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獣の狩人  作者: 朝陽乃柚子
居場所
26/32

第24話

 フランはサンから10歩ほどの間合いで対峙していた。そこから一気に間合いを詰め、パンチを繰り出す。それをサンは簡単にかわすが、フランは次々と殴打を重ねていく。


 「動きは悪くない。訓練の成果か」


 サンもフランに蹴りを食らわせ、フランがそれを間一髪で避ける。そしてフランがまた攻撃に移る。試合はスポーツのラリーのような様相となっていた。


 しばらくその様子が続いた後、フランは距離を取った。そして無数の氷の槍を構成し、サンへ投擲した。


 「数は、10、20......40か。並みの術者ならこれだけで仕留めれるだろう」


 フランの槍がサンから十メートルくらいのところまで近づいた時、突如として高温の熱にさらされたかのように全て溶け水たまりを作った。



 「まだ簡単な術に対しての対処はできていない。ここからが課題......!?」


 フランが氷の槍を溶けることが予想できていたのかはわからない。ただ、それがサンに届かないことは直感で感じていたのだろう。投擲した地点でオーラを全て隠し、すぐサンの背中へ移動し、上段蹴りを放っていた。


 サンはフランの蹴りを両手でガードし、数メートル下がる。


 「少しは考えたな。」


 サンに与えられたダメージはゼロだったが、それでも自分に触れられたことを賞賛した。だが次の瞬間、サンはこの試合で初めて心から驚くことになる。


「さて、次はどうくるか、再び接近戦!?」


フランとは真逆の方向、それもマイケルの側から氷の槍が発生し、サンを襲った。驚いたため少し反応が遅れたが、サンは問題なく回避した。


 「「どういうことだ?なぜマイケルの側から槍が?もちろん卓越した術者なら可能だろうが、フランはまだ空間認識能力はまだ弱いはず」」


 サンは初めてゆっくりと回転していた思考のペースを速めた。そしてたどり着いた結論を、自分自身で否定したくなった。


 「「マイケル自身が氷の槍を構成したのかもしれん。どうやらこいつは2頭を操縦し活用することから1段階引き上げ、各自自由に動けるよう戦闘中でも”意思”を与えた。それだけならまだわかる。だが重要なのは、”構成された生物が何かを構成する”ことが可能なのか。以前も探知能力者しかり、俺の知らないことはあった。そして今回もこの場合に当てはまる可能性は高い。もしそうだとしたらこの能力はかなり厄介だな」」


 サンはそれを確かめるため、行動に出た。フランの動体視力では対処できない速さでマックスへと近づき砲撃を放つ。


 「ウォン!!」


 それを見たサンは確信した。サンが砲撃を打った瞬間、いや、砲撃を放つ予備動作の段階でマックスが吠え、氷の壁が出現した。 砲撃は氷の壁に当たって砕け散りマックスには届かない。


 「「俺のここ数年の中で1番の驚きだ。こんな芸当ができるとは。俺も似たようなことはできるが、こいつのこの術は敵対した場合の危険度が違いすぎる。いくら天才的な治療師の息子とはいえ、これほどのことがなぜできる?考えられるとすれば、前から練習していたとしか......しかしいつからだ?両親から戦闘の訓練を受けていなかったことからすると、ここへ入ってからになるな。まだ一週間程度だったはず。その短期間で......普通なら絶対に不可能だが、現に今それができている。これだけはなぜか分からん......」」


 試合の流れが傾いてきてきた。防戦一方だったフラン達が2体で連携を取りとてつもない数の氷の槍でサンを攻撃し始めた。それもただ闇雲に槍を放つのではなく、フランと2頭のうち誰かが槍を放った後、それを避けた際にできるわずかなサンの隙を確実に次の槍で潰していく。側から見ているとサンが一瞬の間に形勢を逆転され追い詰められているように見えた。



 「ねぇあれ......どういうこと?」


 「俺が聞きてえよ」


 イズミとサルガルドが狐につままれた顔をしていた。


 「ねえヨル、この状況は団長がフランくんに押されてると捉えていいの?」


 「さすがにそれはないと思うよ。戦ってきた年月と敵の強さが違う。ただ、フランくんが団長の思った以上に能力を使いこなしてるってことじゃないかな。現に僕はフランくんがやっている能力の使い方がまだできてない」



 フランに対して団長も、数百の氷の槍を受け流し、目前まで迫ると手刀で潰し無効化するなど人外の動きを見せていた。


 「「俺が作った隙を確実に狙ってきている。だがさっき俺が教えてことを覚えていないようだな。こっちはまだ余裕があることをフランは気づいていない。この隙も俺が作ったもの。本当の心理戦になった時の対応力はまだ発展途上。だが単純な攻撃力では将来全ての術者の中でも最上位に来れるかもしれんな。いや、己の鍛錬を怠らない限りは必ず登ってくる」


 サンはそろそろ決着をつけようかと考え始めた。あまり自信をつけられても困る。こいつにはこんなところで止まって欲しくない。限りなく高い山でも、こいつならどんなに時間がかかってもきっと登り切る。その思いを胸に秘めサンはフランへ初めて術を見せる。


 「気まぐれな太陽パッシング・オブ・サン


 唱えた瞬間サンの周りにオレンジ色の霧が取り囲み、周囲へと爆発した。その瞬間数百あった氷の槍が一瞬にして蒸発する。そしてフランとマックス、マイケルへ熱波が襲いかかる。温度は一気に400度にも達した。


 フラン達は各自氷の小さなドームを体の周りに作り身を守った。しかし気づいた時にはドームを貫きフランの首にサンの手刀が触れていた。


 「ここまで」


 サンがフランの首から手刀を放つ。するとすぐにフランは地面へとへたり込んだ。他のメンバーも慌てて2人の元へ駆け寄る。ユズハはタオルと簡単な救急箱も一緒に持ってきていた。


 「あの......団長、これは?」


 ヨルが恐る恐る尋ねた。


 「どこからどう見ても訓練だと思うが、そうは見えなかったか?」


 「殺し合いに見えなくもなかったような気がしますが、団長が言うなら訓練で間違いないです!!」


 そう答えたヨルにはもはや見向きもせず、サンはフランに手を差し出した。フランは手を掴み立ち上がった。


 サンは先ほどの戦闘で気をつけなければならなかったところ、良かったところを理論立てて説明していき、最後にこう締めくくった。


 「他にも色々言いたいことはある。あるが、お前自身の能力だけであそこまでやってのけた。本当はもう少しいい点をつけてやりたいが、お前はこんなところで止まってもらっては困る。点数は二十点といったところか」


 フランは黙ってうなづいた。だが唇を噛み、瞳は潤んでいた。


 「おいおい坊主、団長相手にこんだけやってまだ満足できねえのか?」


 「違うよねぇ。フランは負けず嫌いなんだよねぇ」


 「イズミよくフランくんのことわかってるわね。どこかのヨルとは大違いね」


 「人のこと思い切り名指しで言わないでくれるかな......」


 穏やかな雰囲気だった。まるで家族のような光景だとユズハは思った。でも私たちは人を殺めた血によって繋がっている。そんな私たちに神様が優しく見守ってくれるとは思えない。だからこそ自分で守ろう、この居場所を。時には仲間の力を借りて。


 「団長、これからどうするの?そのアスカって人の気持ちが決まるまで」


 ユズハがサンに尋ねた。


 「期限までにできる依頼はやっていく。フランにももちろん参加してもらう」


 「うん」


 「リストがあるから、その中で短時間でできそうなものを自分で選べ」


 「僕だけ?」


 フランが僕一人だけで任務をするの?と言う意味でサンに聞いた。


 「さすがにそれは酷だろう。誰かをつける。おい、フランと一緒に働きたい奴はいるか?」


 「はい!」「私以外いないよねぇ」「坊主、俺と組まねえか?」「フランくん、僕でよければ...... 」


 「フラン、大人気だな」

 

 滅多なことでは動じないサンもこの時ばかりはげんなりしていた。ただ、フランが誰を指名するのかは少し興味があった。


 「サルガルド」


 フランが声小さく言った。


 「よおし坊主!分かってるじゃねえか!」


 「振られた......」「そんなぁ。絶対あたしだと思ったのにぃ」「女子二人ならともかく、サルガルドにも負けるとは......」


 「お前ら、随分楽しそうだな......」


 その様子をサンは見て、諦めを通り越してこれは組織の運営には好都合なことだと強引に認識を変えた。



 

申し訳ありません!私生活での事情により、投稿が遅れます。九月二日〜四日を目指しております。本当にごめんなさい!

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