目指せキャリアウーマン
結婚した自覚を覚えるどころかむしろ忘れ去っていく今日この頃。
私は少しばかり落ち込んでいた。
それというのも先日初めて行った夜会の件である。
女学院の頃から周りはなにかと夜会に参加して自分を売り出していたのを見てきた。
それこそ色鮮やかなドレスに頬紅さして、期待に満ちた顔で夜会にのぞむ彼女たちに憧れていたのである。行きたい気持ちを抑えて私はまだその時ではないと言い聞かせ勉学に励んでいたのも今では懐かしい。
恋という名の婚活、彼女たちにとっては一生をかけた営業なのだ。
女学院ではそこで何があっただの言い寄られただの振られただの一喜一憂する姿…私の“夜会”というものへの期待値はすこぶる高かった。
高かったのだ…。
過去形で。
(一度も踊れなかった…)
そりゃそうだ。
旦那様から付き添うよう言われた夜会なのだもの、想像するのは容易かったはずなのに、心のどこかで夢みていた。
しかしながら私は既婚の身なわけで…女学院の生徒だった彼女たちとは立場が違う。
旦那様からダンスをこわれるでもなくひたすら仕事的な付き合いに徹して終わった。
初めての夜会。
なんだか寂しい…。
いや、そのうち旦那様の行かない夜会に行けば恐らくダンスの一つや二つ踊れるはずだ、とは思うものの、乙女の初めては何かと“特別”でないといけないと私は思うのだ。
まるで魔法がかかるような目の覚めるような出会い、燻るような淡い期待は脆くも砕け散った。
(まぁ、特別と言えば特別と言えなくもないけれど…こんなんじゃないわ…)
まさかここまで業務的な夜会デビューが存在するなど誰が想像できるというのか…。
(せめて旦那様が踊ってくだされば良かったのよ…)
ベッドに突っ伏して心の中で八つ当たりをしてみる。いや、旦那様は悪くはない。夜会で踊らなければならないルールなどない。ましてや出会いを求めるでもない夫婦だもの、連れて行ってくださっただけでも感謝しなければいけないわよね。
でも、いや、だって
たくさんの後悔と文句と納得と説得が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
私の“初めて”はこうして一つ埋もれていくのであった。