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無駄な事をする愚かな人

私は今、絶賛迷子中だった。


……誰だよこの学園のマップは頭に入ってるとか言った奴は!私だ馬鹿!

この学園は土地が広大で、庭が多く、管理された植物が溢れている。空いた時間に花を見ながらお茶を飲むのが好きな、貴族ならではの構造なのだ。庭の所々にお洒落な椅子とテーブルが設置されている。天気良いなぁ。森林浴しよう!と思い立って寮を飛び出したは良いが、広過ぎて道が分からなくなってしまった。


「どうしよう。立ち入り禁止区域とかに入ってたら…。公爵以上じゃないと立ち入れない場所とか結構あるのに。」


原作のリリアが犯した間違いを私も犯すことになったら自己嫌悪で立ち直れない。規則に疎い転校生だって、ルールは守る為にあるのだ。


うう、これが原作の強制力か…?私に入るつもりが無くても、入らないと話が進まないなら強制力が仕事をするのか?


「ねえ、リリア・リルーラ。」


ズドンと落ち込んでいたら背後から声を掛けられた。誰かなんて見なくても分かる。


「どうかなさいましたか?」


束ねた青髪が目に入る。視線を向けると彼、リクト・ロゼリーは目を細め此方に歩み寄って来た。


「君、転校生だったんだ。道理で見た事ないと思った。男爵令嬢なんて僕と社交会が被んないしね。」


まぁ、彼は公爵子息だから私が出る社交パーティーよりも、もっと豪華な場に出席するのだろう。しかし私は、社交会に出た事はまだ無い。どうやら私が孤児院育ちだという事は周囲に知られていない様だ。彼は身分が違うから見かけた事が無いと勘違いしている。


その勘違いを正すつもりもないけれど…。


「はい、先日この学園に転入致しました。」


「そう、僕はリクト。今時間ある?ちょっと話さない?」


にっこりと笑顔で此方を手招きする。そういえば私は彼の名前を知っていたし、彼もリーゼに私の名前を聞いたらしいけれど、自己紹介はしていなかった。というか、自己紹介する程の接触があった訳では無い。


「あの…。今は少し急いでいまして…」


別に用事はないけれど、急いでいるのは本当だ。早く知っている道に出て、寮に帰らなければ取り返しの付かない事になる。それに彼は、転校生の女子が1人で歩いていたから、気を使って話しかけてくれたのかも知れないが、2人っきりで話をするとなると、彼の婚約者に悪い。だからここは断るのが正解なんだろう。


彼は女性に対する優しさが溢れ過ぎて、誤解されやすいのだ。私がその誤解を加速させる火種になる訳にはいかない。しかし彼は


「君は僕の誘いより、自分の用事を優先させるの?いつから男爵令嬢ってのは、そんなに身分が高くなったのだろうね?」


天使の様な笑顔で結構言いおる。やっぱり彼は原作のリクト・ロゼリーとは違う。原作の彼は最初、主人公を他の女と同じ様に誑かす為、甘い言葉を掛け誘惑しようとした。好感度が上がったら上がったで、本命の主人公をやっぱり甘い態度と言葉で口説くのだ。間違っても、こんな辛辣な態度の描写は無かった。


いや、きっと彼の言い分は間違っていない。男爵令嬢の私が公爵子息の誘いを私情で断るのは、貴族として正しい在り方ではないのだろう。彼は私の不適切な対応を心を鬼にして注意してくれている。


「申し訳ありません。リクト・ロゼリー様の言う通りです。ご忠告、ありがとうございます。」


間違った事をしたら謝罪する。人として当然の事だ。彼は拍子抜けしたように


「じゃあ、立ち話も何だし。そこのベンチに座ろうか。」


と、外にあるとは思えない程、綺麗に磨かれているベンチを指差した。


ーーーー


「リリアは僕が優しいって、尊敬してるって言ったよね。」


「あ、いえ、あのときは偉そうに差し出がましい事を言いました。」


「そういうのいいから。後から考えたら面白い発想だと思ってさ。君の考えをもっと詳しく聞いてみたいな。」


彼は態とらしい笑顔に戻っていた。


「話して?」


首を傾げ、私に話を促す。


これあれだ。暇だから面白い話してよ、って言ってくる面倒くさい友達と同じだ。面白い話してって突然言われても出来ないし、考えを話してと言われても、纏まらない。しかし、貴族社会は弱肉強食。長い物に巻かれなければ生きていけないのだ。


「リクト・ロゼリー様は女性に優しく、ご学友が多いと聞き及んでいます。その優しさで、婚約者の方がいらっしゃるにも関わらず大層オモテになるとか…。」


「それは噂でしょ?君はどう思うのかを聞いてるんだよ。」


「この前立ち会った時に、ロゼリー様は女性に罵倒されておりました。その様な事は今回だけではないご様子。それでも女性に優しく出来るのは、ロゼリー様が真の紳士だからだと思います。」


「真の紳士ねぇ。」


「罵倒されても人に優しく出来る人なんて、滅多にいません。しかし、女性は素敵な紳士に優しくされると、誤解してしまうのです。せっかくの優しい心を誤解され、ご学友に嫌われてしまうのは勿体ない事だと思います。」


リクト・ロゼリーは此方を小馬鹿にする様に鼻を鳴らした。


「女を惚れさせる為にワザとやっているとは思わないの?」


「人に罵られるのが好きな、特殊な人種の方がいらっしゃる事は知っていますが、ロゼリー様はその様な方には見えなかったので…。」


「当たり前だろ!そういう事じゃなくて…!」


彼は顔をカッと赤らめ、焦った様に言う。


「あぁ!もう!だから僕が女遊びが好きなだけで、女の子の気持ちなんて考えない、むしろ騙された女を見るのが好きな、女嫌いの最低男だったらって話だよ!」


口調が荒れる。彼は何を言いたいのだろうか。自分が女性に優しいだなんて認めたくない様に、私に発言を撤回させたがっている様に見える。原作のリクト・ロゼリーは、彼の言うように女嫌いの最低男だったが、私は現実の彼が同じだとは思えない。


「そうだとしても、優しくされた女性は嬉しく思った筈です。だからロゼリー様に惹かるのでしょう。最後に想いが叶わずとも、その嬉しかった想いは決して消えません。傷付いたとしても、その経験は無駄にはならないのです。」


彼は驚いたように私の目を見た。


「ロゼリー様が女嫌いだったとしたら、そんな風に女性に恋の経験を積ませる行為こそ、本当に無駄ですもの。経験は女性を強くし、時が過ぎれば手放しがたい思い出や、笑い話に昇華できるものですから。長い目で見れば、良い事です。」


男が思っている程、女は弱くない。強かで、失恋に落ち込んだとしても、次の幸せを見つける事が出来るのだ。落ち込む時間は人それぞれだけれど、立ち止まったままではいない。


「でも私は、ロゼリー様がそんな無駄な事をする、愚かな人だとは思いません。だから誤解されやすいだけの、優しい人だと思うのです。」


リクト・ロゼリーは顔を伏せた。髪で目が隠れ、表情が分からない。


「なんだ。馬鹿みたいじゃないか。」


彼はポツリと呟き、顔を上げた。顔には悲しそうな笑みを浮かている。


「君は純粋なんだね。流石に結構キタよ。…うん、ちょっと考えてみる。」


「そうですか。私の考えは以上です。所で…。」


女子寮に戻る道を教えていただけませんか?


そう言うと、しょっぱい物を食べたみたいな表情になった彼は女子寮の方向を指差した。


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