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獣の狩人  作者: 朝陽乃柚子
居場所
13/32

第11話

 たまり場でフランとマックスが活躍したその翌日、休日をとってフラン、ヨル、イズミ、ユズハ一行は、首都のウエスト区にあるウエスト商店街に来ていた。ここにはありとあらゆる物が集まるごった煮のような場所だ。一つ目の目的地は”ウエストテンミリオン書店”だ。置いてある本の数が1000万本というのが売り込みだが、本当にその数があるのかは誰も知らない。


 「フラン、どんな本が欲しいの?」


 ユズハがフランに尋ねる。その答えの代わりに、フランは自分が欲しい本の棚までみんなを連れていく。そしてフランが止まったところの棚には”生物学”という札が貼られていた。



 「フラン、どれにするのぉ?」


 「こんなにたくさんある中から探すの?」


 ユズハが少し面倒そうに話す。


 「待ちたまえ諸君、そんなケチくさいこと言ってなイテっ!?」


 ユズハがヨルの頭にチョップを叩き込んだ。


 「いいからさっさと言って。」


 「はい。もう面倒だから棚ごと全部買っちゃえばいいんだよ。団長から許可はもらってるし、カードも使っていいってさ。」


 「ほんとに!?団長太っ腹だなぁ」


 ユズハが半分呆れたような様子で言ったが、実はは自分もそういうことをしてみたいという思いは隠し通した。


 ヨルは近くにいた20代後半とヨルレーダーで判断された女性店員に話しかける。


 「すみません、この棚ごと全部本欲しいんですけど」


 「............はい?」


 「ですから、この棚ごと...... 」


 ヨルが同じ説明を繰り返すが、女性は馬鹿にされていると思い、相手にするのをやめようとした。


 「じゃあ支払いはこれでお願いします。」


 そう言ってヨルがカードを出す。


 「これはシリウスカード!?かしこまりましたお客様、この棚の本全部ですね?」


 「あの、棚ごとは無理ですか?これだけの本の数ですし。」


 「お客様、恐れ入りますが、棚は商品ではございませんし、これをお売りしてしまうと私たちの商品を置く場所がなくなってしまいますので...... 」


 「確かにそうですね。じゃあ本だけで大丈夫です。」


 「はい、本日はお買い上げありがとうございます!!」


 女性店員は先ほどとは打って変わって軍人のようなキビキビとした動きでヨル達に礼を言った。


 「配達はどちらに配送すればよろしいでしょうか?」


 「あっそれは僕がまた今度トラックで取りに伺うので、取っておいていただけますか?」


 「はい、承知致しました!!」


 もはやそこに店員の姿はなかった。



 


 次にフラン一行が向かったのは”ブラックアンドブラック電機”だった。この店は先ほどの本屋の電気屋にしたような所で、洗濯機から、ハンダ小手、マザーボードまで機械なら何でも売っている。


 この中で最初に向かったのは、ケータイコーナーだった。


 ガラスケース越しに百台はあろうかというケータイがずらっと並んでいた。


 「フランくん、どれがいいの?」


 ユズハが興味津々でフランが選んでいる様子を見つめていた。


 そして5分ほど経った頃、フランが1台のケータイを指差した。


 「おぉーなるほど、スノーピー柄か、フランにぴったりだよぉ。」


 そういうと財布係のヨルが店員を呼び出し、ケータイを買う旨を伝えた。


 「あ、済みません、本体だけいただけますか?」


 「本体だけでよろしいのですね、かしこまりました。」


 フランが不思議そうな顔をしているのを見たユズハが補足をする。


 「大丈夫、うち独自のネットワーク網に接続すれば、ネットも電話もできるから。一般のにしちゃうとお金もかかるし盗聴され放題だからさ」


 そういうとフランはなるほど!と感心していた。



 

 次に一行が向かったのはタブレット売り場。こちらにもずらりとタブレットが並んでいる。先ほどと同じようにユズハがフランに尋ねると、フランは一つのタブレットを指差した。そのタブレットの横に書いてある性能表にはこう書かれていた。


 ムーンディスク社製タブレット ジュピター V6


 CPU フリーズドラゴン 16コア 6GHz


 GPU HPSA 64 コア


 RAM 64GB

 

 ROM 2TB


 ディスプレイ 16インチ 解像度 6K



 「フランくん、これにするの......?12万ケルトするんだけど......」


 「うん」


 「いやうんじゃなくて!!」


 ユズハが思わずフランに思いとどまるよう説得する。


 「大丈夫。経費は団長持ちだから。」


 「甘やかすなって言ってたのは団長なのにねぇ...... 」


 イズミも苦笑いをしている。


 「フラン、買ってあげるから、バリバリ働いてね」


 「うん」


 屈託のない笑顔の中にとりあえずはいと言っておけばいいという魂胆が見え見えなのを見て、フランもまだ子供だなと改めてヨルは感じた。


 タブレットを購入した一行は、商店街の屋台で昼食を買い、近くのウエストドーム4つ分くらいの大きさがあるブルーリバー公園で休憩を取っていた。フランはフランクフルト、他の三人はフライドポテトを食べていた。一見すると本当の家族のようにも見える。


 早々とフランクフルトを食べたフランがおしぼりで手をふき、タブレットのジュピターを楽しそうに操作していた。

ただ16インチの超大型タブレットなので、抱えるようにして持っているのを見ると他の3人はヒヤヒヤした。


 「フラン、何をしてるの?」


 ユズハが尋ねると、フランは画面を見せた。そこには、ジュピター内に内臓されているシューティングゲームの画面が表示されていた。だがすぐに飽きると、フランはポチポチと画面を操作し、ユズハに手渡した。


 「ネットワーク設定の画面だね。ちょっと待って、ドームの回線と接続するから。」


 そう言ってユズハはハーブを奏でるように滑らかな動きでジュピターを操作し、回線に接続した。


 「はい、できたよ。でもネットで何するの?」


 そうユズハが訊くと、フランはまたペチペチとジュピターを操作しヘマゾンという世界大手の電子書籍サイトの画面を表示した。

  

 「電子書籍の本も欲しいの?」

 

 「うん」


 フランの返事にユズハはヨルをジロリと見た。ヨルはユズハの横に移動すると、こそっと耳打ちした。


 「ここだけの話、10億ケルトくらいまでは払えるから。」


 「はぁ......そうですか......。」


 二人が銭勘定をしている間、イズミはぼんやりと空を見上げ、呟いた。


 「空は広いなぁ、青いなぁ、綺麗だなぁ」





 「じゃあ買い物は一通り終わったけど、これからどうする?」


 ヨルがみんなに尋ねる。するとフランが公園先の池の方を指差した。


 「もう少し散歩したいの?じゃあ私はフランくんと散歩してから帰るよ。」


 「じゃああたしたちは先に帰っとくねぇ。そろそろ次の仕事も入るかもしれないし。」


 そう言って、ヨルとイズミ、フランとユズハは別行動となった。






ヨルとイズミはのんびりと歩きながら帰り道を歩いていた。


 「今日は一体いくらフランくんに投資したことやら...... 」


 「ほんとだねぇ。でも将来何倍も返してくれるかもしれないよぉ?」


 「それには僕も期待してる。ところで、さっきから尾けてきてる人いるよね?」


 「そだねぇ。2人だね。クラスターかな?」


 「かもしれないけど、僕らはまだそこまで顔売れてなかったと思うよ」


 ヨルがそう言いながら、徐々に顔から生気がなくなっていく。


 「まずい...... 僕らが尾けられてたってことは、フランの方も...... 」


 「それは参ったねぇ」


 そう言って2人が振り返る。


 「初めまして、だよね?僕らに何か用?」


 「あぁ。大事な用事がある。お前らはここで終わりだ。」


 1人は短髪の比較的痩せ型で、もう一人はサングラスをかけている。



 それを聞いてヨルはイズミに語りかける。


 「イズミ、フラン達のところへ行って。ここは僕1人でなんとかなる。」


 「ほんとに大丈夫?五体満足で追ってきてね」


 それを聞いていた2人の男のうちのサングラスの男が怒気を膨らませながら言い放つ。


 「ここから逃すと思うか?さっき言っただろ?ここで終わ......」


 そう男が脅していたその瞬間に、イズミは消えていた。目線を一切外していなかったのにも関わらず、いつの間にかイズミは視界から消え、気配すら完全になくなっていた。



 「やろう...... 何をしやがった」


 「それを君たちが考える必要はない。僕だけで楽しませてあげるから」


 そう言いヨルは近くにある20階程度のビルの頂上まで昇っていき、2人もそれに続いた。


 「ここなら好き放題やれるよ?周りにも見えないようにしたし」


 「ご親切にどうも。だがお前、これから死ぬんだぜ?それ分かってんのか?」


 2人目の男が挑発気味に食いかかる。


 「どっちが死ぬかはそれこそすぐに分かることじゃないか」


 そう言って双方戦闘態勢の構えをとった。




 「おかしい......人がさっきから全くいない」



  フランとユズハは公園内を散歩していたが、ユズハがすぐ異常に気づいた。


 「それにさっきと同じ景色。いくら広い公園とは言ってもこれはもう」


 ユズハは思考を切り替えた。


 「フランくん、絶対に私の近くにいて。離れちゃダメよ」


 「うん」


 フランも只事ではない何かが起きているのが分かった。


 数秒の後、突如後ろから殺気を感じた。


 ユズハが脳の命令の限界を超えた速さでフランを抱え、横に飛ぶ。


 「一撃で死んでくれれば、あなた達苦しまずに済んだんだけどなあ」


 そう言い放つ女が前方にショートヘアの女が1人、自分たちの後ろにドレッドヘアの男が1人。


 「「フランくんはまだ戦い方を知らない。私でなんとかするしかないわね」」


 ユズハはそう考えていたが、フランは自分も戦うべきだという思いに駆られていた。そのために、まだたった数日だけだが必死の思いで訓練をしてきたのだから。


  

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