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優しい人なのでは?

「この学園の中央に大きな庭園があるけれど、許可なく入ってはダメよ。」


リーゼが、この学園で注意するべきことを教えてくれる。


「図書室には、勝手に入っても問題ないかしら?」


「えぇ、大丈夫。今日行くなら案内するわ。食堂や寮の場所もまだ分からないでしょう。」


リーゼの親は元々平民だったが、商人として大成し、準男爵の地位を買った。商売が上手く行かなければ一代限りの地位だが、リーゼは情報収集能力に優れ、親の後を継ぐ為に経済学に力を入れ、努力している。


「ありがとう。」


本当はこの学園のマップは頭に入っている。でもここはリーゼとの親睦を深めるチャンス!原作ヒロインは身分の高い男とばっかり交流していたけど、実際は身分が近い者同士で連むのが一番無難なのだ。身分違いが悪い訳ではないが、爵位が離れていると生活基準が違うし、社交の場もあまり被らないし、爵位が低い方が気を使わなければならなくなる。


この学園では在学の間は身分関係なく皆平等だという決まりがあるけど、そんな物はお飾りだ。皆爵位が二つ以上離れている相手には後輩にだろうと、敬語を使い、道を譲る。


ちなみに準男爵、男爵、子爵、伯爵、公爵、王族の順に身分が高くなっていく。


放課後、私は図書室で、リーゼに遅れている勉強を見て貰っていた。学校が始まるのは4月からだが、今は6月。私は勉強に二ヶ月分の遅れがある。


「リリアは数学が得意なのね。」


「えぇ、数学って生きていくのに一番必要な科目だと思うから。」


「同感だわ。私も数学が一番好き。でも語学と歴史は苦手?」


「うん。リーゼは頭が良いのね。」


ヤバイ、ヤバイ天使!笑顔が可愛い!手で口元を隠してフフッて、フフッて!私の推し!課金させて!


そんな感じで脳内はハッスルしている私だが、表面上は貴族の子女らしく穏やかに会話している。


「リーゼの好きな食べ物はなに?」


「最近は焼き菓子にハマっているの。」


「私も甘い物は好きよ。部屋に遠い島国でしか取れないドライフルーツを使ったクッキーがあるの。一緒に食べましょう?」


「良いの?じゃあ、私は紅茶を持っていくわね。とっても良い香りのローズティーがあるのよ。」


ゲームではスタミナ回復アイテムに、クッキーがあった。寮や教室にいるリーゼに話しかけると


話をする。


好感度を見る。


情報を聞く。


クッキーを貰う。


というコマンドが出るのだ。クッキーは1日1回タダでリーゼから貰う事が出来る。つまり、ヒロインは1日1回リーゼにクッキーをたかっていた。自分は何もあげない癖に、毎日クッキー頂戴!と言って両手を出す不届き者に笑顔で対応するリーゼ。女神かな?


しかし、いつもクッキーを持っているという事は、リーゼはクッキーが好きなのだろう。普通のクッキーはリーゼも自分で持っているはずなので、ここら辺だと滅多に食べられない、他国のクッキーを持ってきてみました!男爵令嬢になって数少ない良かった事の一つだ。ムフフフッ。


「リリア、ここ間違えてるわよ。」


はい。


ーーーー


「ちょっと!その女は誰ですの⁉︎」


「貴方こそなんなのよ!」


放課後、私は庭にある一般用のテラスで委員会に行ったリーゼを待っていた。暖かい日差しが降り注ぎ薔薇のいい匂いに包まれて、一人で穏やかな時間を過ごしていた。


そこに高い怒鳴り声。


見ると青髪を後ろに縛り、十字架のピアスをした青年と腕を組んでいる女の子。その女の子を睨みつける上級生っぽい女性。


「説明って必要?僕らそんな関係じゃないよね?」


眉を下げて美しい顔で女性を見下すその顔には見覚えがある。


リクト・ロゼリー。彼は婚約者がいるにも関わらず女遊びがはげしいチャラ男だが、子供を放ったらかしにして父に媚を売る母親を見て育ち、内心女を見下している。という設定のキャラだった。


「君達は婚約者がいる、このいたいけな好青年と何か特別な関係だって言うの?そうだとしたらなんて酷い。よく言うでしょ、人の物は取っちゃいけません!って。」


クビを傾げ悲しそうな表情を作って、彼は諭すように言う。


「酷い!あんなに優しい言葉をかけて下さったのに!騙したのね!」


「君以上に素敵な女性はいないって!可愛いって褒めてくれて嬉しかったのに!」


彼女たちは顔を赤く染めて猛抗議した。彼はひょいっと首をすくめ、悪びれない。


『最低!』


女の子達が泣きながら去っていった。


………沈黙が辺りを包む。去っていく女の子達を見送り、笑顔で彼はこちらに顔を向けた。


「君、見ない顔だね。盗み聞きなんて悪い子だな。」


「申し訳ありません。重要な話をしていると悟った時点で、立ち去るのが礼儀ですわよね。言い訳になりますが、ついタイミングを逃してしまって。」


彼はキョトンとした。


「今の見ていたよね?」


「はい、申し訳ありません。」


「それは良いんだけど、なんとも思わないの?」


確かに今の場面だけ見れば、彼は二股をかけた最低男に見える。しかし今の私には情報が足りない。


「貴方様はご学友に優しい人なのだと思いました。」


私の様なイレギュラーがいるのだから、彼の幼少期も原作と同じとは限らない。もしかしたら母親は改心していて、彼もただ、優しい態度で誤解されやすい人なのかもしれないじゃないか。


「彼女達は貴方に優しい言葉を掛けられたと仰っていました。人に優しく出来る人が、悪い人な訳ありません。」


優しい言葉をかけると言う事は、人を褒めるという事は、その人の良いところを見つけるという事だ。適当に言って響く訳がない。


「本気で言ってるの?」


「はい。その優しい心によって誤解を生んでしまう事があるのかも知れませんが、私は貴方を尊敬しております。」


「変な奴…。」


彼は罰が悪そうな顔をした後、去って行った。


原作のリリアは彼の女癖の悪さを見て、出会い頭にビンタを入れ、私が貴方を正してみせる!と宣言していた。


でも私はヒロインの様になれないし、なりなくもない。


「そろそろ、リーゼが戻る頃かな。」


何はともあれ、リーゼと約束したティータイムが楽しみだ。


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