転生したので、今度こそはイケメンハイスペ男子と結婚します【※注意※胸糞現代「非」転生小説です】
読む前に、下記ご注意ください。
・このお話は、転生モノではありません
・現代モノ、胸糞モノです。
・生真面目な子育て中のお父様・お母様、ならびに精神的に疲れ気味の方にはおすすめしません
※当然のことながら、死んだからといって転生できる可能性は低いです※
以上、ご確認の上、だいじょうぶだよという方はどうぞ。
息が、苦しくて。
も、目の前は真っ暗になりそう。
体中が痛い。
痛い。
痛い、痛い痛い痛いし、苦しい。
あぁ、もう、嫌。
なんで、わたしがこんなめにあわなくちゃいけないわけ?
「だれか、助けて……」
きれぎれに助けを求める。
その言葉は、ちゃんと言葉になっていたのだろうか。
確かめるすべもないまま、わたしは痛みに耐え、必死で呼吸を繰り返す。
あぁ、もうだめ。
わたし、このまま死んじゃうの?
あぁ。
あぁ……。
目を閉じる。
体、めっちゃ痛い。
お医者様がなんか叫んでるけど、あれしろこれしろって、無理だよ。
こっちは体が痛くて、辛すぎだっつーの。
怒鳴らないでよ。
なんで、わたしが怒鳴られなくちゃいけないの?
わたし、このまま死んじゃうんだ……。
まだまだ若いのに。
かわいそうすぎる。
ぁあ、でも。
思えば、いいことなんてほとんどない人生だった。
がんばって、生きてきたのに、な。
そもそも、親が悪かったんだよね。
父親も母親も色黒で、デブでさ。
遺伝で私も、肌が黒くて。
母親の油ぎった高カロリー料理ばっか食べさせられていたから、子どもの頃はデブだった。
それも、並大抵のデブじゃない。
他の子の二倍レベルのデブ。
小学生の時は、そのせいで地獄だったぁ。
小学生用の椅子が、わたしには小さいサイズだったのに、小学生のころってやたら詰めて座らされる。
運動会だの学芸会だの芸術鑑賞だの。
そのたびに隣の男子に「お前のせいで席が狭い」ってののしられてさ。
女子も「やめなよー」って言いつつ、本気でうんざりしていた。
そりゃ、隣の子にしてみたら迷惑かもだけどさ。
わたしは、わたしなりに傷つくじゃん、そんなの。
そんなだから、他の女の子なら無条件でもらえる「かわいい」って褒め言葉も、子どもの頃からわたしには無縁だった。
自分で自分の子どものころの写真見ても、ないわーて感じだから仕方ないけどさ。
わたしが卑屈に、自尊心なく育つのって、もう当然ってかんじだよね。
女子カースト最底辺な自分に嫌気がさして、変わる努力を始めたのが中学生の時。
母親の料理を断って、ヘルシーな食事に変えて、ダイエット。
「ごはんを残すなんて、もったいない!」って母親は憤っていたけど、あのブタ母の食事たいらげてたら、私の人生が終了しちゃうっての。
ほんとクソだったわ、あいつ。
ま、キレて暴れた後は、大人しくなったけど。
そういや、しばらく会ってないな。
まだ生きてるのかな。
どうでもいいけど。
っていうか、あぁあああああ。
あああああああああああああああああああああ、痛い、痛い。
これって、走馬燈?
過去のことばっか頭をよぎるんだけど。
痛い、のも、走馬燈の間はちょっとマシ。
死ぬのってめっちゃ痛そうだから、緩和のためにコレ見てるのかな。
えっと。なんだこの黒ブタ。
あ、毒母か。
素で思い出せなかったわ。
そうそう。
毒親を退治して、底辺を抜け出すために、わたしは超がんばったんだよね。
美白も命かけてたし、ダイエットも成功して、メイクや着こなしを覚えて、そこそこ見られる女子になった高校時代。
いい男を見つけたらガンガンせめて、体でおとすを繰り返した大学時代。
めっちゃがんばって生きてきたよな。
でも、誰の本命にもなれなくて。
女の幸せは、いい男をつかまえて結婚すること。
だから勉強は二の次にしていた。
いい会社には就職できなさそうだったから、派遣の仕事で大手の企業に潜入。
そこでもいい男を探して、寝て、付き合って。
女性社員にバカにされても、そんなの無視。
だって、一流企業のイケメンと結婚したら、そんなの陰口ただのひがみでしょって言えるはず、だった。
でも、やっぱり誰もわたしとは結婚してくれなくて。
27歳のとき、せめて20代を売りにできるうちにってお見合いパーティや結婚相談所に登録したりしてがんばって。
そこでもいい男に会えないまま、2年。
30歳を目前にして、焦りに焦ってつかんだ男は、ブサイクで三流大学卒の年収もやっすい男。
しかも10歳も年上で、貧乏くさくてチビの、思い描いた結婚相手とはかけはなれた男だった。
おかげで、友達にも笑われてさ。
「あんなに体はって、大学生の頃からがんばってたのにねー」だってさ。
そうやって笑っている友達は、ちゃっかりそれなりの男と結婚してるんだもんな。
わたしの何が悪かったんだっての。
めいっぱい努力したじゃないか。
がんばっていたじゃないか。
なのに、なんで。わたしだけ。
やっぱもって生まれたスペックが低いせい?
あの親のせい?
低スペ旦那のせいで、今の生活もサイテー。
旦那は不細工だし、お金もないし、節約節約って日々そればっかり。
旅行もいけないし、ゴージャスなお食事にもいけない。
美容院は1年に1回だし、ネイルやエステなんて考えもできない。
つまんない、つまんない!
生きる楽しみなんてない。
そんな人生だ。
……あれ。
私、これ、死んでもいいんじゃない?
こんな苦しい想いをして、我慢して。
でも、きっと未来もずっとこのままなんでしょ?
ううん、歳をとったら肌とかもしわしわになって、白髪とか生えて。
すれちがってぶつかった男の子に「ちっ、ばばぁ、とろとろ歩いてんじゃねーよ」とか言われるんだ。
ぞっとする。
今より、未来は悪くなるってこと?
だったらさぁ。
生きてる価値、なくない?
今でさえ、うんざりなのに。
……いらない、こんな人生。
もううんざりだ。
死んで、生まれ変わりたい。
生まれ変わるんだ。
生まれ変わったら、きっと。
今度こそわたしは、かわいい女の子になる。
子どもの頃から日焼けとか気を付けて、栄養バランスを考えた食事をしてさ。
バレエとか習うのもいいな。
姿勢が綺麗になるし、小さいころからやっている子ってスタイル日本人ばなれしていいし。
もしかしたら、アイドルとかモデルとかにだってなれるかも。
小さいころから努力していれば、きっとなれるんじゃないかな。
そんで、いい男と結婚するんだ。
ぜったいにだ。
人がうらやむような、かっこよくて、お金持ちで、わたしのことを大切に愛してくれる男と結婚する。
まるで、目の前に未来の私が見えるようだ。
まろやかな白い肌の華奢でかわいい女の子が、とびっきりのイケメンに愛をささやかれている姿が見える。
あれが、わたしの生まれ変わった姿なの……?
あぁ、だったら。
こんな命、もういらない!
痛む体に耐えながら、そう思う。
体に、力が湧いてくる。
……あぁ!
「おぎゃぁ」
真っ暗な視界のなか。
産声を、あげた。
あれから、5年がたった。
「前世」の教えにしたがって、赤ん坊だった「わたし」は、かわいい女の子に育った。
真っ黒な髪はサラサラだけど、いつも凝った髪形にセットしている。
「前世」の努力のたわもので、肌は真っ白ですべすべ。
みんなが、「わたし」をかわいいっていう。
それは「わたし」が子どもだからではない。
「わたし」が、かわいいからだ。
それは、「前世」のわたしが得られなかった賞賛。
ミサキちゃんママが、「わたし」の爪をみて、眉をひそめる。
「子どもにネイルって。ちょっと、やりすぎじゃない?」
「でも、子ども用ネイルだって売っているでしょう?いまどき、これくらい普通よ」
批難がましい視線も、「わたし」は知らんふり。
わかっているんだ、かわいい子って、他の女にいじわるされるものだよね。
ミサキちゃんママは、「わたし」が笑いかけると、慌てて愛想笑いをうかべた。
ほら。無垢な、かわいい子どもの笑顔には、逆らえないでしょう?
13歳になった。
中学生になった「わたし」は手足もすんなり伸び、少女のかわいらしさの中に、「女」の色が見え隠れするようになった。
ふくふくしかった頬から肉がおち、あごのラインがシャープになったからかもしれない。
もちろん、13歳の「わたし」もとびきりかわいい。
「前世」の教えに従って、夏のプールでも日焼け止めとライフガードを死守したおかげで、肌も白いままだ。
髪形は、黒髪ロング。
なんだかんだいって、これがいちばん男受けするんだから、と、「前世」が言うからだ。
実際、「わたし」は男の子にモテた。
当然というと、驕りすぎだろうか。
けれど「前世」は様々なリサーチをして、「わたし」を作り上げたのだ。
「わたし」が友達という名の悪魔のそそのかしのせいで、高カロリー低栄養なスナック菓子を食べたくなっても、毅然として止めてくれた。
テレビで見た女優に憧れてショートカットにしたくなったときも、男の子に受けが悪いからって止めてくれた。
バレエのお稽古をさぼりたくなったときも、きちんと行くようにと「前世」が言ってくれた。
だから「わたし」は、今日もとびきりかわいい。
16歳になった。
高校生。
勝負の時だ。
「前世」は「わたし」を有名なお嬢様学校に入学させようか、はたまた頭よくって将来有望な男子がいっぱいいる学校にいれようか迷っていた。
結局、お嬢様学校に通うには、うちにはお金がたりなかったから、公立の教育大学付属高校に入った。
けど、これがよかったんだろう。
中学生、高校生の時は、いい男を捕まえる最初のチャンスだ。
「前世」はここで出遅れたから、あんな男と結婚するはめになったのだ。
同じ轍は、踏まないは。
幸い「わたし」は、かわいく育っている。
制服も、よく似合う。
最近はじめたSNSでも、男の子からよく連絡がはいっている。
とはいえ、油断は大敵。
ついつい女磨きをさぼりたくなるけれど、我慢だ。
ネットサーフィンをしていて夜中まで起きているなんてのも、ありえない。
「前世」はいつだって「わたし」を見ているんだから、油断しても叱って、道を正すけど。
だいじょうぶ。
だいじょうぶだ。
「わたし」は「前世」とは、違う。
こんなに、かわいいんだもの。
ぜったいに、いい男と結婚できるだろう。
17歳になった。
「わたし」は、いま付き合っている「彼氏」に夢中だ。
当然だろう。
「彼氏」はとってもいい男なのだから。
身長は180cm以上あるし細マッチョだし、親は政治家だし、本人は有名国立大学の医学生だ。
顔も目元が涼しい美青年だ。
そんな男が、「わたし」に夢中なのだ。
そりゃ、うかれるよねー。
嬉しい。
嬉しい!
ああ、よかった。
このまま進めば。
「わたし」はいい男と結婚できる。
「前世」が果たせなかった幸せな結婚を。
「わたし」は、するのだ。
19歳になった。
「わたし」は、「彼氏」と同じ国立大学に合格した。
大学生活はいそがしく、また大学は実家からは遠かったので、「わたし」は「彼氏」と同棲したいと言った。
「前世」は、「わたし」のあさはかな考えに忠告した。
「結婚しなさい」と。
同棲では、だめなのだ。
そんな法的拘束力がない関係など、なんの意味もない。
幸い、「わたし」の相手はいい男なのだ。
さっさと結婚すればいいじゃないか。
「前世」の忠告を、「わたし」は受け入れるはずだった。
今までと、同じように。
これからも、ずっと。
だって、「前世」は「わたし」なのだから。
「わたし」が「わたし」のことを、転生して、よりよい人生を歩むための指標を、捨てるはずなどないのだ。
なのに。
「わたし」は、わたしを睨む。
このわたし、「前世」を。
まるで、他人のように。
「言う通りにしなさいって、なに?……お母さんって、いつもそうだよね。わたしの言うことなんて、ぜんぜん聞いていない。このほうがいいからそうしなさい、って。頭ごなしにいつも勝手に決めて、それに従うように矯正して」
「強制、だなんて。そんなこと、してないわ」
だって、あなたは「わたし」。
失敗だった「前世」のやりなおし。
転生したわたしの今の姿。
それが、あなたなんだよ。
まるで一度死んだかのような激痛と苦しみの後、あなたの産声を聞いた瞬間、わたしは悟ったの。
あぁ、これは「わたし」だ。
わたしは生まれ変わったんだ。
転生したんだって。
「前世」であるわたしの記憶があるから。
今度は絶対に、失敗なんて、しない。
ぜったいのぜったいに、いい男と結婚してみせるって。
強制?
そんなの、してないよ。
そりゃ、勉強をさぼれば怒ったわ。
おしゃれも怠れば、怒ったわよ。
でも、そんなのあたりまえでしょ?
成功するためには、努力が必要で。
努力しなければ、転生したって成功はできない。
そして、わたしは成功したいんだから。
「わたし」が努力するのは、当然のことだ。
なのに、なぜか「わたし」はわたしの言葉をきくたび、苛立ちをつのらせる。
「お母さん!わたしは、わたしなの。お母さんじゃない!」
「なにを当たり前のことを言ってるの?」
「わたし」の怒りがわからない。
「わたし」は、私だ。
「わたし」のお母さんなんて、かりそめのすがただ。
こんなデブデブ太った色黒の醜い身体なんて、わたしの「本物」の体じゃない。
わたしは、「わたし」だ。
わたしなのに、わたしに逆らうなんて、許せない。
「わたし」は、わたしに吐き捨てるようにいう。
「お母さん、おかしいよ。もういい。パパの了承は得ているから、わたしは出ていく。こんな家、もう嫌だよ。お母さんがいるから、嫌なんだよ」
「なに、馬鹿なことを言っているの!」
だいたい、わたしは「わたし」の結婚は応援しているのだ。
家を出たって、べつに構わない。
あぁ、だけど。
「わたし」が家を出たら。
わたしの肉体と、わたしが別々にすごすことになる。
ようやく手に入れた理想の結婚相手とも、べつべつに暮らすことになる。
そんなの、ダメに決まってる。
わたしは、いまにも家をでそうになる「わたし」の腕をつかんだ。
「もう、しょうがないわね。だったら、わたしも一緒に家をでるわ」
「は?なに、いってるの?わけわかんない!お母さんと一緒にって、ありえないでしょ?」
「ふふふ、ばかね。わかっているのよ?」
「わかってない!キモい!いくら親だからって、限界だよ!……もういや!パパがママには優しくしてあげてっていうから、ずっと我慢してきたけど。もう、もう、ほんとうにイヤ!あんたなんて、もう二度と顔も見たくない!」
「わたし」が叫ぶ。
高い金切声。
苛立った表情。目には涙。
悲痛な悲鳴。
「そんなふうに騒いじゃだめ。周囲の人にヘンに思われるでしょ。せっかくいい人を捕まえたのに、興信所に調べられて悪評があるなんて書かれたら、結婚話がダメになるかもしれないのよ。さ、静かにして」
「だからまだ結婚なんてしないって言ってるでしょ?本当に、ぜんぜん話を聞いてないよね。バイバイ、お母さん。最後だから、言うけど。今まで育ててくれて、ありがとう。でも、もう二度と関わりたくない」
「わたしが『わたし』といっしょにいないなんてダメに決まっているでしょ」
あぁ、なんで言うこと聞かないの。
あなたは、「わたし」。
だから「わたし」の言うことを聞くべきなの。
聞かなくちゃいけないの。
そして、わたしたちは一緒にいないとだめなの。
だって、「わたし」はわたし。なんだから。
出て行こうとする「わたし」の腕をつかむ。
「わたし」が、わたしを振りはらおうとする。
「離してっ」
「行かせないわ、だってわたしはわたしなんだから」
「こわい!もう嫌!」
「わたし」はわたしを突き飛ばす。
勢いよく突き飛ばされたせいか、わたしはふらりとよろけた。
そして重い身体が重力に従って、床に倒れ……。
「お母さん……、お母さん!やだ、うそ、目を開けて……」
目の前が、暗くなる。
「わたし」の声が聞こえる。
体は、あんまり痛くない。
走馬燈も、見えない。
頭は、ちょっとだけ痛い。
「救急車を……呼ばなくちゃ」
「そ、そうだよね!いま、いま呼ぶ!呼ぶから……!お母さん、やだ、死なないで!」
死?
わたし、また死ぬの……?
そこまで、ひどい状況ではないと思うのだけど。
あぁ、でも。
死ぬなら。
「次は、もっとかわいい女の子にうまれかわれるかしら」