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獣の狩人  作者: 朝陽乃柚子
居場所
11/32

第10話

 「どういうことなの...... 」


 ヨルは生まれてきて最大の不条理を感じていた。



 「きゃーー、可愛い!!」


 「ぼくちゃん、注文お願いしても良いかしら?」


 「外にいたワンちゃん、超でかくなかった?」


 「でかいでかい!でもいいよね。ブサかわってやつだよね。しかも真っ白な子滅多にいないよ」



 


 約20分前



 「イズミ、やっと来てくれた。早く厨房におねが......フランくん?それにマックスも、どうしてここに?」


 「それがねぇ、団長がフランも手伝ってこいだってさ」


 それを聞いてヨルが嫌な予感を感じ、イズミに聞く。


 「イズミちゃんが厨房ってことは、フランくんは接客??」


 「そういうことになるねぇ」


 「いやいやちょっと待ってよ!!この子話せないんだよ!?どうやって注文取るのさ」


 ヨルがイズミに食い気味に問いかける。その時ユズハがひらめいた。


 「いっその事、お客様に言っちゃえばいいんじゃない?」


 そう言って、ユズハはカウンターの中央に立つ。


 「お客様!本日はお越しいただき誠にありがとうございます。ただ今満席でお客様のいただいたご注文が遅れてしまっております。そこで一人新人の店員を入れるのですが、お客様にご容赦いただきたいことがございます。」


 そういうとユズハは軽く息を吸って再び話し出した。



 「ですが彼は先天性の障害で言葉を話すことができません。ですがお客様のご注文を取ることはできます。お客様には大変ご不便をおかけいたしますが、彼も一生懸命対応させていただきますので、よろしくお願いいたします。」



 そう言ってユズハはフランを手招きし、ユズハの横に立った。



 その途端、店内がざわざわと騒ぎ出した。


 「この子、可愛い......」


 「何歳なのかしら。でもこんな子が料理運んでくれるなんて嬉しいかも」




 そした時は今に至る。



 「フランくん、完全にマスコットになってるね......」


 「でもいいんじゃないかなぁ。お客さんにも受けがいいし」


 そう言ってユズハとイズミはフランの方を見る。



 「ぼく、注文お願い」


 客の一人がフランに注文を頼んだ。フランはテクテクと歩いて行き、二人組の女性にニコッと微笑みかける。


 「えっとね、サンドイッチ2つと、アイスコーヒー2つお願いね?」


 フランは女性の注文を伝票に書き込み、それを女性に丁寧に見せた。


 「うんうん、それで大丈夫。ありがとう」


 ポニーテールの方の女性がそう優しく言った。するとフランはぺこりと頭を下げると、カウンター奥へてくてくと下がっていった。


 「一生懸命なところがいいわね。」


 「そうだよね。私たちは結果で見られるけど、なんていうか、あの子を見てると初心の気持ちっていうの?思い出すわ」


 フランが店員としてしっかり活躍している頃、マックスも玄関外で己の役割をしっかりと果たしていた。


 「この子ほんと大きいよね。世の中にこんな大きいワンちゃんいるんだね。」


 「名前なんだっけ?」


 サバサバした感じのOLが、マックスの首輪にかかっているプレートを見た。


 「マックスだって。ぴったりの名前じゃない。」


 「マックス、お手!」


 そういってもう一人の純粋そうな女性が指示をした。」


 それにマックスが従い手を女性の手に置いた途端、ドン!と重量を感じさせるように女性の手が沈んだ。


 「重い!!さすが大っきいワンちゃんだね」


 どんどんギャラリーが集まり、文字通り玄関前はたまり場と化していた。


 「ねえねえマックス、何かすごいことをやって!」


 マックスの側にいた子供が、もはやピエロに要求するかのようにお願いをする。


 するとマックスは、一旦伏せの姿勢を取ってから、後ろ足を大きく蹴り跳躍し、後ろに宙返りをした。


 その途端、割れんばかりの拍手が送られる。そしてマックスはまんざらでもない表情をしていた。



 外の騒めきを聞いて、ヨルはポツリと呟いた。


 「マックス輝いてるなぁ」

 

 それにイズミとユズハが続いた。


 「これからはマックスはこっちにいてもらうのがいいかもねぇ」


 「いや、時々現れるから珍しいものが観れると思って、価値が上がるのよ!」


 そんなことを少しの間やりとりをしていると、フランが伝票を持ってきた。


 「フランくんもありがとね。おかげで大盛況だよそれじゃ、2番テーブルにこれお願いね」


 そういってユズハがナポリタンのパスタが乗せられたトレイを渡す。フランはてくてくと客のところに持っていく。


 「フランくん、ありがとう!1つづつでいいからね。」そういってスーツを着た女性が頭を撫でる。


 すっかり名前も覚えられたフランは、ユズハを抜いてカバのたまり場一番の人気店員になっていた。





 「どうだ、面白い奴だろう?」



 「ああ、俺は自分の子供以外は基本嫌いだが、この坊主は今見たとこだが少々気に入ってるぞ。」


 ヨルとサルガルドが機械のつまったモニタールームで話をしていた。今日サルガルドは普通の洋服だった。



 「家族のことは何か分かったか?」


 

 「得られた情報は少ないが、かなり厄介なことになってるのは違いねえ。」


 「結論から言う。この国では治療師の数と質が足りないことは団長も知ってる通りだが、それと坊主の家族には関係がある。どうも他国との差を埋めるため、汚れ仕事専門のクラスターが俺たち側の身元が消えても不自然じゃない治療師を拉致しているらしい。そして拉致された治療師は自分の技術を提供させられ、最悪の場合は人体実験などで治療師の技術を無理やり解析し、医療技術の向上を図っている。クラスターの内通者から得た情報だ。」


 サルガルドが調査の概要を淡々と説明していく。


 「それがフランの家族を誘拐したという事実を証明したことにはなならんぞ」


 「もう1つ。その内通者によれば、最近クラスター内部の医療班のレベルが急激に向上したそうだ。具体的に言えば、四肢切断、首が取れかけたりしてた奴ですら治療できてるらしい。そんな技術は本来この国にはない。」



 「そういうことか」


 サンは顎に手を当て、何か手はないかを考えていた。



 「坊主には知らせるか?」


 「いや、まだだ。今は手出しができない。その時がきたら俺から話す。ただ、こういう厄介ごとは向こうから来ることもしょっちゅうだが。」


 「その時はどうする?」


 「その時はそれこそ運命だ。腹を決めさせる」



 下で自分の未来が語られていることをフランは知らなかった。






 「いやー、今日は大変だったね。でも二人の活躍でどうにかなった。ほんと良かった良かった」


 ヨルが汗をぬぐいながら話す。



 「そうだね。特にフランとマックスはよく頑張ったよ。売上なんて、もしかしたら過去最高かもしれないよ」


 「ウォン!!」


 マックスが俺のおかげだと言わんばかりに吠える。


 「フランお疲れさまぁ。大車輪の活躍だったね。疲れてない?」


 「うん」



 「え?フランくん今......」


 「うん」


 「話せるようになったの!?」


 ヨルがフランの顔を覗き込む。


 「うん」


 「他のことは話せる?」


 イズミが尋ねる。


 「うん」


 「何かうん以外のこと言ってみて」


 「うん」


 「......」


 三人で顔を見合わせる。


 「どうも、今話せるのは"うん"だけみたいだねぇ」


 「でも、大きな進歩だよ。フランくん、お仕事楽しかった?」


 「うん」


 「うんしか言えないんじゃなくて、本当に楽しかったんだよね?」


 イズミが疑心暗鬼になって尋ねる。


 するとこれが証拠だとばかりに、フランは頷いた。


 「やっぱり頑張ってると良いことがあるんだね」


 「ヨル、あんたもたまには良いこと言うじゃない......」


 「はい......。ありがとうございます......」


 いつものヨルを茶化し、みんなで笑い合う。


 




 「「これが、家族なのかな......」」


 家族を知らないユズハにとって、この時初めて抱いた感情だった。


 

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