サロンと友達と私
私の努力は日進月歩。
進んでいるような進んでいないような。でもいつの日か実を結ぶと信じ行動するのは悪くない日々である。
サロンへ通い始めて2週間。
週に二度しか顔を出していないというのに私には男性の友人ができた。
ハリス・ライド様
私が初めて行った日、いろんな部屋があったけれど、集まりが少なく少人数で、隣国での舞踏会やマナーについて語りあう方々の輪に混ぜていただいた。
他国へ行ったことのない私は聞き手に徹する他ないがなにより外の国の話というのは面白い。
中でも隣に座っていたハリス様は隣国に良く行ってらっしゃるらしく、食べ物や服装や学校の制度などについて教えてくださった。
私が特に興味を持ったのは学校の話である。
「隣国では男女共学で、貴族であっても結婚は自由恋愛なのです。その分、教師陣は男女の色恋沙汰に目を光らせねばなりませんが、実に良いと思いませんか?」
「すごい…女性でも働けるのですか…?」
「ええ、もちろん。男女変わりない授業を受けるのもそれがそもそも目的なのだとか。やはり女性の社会進出の可能性は国が見出すべきであると痛感していますよ。」
そんなことがあるのかと思った。
世界の広さを垣間見た瞬間である。
気がつけば周りの方々は一人、また一人と減っていて、どうやらまた別のグループの場所へ行ったようでした。とうとう同じ所で残ってまで話しているのは私とハリス様だけになっていたのです。
「私は、職業婦人になるのが夢でした。女学院へ行っていたのもそのためでした。」
「貴方ほど美しい方でしたら女学院は卒業できないでしょうね。」
彼は困ったに笑ってくれた。
私はゆるゆると首を振る。
「一応縁談を避けようと努力はしたのですが、上手く行きませんでした。」
「なるほど。…うちの姉と同じですね。」
「え…?」
彼は視線を落とし、寂しげに言う。
「私の姉も職業婦人になりたがっていました。しかし8年前に縁談が来てしまい、黙って嫁いで行き、それ以来会ってはいなかったのですが、昨年亡くなりました。」
「…そんな…」
「流行り病と聞かされたので仕方がないと両親は割り切っていましたがね。」
私は言葉が出なかった。
「この国では女性は生き辛いですか…?」
「…わかりません。女学院では縁談を楽しみに待つ女性で溢れていたのも事実です。」
そうだ、輝く女の子たちを見て憧れたのは私も同じだった。
働きたい想いが強くて縁談を遠ざけていたけれど、それがなければ恐らく私も縁談のために努力を惜しんでいなかったしきっと楽しみにしていたに違いない。
「縁談はいつ…?」
「半年ほど前ですね。とても…尊敬できる旦那様です。」
「そうですか…貴方のように慎ましい女性が妻ならば夫となる方もさぞ幸せでしょうね。」
「真意はわかりません。ほとんど話したことはないので…。実のところ旦那様自身のこともよくは知りません。」
「半年も経つというのに…?」
「ええ、でも働きたいという夢を旦那様は認めて下さって、お仕事のことだけは話しますが、あとは全て不介入という約束なのです。」
初めて会う彼に言ってしまっていいのか迷って少し言い淀んだ。
ぽろっと零したけれど、けれどこれ以上は言わない。
「また、お会いできますか。」
なんで、とかなんのために、なんて余計なことは一切聞かずに彼はただただそう言った。
そのことに酷く安心させられる。
私は「もちろんです。」と返してその日は切り上げた。
待合所で待ってくれていた執事さんと合流し、馬車に乗り込む。
帰る間際、建物に目をやれば彼が窓辺で小さく手を振ってくれていた。
それからサロンに行くたびに彼が来ていないか探し、会えばまたお互いの近況を話す友人となったのである。