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イベントは進む

私は会場の控え室に座って、ドレスを拭っていた。ある程度拭い終わったら、もしもの時の為に持って来ていた制服に着替える。今日はもう会場には戻れないだろうから、しばらくここに待機して、お父さんが戻って来たら馬車に乗って家に帰ろう。


私は憂鬱な気持ちになり、重い溜息をこぼした。色々考えて、トラブルにならない様に頑張ったのに、強制力にはやっぱり抗えないのか…。


そんな事を考えていると、部屋のノックが鳴った。


このマリアンヌ主催の社交会。会場以外はホテルの様な構造になっていて、参加者全員に控え室が当てがわれている。受け付けで、その部屋の鍵を貰えるのだ。私は着替えなどの準備は家で済まして来た為、お父さんと同じ部屋を使わせてもらっている。


つまり、お父さんは合鍵を持っているのだ。もしノックをしているのがお父さんなら、ノックをして、返事がなかったら自分で入って来れる。


別の人なら悪いけど、今は相手をしたくない。居留守を使わせてもらおう。


「リリア!大丈夫⁉︎」


天使の声に私は一瞬でドアまで移動し、素早く鍵を外す。廊下には涙目になったリーゼが立っていて、ドアを開けた瞬間私に抱きついて来た。


「マリアンヌ様も酷いわ!何もあそこまでされなくても…。あぁ、可哀想なリリア!」


感極まって、ぎゅうぎゅうと力を込めて来るリーゼ。結構地味に苦しい。いや、天使の抱擁なら例え内臓をブチまける威力だとしても受け止めるけど。


「いえ、今回のことは私が悪かったのよ。男爵の娘が公爵令嬢のマリアンヌ様と同じ髪飾りをしていたら、尊厳を傷付けられたと思っても仕方ないわ。」


マリアンヌが悪いと認識されると困る。今回の事は私の情報不足が原因だけど、私も不可抗力だったという事を分かってもらわないと。


「もっと言えば、仕立て屋が悪いわ。多分マリアンヌ様と私のドレスを仕立てた人は同じ…。バレないと思って、量産品を買わされたんだわ。」


胡散臭い顔の仕立て屋だと思ってはいたのだが、この王都で人気の店だという事で、大丈夫だと思ったのだけど。悪徳業者に当たった私とマリアンヌ様の運が悪かった。


「リーゼも気を付けて。ローリー・デイっていう仕立て屋よ」


「任せて!我が商会の力を使って、この王都でまともな商売ができなくしてやるわ!」


「そういうつもりで言ったのではないけれど…。」


その仕立て屋も、もしかしたら原作の強制力に巻き込まれた被害者かも知れないし。ただ、リーゼがその仕立て屋でドレスを買って、同じ様に量産品を掴まされるのは回避して欲しかっただけで、そんな過激なお願いをした覚えは無い。


「リリア・リルーラ。」


そのとき、甘く、低い声が私を呼んだ。


「俺の婚約者が悪かったな。来い。お詫びに新しいドレスを仕立ててやろう。」


口調と声に合わない美少女の様な可愛らしい顔立ち。絹の様なセミロングの金髪。


私はリーゼが来た勢いのまま、部屋に入らずに立ち話をしていた事を後悔した。


マリアンヌの婚約者。原作人気No.1の攻略キャラである。ハリス殿下が歩いて来る。私は頭を伏せ、直接目線を合わせない様にした。


「いえ、殿下の手を煩わせる訳にはいきません。今回の一件は私の無礼によって起きたもの。自業自得なのです。」


殿下はスッと目を細め、私を見下ろす。この王子、原作では婚約破棄や、冤罪の様なマリアンヌを証拠も無しに問い詰める、ご都合主義の嫌なキャラクターだったが、恋に恋せずに、王子としての孤独がどーこー言わなければハイスペックで、威厳のあるお方なのだ。


「まさか、断るのか?」


気温が下がったかのように空気が凍る。下の者に対して、自分の意見に口を出されたと思ったのだろう殿下は、冷たい目で私を睨んでいた。


「滅相もありません!殿下のお心遣いに感謝致します!」


「では、行くぞ。仕立て屋はもう呼んでいる。」


突然来た殿下に頭を下げていたリーゼに軽く目配せして、歩き出した殿下に付いて行くしか、今の私には選択肢が無かった。




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