねぇ、ちょーーっと試しに幸せな家庭を一瞬で壊してみたくなりまして。試運転がてら殺させていただきました!」


『ゲス野郎が……!』


 アッヒャッヒャッと恍惚とした笑みを浮べる男を見て思わず言葉が出た。が、どうやら男には俺の声は聞えてないらしい。


「許さない……! 絶対に!!」


『ばっ、やめろオイ!』


 男に殴りかかろうとする少年を制止しようと叫ぶも間に合わず、先程まで笑っていた男は少年の行動に気付き、すぐさま少年の両足を冷気で凍らせ動きを封じる。


「足が動かない……!」


「大丈夫ですよぉ……すぐに家族のもとに送って差し上げますからねぇ……」


 男はねっとりと話しながら右手に暖かい光を、左手には冷気を集め始め、またも恍惚とした笑みを浮べる。


『(オイオイオイオイ、向こうの世界が退屈だからこっちの世界に来たのに、来て早々地獄絵図見せられた挙げ句、目の前で人殺しなんざ洒落になんねぇぞ!)』


 足りない頭をフル回転させてどうにかこの状況を打開する方法を模索する。と言ってもやはり足りない頭をどんなに回転させても捻っても良い答えが出ず、少年のもとへ近寄り叫ぶ。


『オイお前!』


「今の声はさっきの……!」


『あぁ、そうだ! 来て早々ヒデぇもん見させられた上に、これから目の前で人殺しされるとこなんか見たくねぇ! だからお前のことを助ける!』


「助けるったって、姿形もない君がどうやって僕を助けるのさ」


『こうやってだ!』


 少年の身体に入り込み身体の自由を奪う。身体の主導権を奪われた少年は頭の中で抗議をしているが今は一切無視する。


『ちょっくら借りるぜお前の身体』


「ブツブツと何を言っているのか知りませんが、さようならの時間です」


 男は両手に集めた魔力をこちらへ放出し、自身はすぐさま姿を消した。迫り来る強大な魔力の塊を目の前にしてニヤリと笑い、未だに頭の中で騒ぐ少年をいいから見てろと言って黙らせ俺は続ける。


『《変身(クロス)》!――』


 放たれた魔力の爆発による爆風と、自身の身体から溢れ出る光に俺たちは身を包まれた。

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