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獣の狩人  作者: 朝陽乃柚子
居場所
7/32

第6話

 「フラン、氷を出したい場所に意識を集中させて。それから本で覚えたように、構造を内側から順番に作っていくの。」


 フランは本で学んだ氷の構成を元に、実技訓練に入っていた。


 イズミの部屋の中央に、ほんのわずかだが青い霧が生まれる。


 「オーケー、その調子、焦らずゆっくりね。」


 霧は少しづつ濃くなり、霧の中の何かは部屋の光を反射しはじめる。と同時に、霧は消え、真下に数滴の水がこぼれ落ちた。


 「惜しいねぇ。でもフラン流石だわ。1発目ですでに水を作ることはできてる。あとは凍らせるだけだよ。先の話になるけど、慣れて来たら最初から氷を作れるようになるからねぇ」


 

 「「でも不思議なのは、マックスをどうやってフランは作ったんだろう。両親が補助して作ったのは間違いないけど。もしかしたらこの子は理論派よりも感覚派なんだろうねぇ。コツを掴めば、それこそ爆発的な勢いで成長するのは間違いない」」


 

 イズミはそう分析し、フランの育成計画を練っていく。


 

 「フラン、あと一時間それやったら20分休憩ね。その後は別の訓練やるからさぁ。あたしみんなに用事あるから、ちゃんとサボらないで訓練しててよ?」


 フランは汗をかきながら満足そうに頷いた。それを見て部屋を出た後、猛ダッシュで様々な機械が置かれた部屋へ向かい、パソコンのマイクに向かって叫ぶ。


 「フラン以外の団員はドーム中央に集合してくださいにゃん♪お願いねぇ」


 ドーム全体にイズミの声が響き渡る。そしてイズミが部屋を出て二秒もせず中央に着いた時には、三人共揃っていた。ヨルだけはなぜか体全体が動物臭かった。


 

 「イズミちゃんあれはないわ......。心拍停止しそうだ!?」


 そう言いかけたヨルに超速の回し蹴りを食らわせ、ヨルはドーム端まで吹っ飛んでいった。スッキリしたのは良いが、スカートだったために神聖な部分を拝まれてないかどうか気になったが、その時は追加で制裁すればいいと考え、イズミは気分上々だった。




 「あの子半端ないよ!!構成しだしてたったの十分で水を作ったんだよ!普通は一週間以上かかるくらいザラなのに。フランは才能の塊だよ!!」


 「落ち着け。最初から分かってただろ。問題は精神的にタフになれるかだ。言葉で言うだけなのと実際やるのは全く別次元の話だ」


 サンは冷静にイズミを諭す。


 「あっ、そういえば、フランくんの給料はどれくらいにする?」


 イズミが興味津々でサンに尋ねる。


 「そうだな。おいヨル、お前先月はいくらだった?」


 体中の土埃を払いながら、ヨルは答えた。


 「確か先月はちょうど40万ケルトだったはず」


 「ヨルでそんだけ大盤振る舞いしてるんだから、フランの来月分は5万ケルトでいいな」


 「なんで僕基準なんだよ。て言うか大盤振る舞いって何さ......。僕ちゃんと働いてるし......」


 「おいイズミ、給料をそのままフランに渡すな。全額貯金させろ。あの年で大金持ったら金銭感覚バカになるだろ。」


 イズミは私が当然フランの姉だというかのような態度で振舞う。


 「うん、分かったよぉ。でも団長、随分フランに優しいんだね。珍しい」


 「あいつには将来馬車馬のように働いてもらう予定だ。これくらいはしてやるべきだろ。後、教材諸々今度街に出て買ってやれ。これも投資だ」


 

 幻の楽園の団員にとってフランは良くいえば弟、子供のように可愛がられ、悪くいえばヨルほどではないが可愛いおもちゃという認識だった。








 アップサイド区にある雑居ビルの裏。そこに3人の男がいた。  


 「結構1回で稼げたな。普段の3回分くらいか?」


 「そうだな六十万ケルトあればしばらくは襲わなくても食えるぞ。なあハンズ」


 一人の男が札束を数えながら話を振る。


 「おい、久しぶりの収穫でかえって腰が抜けちまったか?おい、ハン......」


 ハンズと呼ばれた男はすでに首を飛ばされ、切断面から噴水のように血を吹き出していた。


 「なっ!?」


  「そのおかねは〜〜こくみんの〜〜おかねだぞ??きっちりと返却していただくぜ!」


 その瞬間ロンは強烈な寒気を感じ、渾身の力で地面を蹴り後方へ回避する。先ほどまでい所にはりんごくらいの大きさのクレーターができていた。

 

 そこに空から2人の男女が降ってきた。胸元にはバッジが光っている。


 「クラスター!?ロン、何も言わずに従え。戦うな。逃げろ」


 「おう......」


 その2人を見ながら、男は大きく伸びをし、モミジは手くしで髪をといていた。


 「ヘクトさん、どうします......?」


 「好きな方を選びな。俺はどっちでもいいぜ。」


 「じゃあ金髪の方を......」


 「じゃあ俺はスキンヘッドね。目標4秒な。はいスタート!」


 

 


 「戦うなとは言ったが、隙を作らねぇと、逃げるどころじゃねえ」


 スキンヘッドの男は右手にナイフを構え、ヘクト目掛けて乱暴に振るう。だがヘクトはそのナイフを躊躇なく左手で掴む。


 ヘクトにとってそのナイフを避けることは容易かったが、2週間連続勤務の体は休息を欲していた。よって術によって保護した左手でナイフを握り抑え込むという、ひどくヘクトにとってど素人のような不恰好なスタイルの戦いとなった。


 「へ?......」


 男の間抜けな声を吐き出す間にもヘクトの動きは止まらない。左手でナイフを掴んだまま、ヘクトの霧に覆われた右手がスキンヘッドの男を殴りつけ、その拳が頰にクリーンヒットした。


 その瞬間、首が捻じ切れ無理やり胴体から無理やり切断される。そしてその頭がコマのように高速回転しながら飛んでいき、雑居ビルの壁にめり込んだ。




 モミジはヘクト同様2週間連続の勤務で疲れていた。よってヘクトが設定した四秒と言う時間すら倦怠感を覚える。よって速攻で終わらせようと結論を出す。


 金髪の男は、そこら辺にいるチンピラに毛の生えた程度の実力しかない。よって、相手が女だと途端に考えが甘くなる。


 「こいつに殺される??そんなことあってたまるか。こいつで一発だぜ」


 いざという時は自分だけ逃げるために用意していた拳銃を取り出し女を撃った。その瞬間。


 赤色の霧に包まれたモミジが両手で四角形の形を作る。


 コンマ一秒の後金髪の男を中心に透明な壁が作られる。発射された弾丸が透明な壁にめり込む。その瞬間モミジの手がほんの少し震えた。

 

 モミジは少しずつ四角形の大きさを縮めていく。


 「あがっ!!....」


 金髪の男が見えないプレス機で圧縮されるように空間が狭まっていき、少しづつ金髪の男の体が壊れていく。男が断末魔をあげるが、プレスは続く。そしてできたのは、正方形の形をした、かつて人であった何かであった。


 「俺は快楽殺人者とは違うが、それでも歯ごたえがなさ過ぎる。ただおめぇは楽しんでるように見えたが......」


 「効率よく狩っただけのことです」


 「そうか......。だがいい加減大物を狩らないと、給料減っちまうぜ」


 「そうですね......。一度私の方で当たってみます。空振りになるかもしれませんが」


 そうして2人は別れ、2週間振りの休暇を取りにゆっくりと家路へ向かう。









 「おぉー、ちゃんとできてるねぇ!」


 報告を終え一時間程たち、そろそろフランを休憩させる頃だと思い自室へ戻っイズミを迎えたもの、期待通りの光景だった。部屋の天井付近に青い霧に包まれた豆粒くらいの氷ができていた。


 「この氷、何分くらい維持できてる?」


 その問いにフランは左手でピースを作る。


 「2分??ほんとフランは優秀だねぇ。じゃあ術解いていいよ、お疲れ様」


 そうイズミがフランを労い、それと同時に氷が綺麗な結晶となって砕け散った。


 「フラン結構汗かいてるねぇ。1回拭いてあげるから、こっち来て」


  イズミがベッドの左側に座り、右側にフランを座らせる。そして瞬時に術を作ったタオルでフランの汗を拭き始める。


 「フラン、ご家族のこと、何て言ったらいいか。あたしたちだってこんな仕事してるけど家族がいて、今みたいに仲間もいるからそういう感情もあるんだよ?あっシャツ脱がなくていいから、持ったままバンザイしてね」


 そう語りかけられ、背中をを拭かれながらフランは淡々と聞いている。


 「でも今はあたし達がいるからねぇ。まだ出会ったばかりで信頼できないだろうけど、一緒に頑張ろ?ご家族だってまだ生きてて助けられるかもしれないから、絶対に諦めちゃダメ。強くなって、家族のみんなを助けるんだよ」


 イズミはフランを励ます。フランはイズミの言葉を胸に、幼心には重過ぎるであろう覚悟を決める。体を拭き終わった後、二人はとりとめもない話をして休憩時間を過ごした。


 「じゃあフラン、もう少し頑張ろ。今度は体力測定だよ。終わったらまた体拭いてあげるから」


 そう言って二人はドームの端へ移動する。そこには白線が引かれていた。


「戦いは身体能力がなってないとどうにもならない。だからこれからフランの肉体的な部分を調べさせてね。やったことあるかな?100メートル走。術の訓練で多少疲れてるだろうけど、今頑張れる全力で走ってねぇ。準備はいい?」


 フランは白線の前に立ち、準備をする。


 「じゃあいくよ?よーい、スタート!!」


 その合図と共にフランが走り出す。ゴール側の白線にはすでにイズミが待っていた。足がちぎれそうなくらいの気持ちで走り、白線を超える。


 「14秒2かぁ。疲れてるにしてはまずまずだね」


 そう言うとフランの頭を優しく撫でた。


 「ただまずまずとは言っても、一切何もしていない状態でのタイムだからね。術者達はバケモノ揃いだから、今のままじゃダメ。じゃあ試しにあたしが走ってみるよ。ユーーズハ、手伝って!!」


 そう言って2秒もせずにユズハが二人の前に降りてきた。


 「よおーフランくん、頑張ってるかな?」


 イズミの問いかけにフランは笑って頷いた。その笑みは今までよりも少し眩しかった。


 「ユズハ、今から100やるから合図お願い。フランくんにはもっともっと上を目指してもらわないとねぇ」


 「条件はどうするの?」


 「使うエネルギーはアテンのみ、他は使わないよぉ。それじゃあフランはゴールで待ってて、はいストップウォッチ」


 フランはストップウォッチをもらい大急ぎでゴールへ向かう。


 「オッケー、それじゃあ早速行くよ。よーい、スタート!」


 その瞬間爆発的な速度でイズミは走り出した。あまりの早さにフランは一瞬心の時間が止まったが、ギリギリで立ち直りイズミが白線を丁度越えたところでボタンを押す。風が通った気がした。


 ストップウォッチを見てフランが口を思わず開ける。


 「どれどれ、見せて?お!?結構いいじゃん。フラン、あたしはただの女の子じゃないんだよぉ。見直した?」


 ストップウォッチには、6秒4と表示されていた。


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