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原作のヒロインのように

殿下の控え室はホテルでいうならスイートルームのような場所だった。広さも装飾も他の部屋とは比べ物にならない。扉に護衛が立ち、部屋には何人もの侍女が存在感を消して佇んでいる。


「殿下。こちらのドレスは如何でしょう?」


「バランスが気に食わないな。もっとマシな奴はないのか?」


「でしたらこのドレスなど、背中のリボンがアクセントになっておりまして…。」


私がドレスを買った仕立て屋とは比べ物にならない程、洗練された無駄のない動きの従業員達が殿下にドレスを勧めている。私に渡すつもりのドレスだが、私の意見を聞くつもりは無いようだ。


「これを着せてこい。」


「かしこまりました。」


然程、時間を掛けずに決まったらしく、お嬢様、どうぞこちらにと、にこやかに手を引かれ、ドレスを持った侍女にまた別室に通される。


着替えるために用意された別室すら、別世界だった。私は侍女に丁寧に制服を脱がされ、着付けされていく。ドレッサーの前に連れて行かれて、けっして量産品などではないだろう高価そうな髪飾りを着けられ、髪を複雑に編み込まれた。


着せられたのは原作のリリアがプレゼントされたドレスと同じ物。

背中に大きなリボンがある黄色のドレスだった。

髪型も、化粧の仕方も見覚えのある形に整えられていく。


「とてもお似合いですよ。」


おっとりとした団子頭の侍女は鏡越しに私を褒める。鏡に映った私はさっきよりも美しくなってはいたものの、憂鬱な表情を浮かべていた。


「ありがとう。」


「いえ、お嬢様。さぁ、殿下がお待ちです。」


扉を開けて先程の部屋に戻るように促される。


戻れば殿下は長い脚を組んで、紅茶を飲んでいた。

私が来た事に気づくと、コトリとも音を立てずにティーカップを置き、立ち上がった。


コツコツと近づいて来るのに合わせて目を合わせないように伏せていく。


「美しくなったな。似合っている。」


「殿下のセンスが良かったのでしょう。勿体ないお言葉でございます。」


「顔を良く見せてみろ。」


高貴な方と目線を直視合わせてはいけない。それは教わったが、命令を拒否する権限も持っていなかった。


「はい。」


顔を上げる。


殿下は最初、微笑んでいた。しかし私の顔を見ると、たちまちその美しい顔の眉間に皺を寄せる。


「何だ、その顔は。」


「何か不足がございましたでしょうか。」


「ああ、不足だとも。何がそんなに不満なんだ。この俺が褒めてやっているのだぞ。なんだ、ドレスが気に入らないのか?」


「いいえ、不満な事などありません。私のような者には勿体ないくらいの素敵なドレスです。」


驚いた。私は心から微笑んでいるつもりだった。いや、少なくともそう見えるように表情を作ったつもりだったのだ。


会場は、今頃ダンスの時間に入ったのだろう。曲のメロディーがここまで流れてくる。


「庭に出ろ。」


殿下は私の手を取りエスコートを開始する。


「え?」


「サービスだ。一曲踊ってやろう。」


殿下は庭に向かって歩き出した。


私は歩いている間に曲が終わらないかと、ありもしない事を願いながら心なしか重く感じる足を動かした。


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