普通の恋が、したい
放送が入ったのはお昼休みのことだった。
『生徒の呼び出しを申し上げます。エミリア・キース、応接室まで来なさい。繰り返します…』
「え…?」
私は給食を食べようとしていたというのに、突然の校内放送に我が耳を疑った。
周りもざわつく。
参観日のこのタイミングの呼び出しの理由を誰もが理解しているからだった。
「まさか…ウソでしょ?」
私は絶賛小汚い顔メイク中である。
今日はむしろ吹き出物がかなりリアルに出来ていたし近くで見ても触らねば偽物だなんてわからないようなつくりをしていたというのに。
きっと何かの間違いだ。
このタイミングの呼び出しだっただけで先生の急用とかに違いない。
私は給食をそのままに席を立ち応接室へと向かった。
応接室に入るとそこには担任の先生とスーツを着た見知らぬ男が居た。
「なにか御用でしょうか」
嫌な予感を覚えながらも部屋の中に入る。
ソファに座ると向かいの男がにこりと笑った。
「突然ですまないが、君に是非うちの若君との縁談をと思ってね。」
壮年、というにはもう少し若い男の人は表情を崩さない。
逆にそれが無言の圧力にも思うけれど、ただ私が緊張しているだけかもしれない。
この国では女性の身分はそう高くない。
働くのも学院を卒業せねばならないし、その前に縁談がまとまれば退学するのが当たり前。
このように言われて私が返す言葉はひとつしかなかった。
「慎んでお受け致します。」
もう一度言おう。
この国で女性の身分はそう高くない。